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なぜレアルは“戴冠”に近づいているのか?エムバペ獲得失敗とアンチェロッティの抜け目ないマネジメント。

森田泰史スポーツライター
ゴールを喜ぶルーカスとヴィニシウス(写真:ロイター/アフロ)

勝者のメンタリティーが、植え付けられている。

そのような印象を抱かせるのは、レアル・マドリーだ。マドリーは現在、リーガエスパニョーラで首位を快走している。チャンピオンズリーグでは準々決勝ファーストレグでチェルシーに3−1と勝利を収め、アドバンテージを得てセカンドレグに臨む。

■アンチェロッティのマネジメント

マドリーは今夏、大型補強を敢行しなかった。ダビド・アラバ(前所属バイエルン・ミュンヘン/フリートランスファー)、エドゥアルド・カマヴィンガ(レンヌ/移籍金3100万ユーロ/約40億円)を獲得したが、狙いを定めていたキリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン)の確保には至らなかった。

一方、マドリーはセルヒオ・ラモスやラファエル・ヴァランといった主力選手を放出した。チャンピオンズリーグ3連覇を達成したジダン・マドリーを、最終ラインから支え続けたセンターバックが2枚抜け、カルロ・アンチェロッティ監督に新たなチームビルディングが求められた。

パリに残ったエムバペ
パリに残ったエムバペ写真:ロイター/アフロ

シーズン序盤戦、アンチェロッティ監督は試行錯誤していた。トニ・クロースが負傷で出遅れていた事情もあるが、新加入のカマヴィンガの積極起用やマルコ・アセンシオのインサイドハーフ起用で中盤に変化を起こそうとした。

だが時間が経つにつれ、アンチェロッティ監督はメンバーを固定していく。ルカ・モドリッチ、クロース、カゼミーロの影響力は大きく、指揮官をして「彼らは私が指示していないことまでやってくれる」と唸らせるプレーぶりだった。

■選手に適したシステム

それでも、アンチェロッティ監督が全く動かなかったわけではない。

「私は守備の時に4−4−2になるシステムを試してきた。だがそれは機能しなかった。4−3−3の布陣にするという私の考えは明確になった。純粋なウィングを起用しないことはあり得るかもしれない。しかし、このシステムが、現在の選手たちには合っていると思う」と認めるように、マドリーの基本布陣は4−3−3だ。

システムは変えない。しかし、選手起用で変化を起こしたい。その考えで、重宝されるようになったのがフェデリコ・バルベルデである。

チャンピオンズリーグのチェルシーとのファーストレグでは、バルベルデが【4−3−3】の右ウィングに配置された。相手のウィングバックに入ったセサル・アスピリクエタへの対策だった。ただ、実際、バルベルデは右WGのポジションに留まらず、インサイドハーフとして、5バックの右サイドバックとして、獅子奮迅の活躍を見せた。

先日、パハリート(小鳥)からハルコン(ハヤブサ)へのニックネーム変更を要望していたバルベルデだが、まさにハヤブサの如くピッチを走り回った。フィジカルの消耗戦に苦しむ傾向があるクロース、モドリッチ、カゼミーロの中盤をヘルプしながら、今季低調なパフォーマンスで度々批判を浴びているダニ・カルバハルをプロテクトした。

チェルシー戦で躍動したバルベルデ
チェルシー戦で躍動したバルベルデ写真:ロイター/アフロ

少し時を遡る。2014−15シーズン、アンチェロッティ監督は苦しんでいた。

チャンピオンズリーグ準決勝のユヴェントスとのファーストレグを前に、アンチェロッティ監督は負傷でモドリッチを欠く中でセルヒオ・ラモスをボランチで起用した。

アンドレア・ピルロ、アルトゥーロ・ビダル、クラウディオ・マルキージオを擁するユヴェントスに中盤を制圧され、そのゲームを1−2で落とした。また、その週末のリーガ第36節でバレンシアに引き分け、実質上タイトルの可能性が潰えた。

2014−15シーズンのCLでユヴェントスに敗戦
2014−15シーズンのCLでユヴェントスに敗戦写真:ロイター/アフロ

あのシーズン、無冠に終わり、アンチェロッティ監督のマドリーでの第一章は幕を閉じた。

同じ轍を踏まないように、アンチェロッティ監督は中盤を整えてきた。バルベルデ、カマヴィンガ、ダニ・セバージョスを起用しながら、アセンシオのコンバートまで考慮して大きな穴ができないようにしてきた。

マドリーのようなビッグクラブでは、戴冠というのは指揮官続投の必須条件だろう。他ならぬアンチェロッティ監督自身がそれを強く自覚しており、抜け目ないマネジメントが実を結ぼうとしている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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