【派遣法】繰り返される「『正社員化』を促進する」という安倍総理の無理な説明
派遣法案の本格的な審議が7月30日から始まりましたね。
ニュースにもなっていました。
是非、時間をかけてしっかり討議してもらいたいものです。
ところで、この派遣法案について、安倍総理が繰り返し強調していることがあります。
それは、
正社員を希望する派遣労働者について、その道が開けるようにする
というものです。
以下、安倍総理の発言を、一部ですが、並べてみましょう。
安倍総理の発言内容
これは衆院本会議で、自民党議員からの質問に対する答弁です。
この本会議では、安倍総理は他党議員に対してもほぼ同じ内容で繰り返し答弁しています。
そして、これと同内容の答弁は、衆議院厚生労働委員会でも述べています。
6月19日、派遣法案が衆院の厚労委を通過してしまった日に行われた、締めくくり質疑において、民主党議員からの質問に対する安倍総理の答弁です。
この内容は共産党議員への答弁でも同様です。
その後、衆議院を通過した法案の参議院本会議での答弁でも同じ内容を繰り返します(公明党議員への答弁)。
本当に正社員化への道を開いているのか?
安倍総理がオウムのように繰り返す、「今回の改正案では、正社員を希望する派遣労働者について、その道が開けるようにするため」だというのは本当でしょうか?
安倍総理の答弁からすると、
「派遣元の責任を強化し、派遣期間が満了した場合、正社員になったり、別の会社等で働き続けることができるようにする措置」
と
「計画的な教育訓練を新たに義務付ける」
この2つが正社員化への道を開くもののようです。
では、具体的に法案を見てみましょう。
まず、最初の安倍総理が言っている派遣期間が満了した場合に、正社員になったり、別の会社などで働き続けられるようにする措置というものですが、これは法案の30条「特定有期雇用派遣労働者等の雇用の安定等」というところに書いてあります。
その雇用安定措置は次の4つです。
法律なのでわかりにくいですが、安倍総理が言っている「正社員になったり」というのはおそらく1号と3号を指し、「別の会社等で働き続けることができるようにする」は2号を言っているのではないかと推測されます。
まだ法律が成立していませんので、省令はありませんから4号ではないのは明らかですね。
まず、2号ですが、これは要するに別の派遣先を紹介するというものですから、安倍総理の言う「正社員化への道」とは全く無関係な規定ということになります。
条文にも「派遣労働者として就業させることができるように」と明記されていることからも明らかですね。
そうなりますと、そもそも安倍総理が「正社員を希望する方についてその道が開けるようにするため」として、これを挙げていること自体、ゴマカシの答弁だということになります。
次に3号ですが、やや分かりにくいですが、これは要するに派遣元が派遣する社員としてではなく、派遣元の管理業務などの仕事をする社員として、無期雇用する、というものです。
ただ、これをよく読むと、あくまでも「機会」を確保・提供すればよく、現実にそうした形態で雇用することまでは求めていません。
無期雇用の「機会」は与えたけれども、あなたの能力では無理ですとか、ポストが空いてませんでした、などといって、お茶を濁されることが想定され、正社員化へつながる措置としては、何とも脆弱なものです。
そもそも派遣元が期間満了の派遣社員を次々に「正社員化」するという見込み自体が甘いと言えそうですね・・。
最後に1号ですが、これは要するに派遣元が派遣先に派遣労働者を直接雇用して下さいとお願いすることです。
派遣元は「お願い」だけすればこの義務を果たしたことになります。
また、派遣先はその「お願い」を受け入れる義務はありませんので、断ることも自由です。
この制度は、派遣先企業の善意に頼るだけの措置であって、とてもじゃないですが、正社員化への道が開かれるような措置ではありません。
結局、これらの措置を、正社員を希望する派遣労働者に正社員の道を開くもの、という安倍総理の言い方は、かなり無理があるということになります。
次に、計画的な教育訓練を新たに義務付けるとしている点を見てみましょう。
これは法案の30条の2に書いてあります。
条文では「段階的かつ体系的な教育訓練等」というタイトルがついています。
条文は次の通りです。
要するに、派遣元が、自社の派遣社員を教育訓練することを義務づけたものです。
ですが、これは正社員化のための教育訓練ではありません。
条文にも「派遣就業に必要な技能及び知識を習得することができるように」とありますね。
あくまでも派遣労働者としての枠を超えない教育訓練となります。
したがって、安倍総理がこの制度をもって、「正社員化への道を開く」とか、「正社員への移行を一歩でも前進させるため」などと答弁するのは、相当無理あるものだということが分かります。
無理やり「正社員化」を持ち出すのは何故?
安倍総理は、なぜ、これほど強引に「正社員化に道を開く」などと繰り返し述べるのでしょうか。
それは、この法案が通ると派遣社員が激増するということを誤魔化すためです。
実は、この法案が通った場合に派遣社員が増えるかどうか、という野党議員の質問に対し、安倍総理も塩崎厚生労働大臣も正面から答弁しません。
ただ、この法案の推進派も反対派も共通している認識が一つだけあります。
それは、この法案が通ると派遣社員が増えるという見込みです。
反対派は、「正社員ゼロ法案」と呼ぶこともあるので、派遣社員が増えるという見込みをもっていることは明らかですね。
他方、推進派も、派遣業界自体が、この法案が成立するのを首を長くして待っている現状が同じ見込みを持っていることを表わしています。派遣業界にとっては、ビジネスチャンスが増える法改正である、つまり、派遣社員の利用が増える法改正だと考えているということです。
そうなのですが、政府だけは、絶対に増えるとは言わず、正社員化への道を開く、という逆方向の説明に終始しています。
しかし、このような説明が誤魔化しであることは、上記に見たとおり明らかです。
今後の参議院での議論も要注目です!