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ユーヴェ、ピルロ監督は妙手か? ジダン風カリスマも高評価、前任の影消去で期待値アップ

中村大晃カルチョ・ライター
8月24日、ユヴェントスの新シーズン始動でのピルロ監督(写真:ロイター/アフロ)

始動から1週間あまり、ユヴェントスのアンドレア・ピルロ新監督に対する期待は高まるばかりだ。

8月25日、ピルロが新シーズン初の公式会見に臨んで以降、少なくない賛辞が相次いでいる。大きく注目された初会見で、新米監督はいくつかヒントを残した。

  • ボール保持と早期奪取がコンセプト
  • 戦術はシステムを固定せず柔軟に
  • 選手との対話・人間関係構築を重視
  • アントニオ・コンテ時代のスピリットを目標に
  • パウロ・ディバラは売らず、ゴンサロ・イグアイン構想外
  • 経験と経歴(OB)からイゴール・トゥードルの入閣を希望

口調は現役のころと変わらない。飄々とした話し方は、センセーショナリズムと無縁だ。だが、質問には即座にしっかり答える。ジネディーヌ・ジダンと比較する声もあった。ところどころで示す矜持、うかがえるカリスマ性も、似ているかもしれない。

◆基本路線に「正しい」と太鼓判

稀代の司令塔だっただけに、驚くことではないかもしれない。ピルロが思い描くスタイルは、カルチョ界を代表する指導者たちから支持された。

ポゼッションとハイプレスを重視する考え方に、アルベルト・ザッケローニは『ガゼッタ・デッロ・スポルト』で「正しい。欧州や、私が指導したアジアでも、これが唯一の道だ」と賛同している。

アッリーゴ・サッキも、同じ『ガゼッタ・デッロ・スポルト』で「正しい考えだ。彼は欧州での勝ち方を知るからね」と太鼓判を押した。

「攻撃サッカーを考えることが重要だ。どこでも相手にプレスをかけ、スペースをうまく埋めること。大事なのは、ピルロが求める選手がいることだ。変える意欲が見える選択だから、応援したい」

◆「名選手、名監督にあらず」だが…

優れたアイディアも、チームに浸透させられなければ意味がない。分かりきったことだが、「完璧にプレスできた優れた選手が、ベンチでそれを教えられないケースをたくさん知る」というサッキの言葉が、その難しさを物語る。

時にエゴイスティックなカンピオーネ(最高級の選手)たちをまとめるには、スムーズな人間関係を築くことが必須だ。マウリツィオ・サッリ前監督が解任された主な理由のひとつは、主力選手たちとの関係にあったとの見方は少なくない。

それだけに、ピルロが対話を重視するのは当然と言える。だが、ナポリで世界を魅了するサッカーをつくり上げたサッリも、それは承知のこと。それだけカンピオーネを束ねるのは至難の業なのだ。

だが、ピルロには後押ししてくれるものがある。現役時代に築いたステータスだ。

ザッケローニは、ピルロ以上に勝利したのがクリスティアーノ・ロナウドしかいないと指摘し、リスペクトを勝ち取りやすいと示唆した。

過去の栄光だけではない。2006年ワールドカップでスタッフとして選手ピルロと仕事したユヴェントスOBのチーロ・フェラーラは、『ガゼッタ』で「静かなリーダー」と、そもそもの気質を称賛する。

「怒鳴る必要なく、パーソナリティーを示せる。彼を知らない人は、コミュニケーターとして偉大と思わない。だが、ロッカールームで話すかを元チームメートたちに聞いてみてごらん」

◆正しい人物、正しい監督?

コンテ時代のチームスピリットを目標としたのも、ピルロが内に秘める気質のあらわれだ。

グイド・ヴァチャーゴ記者は、『トゥットスポルト』で、初会見でのピルロから「気質面でビッグクラブを率いるのに足りないことは何もないとの考えが強まった。むしろ利点もいくつかある」と記した。

「天性の頑強な個性と、ピッチで勝ち得た敬意は、彼を誠実で直接的かつ透明性のあるコミュニケーターとする」

ピルロは「正しい人物、そしておそらく正しい監督」と絶賛する同記者は、その例にゴンサロ・イグアインへの戦力外通告を挙げた。

「人としても選手としても大きな敬意を払いつつ、だが誤解が生じることのない、いわば冷徹な言葉で別れを告げた。選手との関係をマネジメントするのに大きなアドバンテージだ。(中略)明確に話せる監督こそが、選手の心理的突破口をより簡単に開き、プロジェクトに従うように納得させる可能性を高められる。これは些細なことではない」

アルベルト・チェルッティ記者は、『Calciomercato.com』で、アンドレア・アニェッリ会長が自ら選んだことによる庇護を前提としたうえで、「ピルロにカリスマやパーソナリティー、選手たちに対してや会見で明確に話す勇気がなければ、それも不十分だっただろう」と綴っている。

◆前任者の亡霊はなし

もちろん、会見ひとつで評価できないことは、ヴァチャーゴ記者も強調している。指導者経験がないことへの懸念を指摘する声も後を絶たない。

ただ、確かなのは、「ピルロはすでにサッリを消した」という評価が多いことだ。プレーコンセプトや戦術の柔軟性、選手へのアプローチだけではない。コンテ時代への想いや、OBトゥードルの招へいなど、「ユヴェントス」であることを重視している点も、周囲から好意的に見られている。

それでも、サッカーの世界、それも特にユヴェントスでは、結果がすべてだ。ジダンも、ジョゼップ・グアルディオラも、結果を残したからこそ今がある。ピルロは、彼らに続けるのだろうか。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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