“パティスリー界のピカソ”ことピエール・エルメ氏が注目する、日本の「食」の可能性とは
世界的パティシエ、ピエール・エルメ氏が日本に注目する由来
晴天に恵まれた2021年4月15日、表参道駅からほど近い屋外のイベントスペース「COMMUNE表参道」で、1日限りの「Made in ピエール・エルメ高知マルシェ」が開催された。この企画は、2021年4月16日(金)~7月31日(土)に「Made in ピエール・エルメ」各店舗で実施される「Made in ピエール・エルメ<高知フェア>」のキックオフイベントであり、誰でも参加できるオープンスタイルで、午前中から夕方まで開催された。
「Made in ピエール・エルメ」は、21世紀のパティスリー界を先導するパティシエとして、フランスを拠点に世界的に活躍するピエール・エルメ氏が、2018年に立ち上げたブランドだ。第1号店は、この年の11月、丸の内に開業した新たな商業施設「二重橋スクエア」1階にオープンした。
ピエール・エルメ氏のブランド「ピエール・エルメ・パリ」の世界一号店は、実はフランスにも先駆けて、1998年に東京・赤坂の「ホテルニューオータニ」内に初出店している。エルメ氏は以前から日本をこよなく愛し、日本各地の農家や産地を度々訪れ、すぐれた素材や生産者との出会いを追求してきた。たとえばかつて「ワサビ」の産地を見学した際は、その中に隠されたほのかな甘さを見出し、苺と合わせて菓子の素材にしたこともある。
そんなピエール・エルメ氏が選りすぐった日本の素晴らしいものを世界へ発信する「Made in ピエール・エルメ」は、その後、2020年8月に東京駅構内の“駅ナカ”商業施設「グランスタ東京」に開業。12月には東京・吉祥寺駅直結の商業施設「キラリナ京王吉祥寺」にオープン。そして2021年4月19日(月)には、福岡空港国内線旅客ターミナルビル3Fに出店。今後も店舗を増やしていく予定だという。
ブランド誕生3年目を迎える2021年からは、ブランドコンセプトをより強く発信するため、日本各地の地方自治体と手を携え、その地方の優れた生産者や商品を紹介するフェアを3ヶ月ごとに開催していく。その皮切りとなるのが、今回の「高知フェア」だ。
日本で新たなファン層を広げるピエール・エルメ氏のブランド
ピエール・エルメ氏の右腕として活躍してきたパティシエであり、エルメ氏のブランドを日本で展開する「PH PARIS JAPON 株式会社(ペーアッシュ パリ ジャポンかぶしきがいしゃ)」の代表取締役社長を務めるリシャール・ルデュ氏曰く、家族経営規模で始まったエルメ氏のブランドが、近年は200名を超える人財を抱える規模に成長し、日本以外のアジアにも拠点を置いて拡大し続けているという。
これまでにも、様々な企業やアーティストとのコラボレーションで話題を呼んできたが、2020年1月には、「ミスタードーナツ」と共同開発した「misdo meets PIERRE HERME『パティスリードーナツコレクション』」が限定販売され、ピエール・エルメ氏の代表作の味わいを再現したフレーバードーナツで、幅広い層に注目された。さらに同年7月より、「セブン-イレブン」限定で考案したスイーツ「ピエール・エルメ シグネチャー」が順次発売され、カップ入りの層状ケーキやエクレアといったなじみやすい品で、さらにファン層を広げている。
従来の「パティスリー」の既成概念を超えた“次世代のパティスリー”へと進化し、発展し続けるエルメ氏が、今後どのような方向へ進むのか? 修業時代にエルメ氏の菓子を初めて食べて衝撃を受けた、という日本のトップクラスのパティシエ達も、大いに注目する。
今回の「高知フェア」では、高知産柚子を使ったマカロンを含むマカロン6種の詰合わせや、抹茶と高知産柚子のブラウニー、柚子ピール入りクッキーなどのスイーツが登場。既に商品化されている土佐山のオーガニック生姜を使ったジンジャーエールも、「Made in ピエール・エルメ」各店で引き続き販売される。今後、「高知アイス」とのコラボによる高知産柚子や天日塩を使ったジェラートなども登場予定だ。
さらに、四万十川流域で栽培される煎茶やほうじ茶、高知産野菜のドレッシング、はちきん地鶏やカツオの缶詰、高糖度のフルーツトマトから作られるケチャップなど、幅広いラインナップで、高知の生産者とのコラボレーション商品が順次販売される。
フードロスにも配慮、日本の「モノづくり」を活性化
リシャール・ルデュ氏が手に取って見せてくれた「Made in ピエール・エルメ」ブランドの瓶詰は、クラウンメロンベビーとオレンジのスウィートピクルスだった。その中には、クラウンメロンの栽培中に間引きされた、幼い“ベビーメロン”が活かされているという。「今、既に商品化されているのは、他県で作られているメロンを使ったものですが、高知で出会った『西島園芸団地』の生産者が作るメロンやスイカはとても素晴らしい。今後、高知産のメロンを使ったピクルスも作っていきます。」というルデュ氏。
世界でも「フードロス」削減への関心が高まる中、従来は廃棄されていたものを有効活用できるような方法も探しながら、これからも日本のすぐれたものを発見していきたいそうだ。
2021年4月19日にオープンした福岡空港内の新店舗「Made in ピエール・エルメ 福岡空港」では、日本の素晴らしいものを紹介するというブランドコンセプトに沿い、有数の家具産地である福岡県大川市で創業70年の家具メーカー「モリタインテリア工業」の協力を得て、店舗内装に合わせた椅子などを作ってもらったという。今後、福岡産の素材を使ったスイーツなども開発してきたいと、意気込みを語った。
いずれ新型コロナウイルス感染拡大が収まり、フランスと日本との行き来が再び自由になったら、ピエール・エルメ氏も、また積極的に日本を訪れ、生産者との交流をより深めていくだろう。世界一流のパティシエが認めてくれたという自負は、日本の「モノづくり」を担う農家や職人にとっても、大いに励みとなるに違いない。そこから、新しい時代の食文化やライフスタイルが育っていくことを楽しみにしている。