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週刊誌の貴乃花親方「激白!」記事には明かされていない事情があるとしか思えない

篠田博之月刊『創』編集長
週刊文春、新潮の「激白」記事(筆者撮影)

 2017年12月27日に発売された『週刊文春』『週刊刊新潮』1月4・11日合併号のトップ記事「貴乃花激白」「貴乃花が本誌に激白!白鵬の正体」、そして2018年1月5日発売の『フライデー』1月19日号「貴乃花激白5時間!『相撲協会は潰れたほうがいい』」が不可解だ。どうも明かされていない事情があるとしか思えない。

 いずれの記事もタイトルだけ見ると、ついに渦中の貴乃花親方本人が登場、というスクープ扱いだ。『週刊文春』『週刊刊新潮』とも新年特大号で2週売りだから、そこにスクープをぶつけるのは当然だろうし、『週刊新潮』はもうひとつ桂文枝さんの不倫スキャンダルも載せていいるのだが、貴乃花親方激白記事の方が大きな扱いだ。

不可解だと書いたのは、それら3つの記事、特に前の2つの記事を読むと、どうも見出しとのギャップが不自然だからだ。記事の方は大半が親方本人でなく、その親方に話を聞いたという匿名関係者の証言だ。『週刊新潮』は見出し脇に「腹を割って全本音4時間!」とまで掲げているのだが、記事を読むと、親方が関係者に4時間にわたって話した内容、というのだ。でも普通はそれを「本誌に激白!」とは言わないだろう。

『フライデー』も「激白5時間」と見出しにあるのに、記事を読むと、関係者に5時間話したということになっている。週刊誌特有の羊頭狗肉タイトルという人もいるかもしれないが、それにしてはどうも不自然だ。記事には見出しと整合性をつけるために、記者が直撃した時の貴乃花親方のコメントといったものも短く掲載されているのだが、その記事なら普通、この見出しはつけないだろう。

『フライデー』も年明けに「激白」記事
『フライデー』も年明けに「激白」記事

 これは推測になるが、当初は本当に貴乃花親方自身が誌面に登場する予定だったのに、校了直前に事情があって記事が書き換えられた、ということではないだろうか。ただ、その時点では既に新聞広告などが手配済みだったために、見出しなどはそのまま行かざるを得なかった。事情はそういうことではないのだろうか。そう考えるといろいろなことが符合する。

 『週刊文春』と『週刊新潮』が発売された12月27日というのは重要なタイミングだった。翌日の28日には相撲協会の臨時理事会が開かれ、貴乃花親方の処分が決まると言われていたのだった。『フライデー』は発売されたのは年明けだが、貴乃花親方が5時間激白したのは27日以前と書かれている。つまり、自分が処分されるのは確実と知った親方が、週刊誌に胸の内をぶちまけたというわけだ。ただ、それは校了直前になって、何らかの事情で変更された。誰か近しい人にゲラを見せたら猛反対にあったということかもしれない。確かに後述するように、仮に親方の激白記事がそのまま週刊誌に出ていたら、処分がもっと厳しい内容になった可能性は十分にある。

 いったい貴乃花親方は週刊誌に証言をしたのかそうでないのか。実は12月28日の臨時理事会後の会見で、当然ながらそのことについて質問が出ていた。それに対して高野利雄危機管理委員長は「貴乃花親方に改めて確認しましたが『取材に応じたことはない』とおっしゃっていました」と回答した。それ以前にも週刊誌に貴乃花親方関係者の証言が載っていることについてただしたが「週刊誌の取材を受けたことはない」という返事だったという。

 今回「改めて確認した」というのはそういう意味だ。協会としては、聴取に対して貴乃花親方が非協力だったとして処分をするのに、一方で週刊誌には詳しい話をしていたというのでは問題だとして、親方に直接確認したのだろう。

実際にくだされた理事解任処分をめぐっては、2月に行われる次の理事選に出ることは妨げないと協会側がわざわざコメントしたが、実際に週刊誌に見出し通りの記事が出ていたら、処分内容がもっと厳しくなったかもしれない。先に推測を書いたようにもし記事の書き換えが行われたとしたら、そのへんをめぐる関係者の指摘がなされたか、何か経緯があったのだろう。

