北朝鮮で「性感染症」がまん延…「性教育不在」「男女共学」で爆発的拡大
青少年に対する性教育は、性感染症の拡大や望まない妊娠などを防ぐために欠かせない。一部では純潔教育(婚前交渉をしてはならない)的な性教育が行われているが、避妊具の使い方などの現実に即した教育が効果を発揮することが統計的に明らかになっている。
北朝鮮ではどうなのだろうか。脱北者のカン・ヨンエさんがデイリーNKに語ったところによると、北朝鮮に性教育というものは存在しない。
「親友同士でおしゃべりすることはあっても、一般的に性についてマジメに話すことはあまりない。恋愛についても、家でも学校でも話したことはない」(カン・ヨンエさん)
「望まない妊娠」も
一方で、別の脱北者がデイリーNKに2005年に証言したところによると、1990年代後半に、女子生徒を対象にした性教育が行われていた。
それまでは、高等中学校6年の生物の授業で、種子の改良について学ぶ際に、動物にはオスとメスがいる、精子と卵子で妊娠すると習うぐらいだった。性感染症はもちろんのこと、生殖、出産、育児に関する一切が教えられていないという。「そんなものはそのうち自然とわかる」という誤った観念によるものだ。
ところが、1997年に高等中学校で男女混合のクラス編成を行うようになってから、恋愛をする生徒が増えた。性について何も教えられていないため、望まない妊娠をしてしまう女子生徒が増えたのだ。また、当時は大飢饉「苦難の行軍」の真っ只中。生き残るために売春を行う女性が増えたころだ。
(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち)
望まない妊娠をした場合、ほとんどが中絶手術を受ける。しかし北朝鮮で人工中絶は違法であるため、当局の目を盗んで「ヤミ医療」を受けるためにかなりの費用がかかる。中には、結核の治療薬、虫下し、さらには瓜の種を飲んで流産させる女性もいたという。(ウリ科の野菜は、体を冷やし、流産の可能性を高めるとの俗説があるが、科学的根拠はない。)
そこで、女子生徒だけを対象にして、男女のからだの構造、性感染症、生理、避妊、交際時の注意などを教えるようになった。しかし、理由は不明だが、長続きしなかったようだ。
性教育の不在が、その後の性感染症の爆発的な拡大の一因となった。
「韓流」も影響
韓国の北韓戦略情報サービスセンターによると、2010年12月初めから梅毒に感染する人が急増した。中でも15〜20歳までの女子高生、女子大生の間での感染が爆発的に増えた。
事態を重く見た金正日総書記は、「99常務」と呼ばれるタスクフォースを立ち上げた。保衛指導員が3、医療従事者が7の割合で構成されたこの組織は、全国で性感染症の検査を行った。
ちなみにこの検査だが、「性感染症の検査」という名目では行われなかった。これは、隠蔽しているのではなく、性について公の場で語ることを避ける社会的風潮によるものだ。
性教育の不在は、女性がいかに身を守るかという知識を持っていないことにより、女性が不利な立場に立たされることが多い。
脱北者のイ・ソンアさんは、北朝鮮には男女平等法や性的暴力を処罰する法律はあるが有名無実で、適用された例を見たことがないと語る。
(参考記事:脱北女性、北朝鮮軍隊内の性的暴力を暴露「人権侵害と気づかない」)
韓国の北朝鮮専門家によると、韓流ドラマの北朝鮮への流入により自由恋愛をする若者が増えるなど、人々の意識には大きな変化が現れつつあるが、女性の権利や心身を保護するための制度的補完は難しいと見ている。
(参考記事:北朝鮮で少年少女の「薬物中毒」「性びん乱」の大スキャンダル)
労働新聞などの国内メディアは体制のプロパガンダ一色で、国内で性に関する正しい情報の得るのは困難だが、だからこそ韓国や国際社会が進める北朝鮮への情報の流入に、性的暴力からいかにして身を守るかという情報を含めるべきだと語る。