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世界で最初に開業したレストラン。その知られざる誕生秘話とは?

水上賢治映画ライター
「デリシュ!」より

 いまテレビをつけると朝から晩、深夜に至るまで、いわゆる料理や飲食店を扱った、いわゆるグルメ番組が溢れかえっている。

 午前や夕方のニュース番組にも必ず食リポコーナーが用意されているほどだ。

 街を歩いていても、「●●という番組で紹介されました!」といったようなポップが目に入ってくることはもはや日常だろう。

 これは、「食」に関する人々の関心の高さのひとつの表れにほかならない。

 ただ、それぐらい関心を寄せていても、そもそもまで考えることはほとんどないのではなかろうか?

 「この料理はどこどこ地方の名産で」や「この店は創業何年で」といったことぐらいまでは調べたりすることがあるかもしれない。

 でも、「いかにしてレストランは生まれたのか?」「いかにしてこの料理は生まれたのか?」といったことまでさかのぼって考えることないだろう。

 「美食の国」とよく称されるフランスから届いた「デリッシュ!」は、ある料理の誕生に、人々が集うレストランのはじまりに迫ろうとした1作だ。

 ただ、単なるグルメを扱った映画ではない。ひとりの料理人を通し、革命前夜のフランスの時代を、社会を風刺し、現代にも通じる痛快な歴史劇となっている。

 手掛けたエリック・ベナール監督に訊く。(全三回)

エリック・ベナール監督 (c) Charly atelier photographie
エリック・ベナール監督 (c) Charly atelier photographie

フランスのアイデンティティを形作るものに迫る作品ができないか、が出発点

 まず、本作のはじまりについてをこう語る。

「いわゆるジャンル映画を3作品を発表して、そのほかに自分の身内にオマージュを捧げた3作品を作り終えたとき、次の構想を考え始めたのだけれど、母国であるフランスと一度向き合ってみたいという思いが生まれました。

 その中で、フランスのアイデンティティを形作るものに迫る作品ができないか、と考え始めました。

 そこでフランスの歴史を振り返って考えたとき、フランス革命の影響は大きいのではないかと。

 ご存知だと思いますが、18世紀に起きたフランス革命は、絶対王政を一般民衆が倒した市民革命で封建的特権や王政の廃止、憲法制定などを実現させました。

 この革命がその後のフランスに大きな影響を与えていることは間違いない。

 そこで、どういう気運が高まってこういう革命が起きたのか、革命前夜に焦点を当てた物語をなにか描けないか、当初は考え始めました。

 なぜ、革命前夜なのかというと、なにか現代にも通じるものがあるのではないかと思ったんです。

 いまフランスに限らず、世界で格差や不平等が生じている。でも、いわゆるトップリーダーと呼ばれる人たちが、そこに目を向けない、見向きもしないような状況になっているような気がする。

 まさにこの状況は、18世紀の腐敗して堕落して市民に目を向けなかったフランス王室や貴族に重なる。当時と同じように社会の不平等や格差に苦しめられている人もたくさんいる。

 フランス革命前夜と、いまという時代は重なるのではないかと思ったんです。

 ということでまずはなにか脚本の種はないかと、18世紀についての文献に目を通す作業に入りました」

革命前は、貴族と庶民が同じ場所で食事をともにすることは決してなかった

 そこで、ひとつ目に留まったことがあったと明かす。

「18世紀について書かれた本をいろいろと読んでいたのですが、レストランのコンセプトの発明について触れたものがあって、そこに目が留まりました。

 18世紀、ヨーロッパでは啓蒙思想が広がって、一般市民がそれまで服従され続けてきた王族や貴族の支配層のやり方に異を唱え、立ち上がり、フランス革命へとつながっていった。

 で、映画で描いてますが、革命前は、貴族と庶民が同じ場所で食事をともにすることは決してなかった。

 ところが時代が動き始め、革命前夜にレストランのコンセプトが生まれ、レストランはその誕生と共に貴族も庶民も共に食事を楽しむ場へとなった。

 このことを知ったとき、『レストランの誕生』を土台にすれば、啓蒙思想が革命へつながっていく時代、一般市民と王政、フランスにおいて重要な食について、すべてを描けると思ったんです。

 このアイデアを起点に脚本を書き進めていいきました」

 そのリサーチの中では、物語には反映させなかったものの、監督自身、いろいろな発見があったという。

「食というのはほんとうに調べがいがあるというか。

 なじみのある料理も改めて調べてみると、驚きや発見がある。

 たとえば、よく知られていますけど、サンドイッチは、イギリスの第4代サンドイッチ伯爵こと、ジョン・モンタギューの名が由来とされている。

 彼がカードゲームをするのが好きで、食事をしながらもゲームをしたいから、パンにハムなどを挟んだものを作ってもらって食べていたのが、周りまわって、サンドイッチと呼ばれるようになったと言われている。

 こういうほんとうに映画にできればいれたいと思えるユニークなエピソードがいっぱいありました。

 でも、残念ながら作品にはほとんど入れ込むことができなかった。

 かろうじて、入れられたのはフレンチフライの始まりぐらい。それは、作品で確認してもらえたらと思います(笑)」

(※第二回に続く)

「デリシュ!」ポスタービジュアルより
「デリシュ!」ポスタービジュアルより

「デリシュ!」

監督:エリック・べナール

出演:グレゴリー・カドゥボワ、イザベル・カレ、パンジャマン・ラベルネほか

TOHOシネマズシャンテほか全国公開

場面写真及びポスタービジュアルはすべて(C)2020 NORD-OUEST FILMS―SND GROUE M6ーFRANCE 3 CINÉMA―AUVERGNE-RHôNE-ALPES CINÉMA―ALTÉMIS PRODUCTIONS

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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