通学時など、子どもの安全を守るのは誰か
昨日(5/28)、川崎市で本当に痛ましい事件が起きた。小学生ら19人が包丁をもった男に刺され、6年生の女の子と39歳の保護者が亡くなった。また、先日(5/8)も保育園児と保育士が犠牲となる交通事故が起きたばかりだ。
こういう事件、事故が起こると、通学時などの子どもたちの安全は大丈夫か、という話になる。ぼくも小中学生の親としてはとても心配だ。
「首相は28日、川崎市で女子児童らが襲われた事件を受け、柴山昌彦文部科学相と山本順三国家公安委員長に対し、全ての小中学校における登下校時の安全確保と、事件の迅速な全容解明を指示した。」(共同通信2019年5月28日)という。
川崎市教育委員会は全ての市立学校に対して、児童生徒の安全を最優先し、29日以降も含め、下校時の教職員による見守りを強化するよう要請した(教育新聞5月28日)。
宮城教育委員会は、昨日正午過ぎに、各市町村の教育委員会に対して、児童や生徒が通学する際の安全確保について、防犯態勢の見直しや警察との連携強化、不審者情報の収集や共有を進めるよう通知を出した(東日本放送5月28日)。
学校が警察等と連携を強化していくことにはぼくも賛成だし、子どもたちの安全確保は、社会全体で考えていく大切な問題だとは思う。
だが、学校や教師に過度に期待するのは、どうかと思う。
通学路の安全確保は学校、教師の仕事ではない
ひとつ、確認しておきたいことがある。
通学路の安全が大事なのはそのとおりなのだが、安全確保は学校(教師)の役割ではない。
先般も国の審議会(中教審)で学校の働き方改革についての答申が出たが、そこでも「登下校の通学路における見守り活動の日常的・直接的な実施については,基本的には学校・教師の本来的な業務ではなく」と述べ、「基本的には学校以外が担うべき業務」と仕分けている。
現状でも、教師が横断歩道に立って交通安全を呼びかけたり、先ほどの川崎市教委の指示のように、集団下校に付き添ったりしている例がある。こうした行動をアタマから否定するつもりはないが、そこまでやることがマストではない、ということは確認したい。だいたい、多くの小中学校では、児童生徒の登校時間(あるいは部活動のあとなどの下校時間)は、教員の勤務時間「外」であるが、緊急性がないかぎり、見守りをせよという職務命令は出せないはずだ。(公立学校の場合、いわゆる超勤4項目に該当しない。)
「子どもの安全が関わるのに、勤務時間だなんだとか言うな」という意見もあろうが、この理屈が正当ならば、教師の役割、責任はどんどん拡大してしまう。極端な話、夜遅くの塾帰りに子どもの安全が心配だから、教師に見守りをせよという人は、ほとんどいないだろうが。
通学途中の事故に関しては保険(災害共済給付制度)が適用される、医療費がかかると、一定の補償がなされる。このため、通学路の安全確保は学校の責任だと信じている教職員が多い。
だが、これは誤った認識だ。法律(学校保健安全法)を確認しよう。
学校、教師の役割として、交通安全のルールを教えることや保護者・警察等との連携は必要だが、通学中の見守りまでの責任があるとはされていない。保険で対象となるということと、学校の責任かどうかは別問題ということだ。
これは考えてみれば、ごく自然なことである。地域の交通安全や治安を維持、守っていくのは警察の役割だ。あるいは、しかるべきところにガードレールを設置することなどは、市役所や県庁、国交省等の道路管理者の仕事であって、学校の仕事とは言えない。
そして、日常的な児童生徒の通学中の安全が心配というなら、そこは、保護者の役割だということになる。
文科省や教育委員会が、通学中の安全について、各学校は再度気を付けるように、といった通知を出すのは、カネもかからないし、自由なものだが、学校、教師の仕事を増やさないでいただきたい。ましてや、通学路の危険箇所がないか調査して、報告を上げろといった指示が今後飛んでくるかもしれないが、そんな調査をしても、今回のような凶悪犯や車の危険運転をする人を防ぐことには、つながりにくい。教育委員会としては、「対策を指示しましたよ」というアリバイづくり以外のなにものでもない。(通学路の危険箇所やヒヤリハットを学校が保護者や地域、警察らと協力して可視化していくことなどの活動は意義があると思うが、今回のような事件はおそらく防げない。)
少し前にも、通学路のブロック塀の点検を教師がやったという地域は多いようだ。だが、教師はブロック塀が危険かどうかを判断する専門性は有していない。そこは、専門家に任せるべきなのだが、教師にやらせると、カネがかからないので(公立の場合、残業代はかからない)、教育委員会も仕事を押しつけてしまうのかもしれない。
今回の川崎の事件を受けては、現実的には、登下校の時間帯を中心に警察のパトロールを増やすなどを考えていくほうが、まだ筋がよいと思う。
学校への侵入者にさすまたで対抗できるのか?
もうひとつ、通学路の話ではないが、学校への不審者、侵入者対策についても触れておきたい。次の表は、平成28年3月時点での学校等(国公私立の小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、幼稚園、幼保連携型認定こども園)の防犯の対応状況である。カッコ内は前回調査(平成25年度)の数字。
この表のとおり、ほとんどの学校では、防犯対策として、「さすまた」を装備しているに過ぎない。警察には電話をすればよいということだろうか、警察との連絡システムという回答は35%にとどまる。
表にはないが、警備員(夜間警備、ボランティアによる巡回を除く)を配置しているのは、国立の小学校(国立大学の附属学校等)では100%だが、公立小学校は8.3%と大きな開きがある(私立小学校は64.7%)。
さすまたで、対策になると思う人は、ほとんどいないだろう。しかも、不慣れな人が使うと、むしろ犯人に奪われて危険が増す可能性もあるそうだ。
2018年6月に富山市で拳銃を奪った男が小学校に侵入し、警備員を殺害した事件があった。先日、富山のある教員に聞いたのだが、その後、学校へ防犯対策が充実したというわけではないようである(※教委には未確認なので、事実確認は必要な情報)。その先生は、「東海道新幹線で殺人事件が起きたことをきっかけに、JR東海は警備巡回を増やした。学校は事件が起きても、何も変わっていない。相変わらず、予算をかけようとしない。わたしたちは、子どもたちに危険が迫ったとき、人柱になれと言われているのでしょうか」と述べていた。
子どもたちを守るために、あまりにも教師の献身性に寄りかかった、脆弱な学校、地域が多いのだ。本当にこのままでいいのだろうか。
然るべきところに専門職(警察、警備員ら)を配置するなりして、ある程度予算をかけた上で、ここまでは行政でできるが、ここからは自衛で(つまりは家庭の責任で)というところも、もっと共有していく必要があるのではないか。