 高野危機管理委員長によると貴乃花親方は「取材を受けていない」と言っていたという。それでは週刊誌が「激白!」などとうたっていることとの整合性はどうなのか、と当然、会見に臨んだマスコミは疑問を感じ、週刊誌側にも取材をかけたようだ。

 それに対する週刊誌側の回答は、例えば日刊スポーツによれば「記事に掲載したとおりです」(週刊文春)、「記事に書いた通りです。それ以上でもそれ以下でもありません」(週刊新潮)というものだった。何らかの事情があったのかなかったのか、編集側から説明することはないという答えだ。実際に書き換えがなされたかどうか、真相は今後、当事者が打ち明けでもしない限りはわからないだろう。

 週刊誌の記事では貴乃花親方本人でなく、親方と近しい関係者の話になってしまっているのだが、これまで出ていなかった興味深い話も登場する。実は2017年1月20日の夜、暴行事件被害者の貴ノ岩に白鵬の側近から電話がかかってきたというのだ。その翌日、21日とは貴ノ岩と白鵬が対戦し、貴ノ岩が勝利したその日だった。貴ノ岩への電話は何度かあったが、貴ノ岩はどうせ星の話だろうと直感して電話に出なかったという。つまり八百長の依頼だと思ったというのだ。その話は当然、貴乃花親方にも報告したという。

 この話は本当だとしたら大きな意味を持つのだが、残念なことに貴ノ岩は実際には電話に出なかったので、それが本当に八百長の依頼だったかどうかはわからない。ただ、貴乃花親方と貴ノ岩が、今回の暴行事件の背景として白鵬らをどんなふうに見ていたかを物語るエピソードだ。

 実際に八百長工作が行われたという証拠にはならないのだが、これを貴乃花親方が自らの言葉として週刊誌に語っていたら影響は大きかったろう。暴行事件の詳細な背景はいまだに明らかになっていないのだが、貴乃花親方と貴ノ岩は、それが偶発的な事件でなく、白鵬らによるガチンコ力士・貴ノ岩への見せしめだったと考えていたようだ。少なくともそのことがよくわかるエピソードだ。

だからこそ、親方は最初から協会でなく警察に被害を届けたし、それが八百長問題というタブーに触れるがゆえに、自分の思いをベラベラとマスコミにしゃべることもしなかった。そう考えると貴乃花親方の行動は合点が行く。

 

 日馬富士による暴行事件は結局、被害者側だったはずの貴乃花親方に処分がくだされるという奇妙な結末になった。途中から騒動が暴行事件の背景といった本来議論すべきことから離れて、八角理事長ら協会執行部と貴乃花親方の闘いになってしまった。親方への処分の理由として、八角理事長からの電話に出ようとしなかったといったことまで語られていたが、協会執行部の貴乃花親方への悪感情がそのまま理事解任という処分になって現れたということだ。その意味では今回の決着は、本来解明すべき暴行事件の背景や、相撲界のありかたをめぐる考え方の違いといった、本来議論すべきことから大きくそれてしまったと言わざるをえない。

 そうなってしまった原因は、協会執行部と貴乃花親方との感情的対立、貴乃花親方の問題提起のまずさなどいろいろある。そして、事件を報じるマスコミのあり方にも問題があったというべきだろう。貴乃花親方を追いかけて「何か一言」とマイクをつきつけるだけで絵になってしまうとばかり、連日そういう報道がテレビでなされ、結果的に親方の頑なな態度ばかりが視聴者に印象づけられた。

途中から週刊誌は貴乃花親方の立場を代弁し、協会発表を報じるテレビなどの報道と食い違いが目立った。いわば貴乃花親方と協会執行部とがそれぞれメディアを使って情報戦を展開したのがこの2カ月ほどの騒動だった。問題が本質からそれてしまったために、ひどくわかりにくい騒動になってしまったのだ。

 相撲ファンが置き去りにされ、本来議論すべき問題が見えなくなってしまったという意味で、本当に今回の騒動は罪深い。

 なお大相撲のこの騒動については、以前書いた下記の記事も参照いただきたい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20171225-00079721/

日馬富士暴行事件をめぐる週刊誌とテレビの報道はなぜこんなに違うのか

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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