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【マニアック】派遣法案附則9条問題の解説と迫る強行採決の危険!

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
絵 ささきりょう パクリじゃありません。オリジナルです。

今日の参議院厚生労働省の審議で話題になった審議中の派遣法案の附則9条の問題。

とてもマニアックでわかりにくい話かもしれませんが、できるだけ簡単に解説をしておきます。。。

いびつな附則の解釈

派遣法案の附則9条は次のとおり経過措置を規定しています。

新法第40条の2の規定は、施行日以後に締結される労働者派遣契約に基づき行われる労働者派遣について適用し、施行日前に締結された労働者派遣契約に基づき行われる労働者派遣については、なお従前の例による。

出典:派遣法案附則9条

ここでいう派遣法案の40条の2は期間についての条文です。

この条文を変えることで、派遣先は、人さえ変えれば事実上ずーっと派遣社員を受け入れることができることになります。

で、これは新法施行日後の契約に適用するよというのが附則の前段部分の意味です。

問題となるのは「施行日前に締結された労働者派遣契約に基づき行われる労働者派遣については、なお従前の例による。」という後段部分です。

素直に読めば、施行日前に契約された派遣については新法施行後も現行法を適用するよ、という内容になっているわけです。

この点は、厚労省も説明のペーパーで、「改正法案施行直前の時点で施行されている労働者派遣法40条の2(業務単位の期間制限)及び関連規定(法第40条の4等)を、改正法施行後も適用する効果を持つものである」と記載しています。

労働契約申し込みみなし制度はどうなるの?

では、未施行の法律、つまり労働契約申し込みみなし制度はどうなるのでしょうか?

念のため、おさらいとして労働契約申込みみなし制度とは、次のような制度のことです。

派遣先が違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れている場合、違法状態が発生した時点において、派遣先が派遣労働者に対して労働契約の申し込み(直接雇用の申し込み)をしたものとみなす制度

要するに、違法な派遣があった場合、派遣先と派遣労働者の間に、直接労働契約を成立させるよ、ということです。

ここで「違法」とは、次の4つの場合です。

1、派遣禁止業務の派遣

2、無許可・無届の事業主からの労働者派遣の受入れ

3、派遣可能期間を超えての労働者派遣の受け入れ

4、脱法目的で行われた偽装請負等

この違法が1つでもあった場合、派遣先企業は派遣労働者を直接雇用することを申し込んだとみなされます。

派遣先が、派遣労働者に労働契約を申し込んだとみなされるため、派遣労働者はこれを承諾をすれば、派遣先と直接の労働契約を結ぶことになります。

でも、これは平成27年10月1日の施行のため、成立していますが、施行されていない法律ということになります。

おかしな解釈、厚労省

厚労省は未施行の法律は「なお従前の例による」で適用される規定に含まれないと説明しています。

理由は、新法施行直前の法律制度をそのまま凍結した状態で適用するから、未施行の法律はその時点で効力がないので含まれないということのようです。

しかし、「なお従前の例による」の意味ですが、これは「法令用語ハンドブック」に次の記載があります。

「なお従前の例による」は、(中略)ある法制度を包括的に利用して、他の事柄についてその法制度と同じに扱うものとすることである。したがって、この場合には改廃法令の施行時点より前の法制度を包括的に適用するという点に特色がある。

出典:法令用語ハンドブック[三訂版](田島信威著 ぎょうせい)

施行時点より前の法制度を包括的に適用する・・・とありますね。

仮に派遣法案が成立して、それが9月30日までに施行されたとしますと、その施行時点では、どういう法制度が存在しているといえるでしょうか?

それは、施行済みの法律が存在していることは当然として、未施行の法律も、施行日を待っている法制度として存在していることになります。

そもそも、現時点において、労働契約申し込みみなし制度の施行日を平成27年10月1日から先に延ばしたという改正もなければ、この制度を廃止したという事実もないのです。

「施行済みの派遣法+労働契約申し込みみなし制度が10月1日から施行される」

これが現時点における派遣法の法制度なのです。

したがって、「従前の例による」には、当然、10月1日の施行日を待っている労働契約申し込みみなし制度も含まれることになるのです。

ところが、先ほど指摘したとおり厚労省はこれを認めません。

もし、これを認めてしまうと、労働契約申し込みみなし制度の適用場面が生じるからです。

なんとしても労働契約申し込みみなし制度の威力を削ぎたい、それがこの派遣法案の目的ですから、そこは曲げられないのでしょう。

強行採決の危険が!

しかし、政府・与党は、この派遣法案を強引に通そうとしています。

安倍総理は、この改正を派遣社員のためだと繰り返しウソをついていたのですが、調査では派遣社員の約7割が反対となっており、そんなウソはすっかり見抜かれてしまっています。

派遣社員、7割近く法改正案「反対」 本社など調査 地位向上に懐疑的、正社員希望6割超す

ところが、参議院厚生労働委員会は、9月3日午前に安倍総理出席の下で審議を行う日程が入ったといいます。

総理出席の審議が入ると、採決へ向かっていると見て、間違いありません。

9月3日の次の厚生労働委員会の定例は9月8日ですので、この日に強行採決の危険があります。

採決反対の声を、是非、参議院の厚生労働委員(特に与党の委員)へ届けて下さい!<m(__)m>

参議院厚生労働委員会名簿

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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