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職場のチームワークを高めよう

福富信也東京電機大学理工学部/(株)ヒューマナジー代表取締役
(写真:アフロ)

私は、東京電機大学理工学部の教員(サッカー部監督兼務)としてチームワークづくりについて研究しています。研究というと堅苦しいですが、実際は現場での実践を重視しており、これまでいくつかのJクラブのチームアドバイザーを務め、優勝・昇格といった目標達成をサポートしてきました。

また、スポーツ以外でも、大企業から中小企業まで、幅広い業種のチームワークづくりにも数多く携わってきました。詳細はプロフィールをご覧下さい。

今回は、長くチームワークづくりを仕事にしてきた私が、スポーツとビジネスの親和性に着目し、「職場のチームワークを高めよう」と題して連載しようと思っています。皆様のお役に立てる情報を発信できればと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

さて、連載第1回の今回は、「チーム」「チームワーク」「チームビルディング」という重要キーワードについて、私なりの定義について触れていきたいと思っています。

また、掴みどころのないチームワークというものを、人間のカラダに例えながらご説明していきたいと思います。

さらには、私が企業からチームビルディングの研修を依頼される際、どのような課題を解決したいという理由から相談されるのか、という点についてもご紹介したいと思います。

写真:アフロ

まず初めに「チーム」「チームワーク」「チームビルディング」という重要キーワードについて、私なりの定義をご説明します。

チーム

「目的、目標、そこに向かうプロセス、価値観に合意し、役割と補完関係による相乗効果でその達成を目指す固定の集団」

チームの定義ですが、目的、目標への合意はもちろんのこと、どんなプロセス、価値観でそこに向かうかも重要です。

スポーツで言えば、「優勝」という目標に合意しているだけではチームになれません。どういうプロセスで優勝を目指すのか、言い換えれば、チームとして大切にする規律・価値観・フィロソフィーなどを共有して、初めて真のチームになれると思いませんか。多くのチームが目標を共有しただけで「チームになった」と勘違いして、あとから空中分解してしまうケースが多いです。

チームワーク

「チームの要求レベルに到達するため、個々が技術・知識・専門性の習得を努力したうえで、精神的・技術的・身体的な連係・協力がスムーズに行われる状態」

チームワークというと組織力や連係面のイメージばかりが先行してしまいますが、大前提として、チームからの要求レベルに達するために、日々自己研鑽する姿勢こそがチームワークの原点です。

チームビルディング

「メンバーによる創造性や相乗効果を引き出し、目的・目標達成を促進していく様々な手法の総称」

チームビルディングというと、レクリエーションなどを連想する方も多いですが、それは本質ではありません。レクリエーションのあとは雰囲気が良くなったように感じるかもしれませんが、それは一過性の変化に過ぎず、日常に戻れば何も変化がありません。

写真:アフロ

創造性が鍵を握るVUCA時代

近年のビジネス界では「生産性・効率」という言葉がクローズアップされていますが、それ以前に私は「創造性」が大切だと思っています。

唯一絶対の「正解」があるのであればそこに向かって「生産性・効率」を追求すればよいですが、何が正解になるかわからない時代において、メンバーがワクワクし、心躍るようなプロジェクトを創造することが先で、「生産性・効率」はそのあとの話ではないでしょうか。

例えば、「赤」と「青」で2人の意見が分かれたとき、両者はお互いにいかに自分が正しいかを主張してしまいがちです。仮に相手を論破できたとしても、相手が納得していない限り身内に敵を増やしたにすぎません。

では、それぞれの色を尊重し、両者納得の第3案として「紫」という意見が出てきたらどうでしょうか。創造性を大切にすることで、お互いに前向きな合意が得られるかもしれません。私はこれを「絵の具効果」と呼んでいます。唯一絶対の正解がない時代だからこそ、創造性が重要なのです。

昨今のビジネス界では「VUCA」という言葉がしきりに叫ばれています。

Volatility(変動性・不安定さ)
Uncertainty(不確実性・不確定さ)
Complexity(複雑性)
Ambiguity(曖昧性・不明確さ)

VUCAとは、これら4つのキーワードの頭文字を取った言葉で、不確実で、変化が激しく、唯一の正解がない時代に突入したことを意味しています。成功したビジネスモデルが長続きせず、製品やサービスのライフサイクルは短命化し、様々な外的要因に振り回される時代ということです。

だからこそ、「適応力」と「多様性」が重視される時代とも言えるでしょう。そんな現代のビジネス環境だからこそ、注目されているのがチームビルディングなのです。

写真:アフロ

スポーツが課題解決のヒントになる

続いて、企業からの相談依頼で代表的な課題を2つご紹介します。

①自ら主体的に考え、行動できる社員を増やしたい
②メンバー間の関係性を良好にしてコミュニケーションを活性化したい

実は、その悩みの解決につながるヒントが、スポーツにあったのです。

スポーツ現場はまさにVUCAだと思いませんか。

例えばサッカーの場合、「こうすれば勝てる」という唯一絶対の正解は存在しません。こちらの計画を壊しにくる対戦相手も存在しますから、そもそも計画通りにいかないことが常なのです。審判によるミスジャッジ、急な天候の変化、予想外のケガ、スコアの変動、スタミナの消耗、刻一刻と進む時計の針…。すべてがVUCAと言えるでしょう。

そんな劇的な変化の連続する不確実な状況で、メンバーの多様性と創造性に活路を見出し、なんとか目標を達成しようとしているのがスポーツなのです。

それは、ビジネスもまったく同じことです。

だからこそ私は、スポーツには社会課題を解決するヒントが詰まっていると確信しています。今後の連載でも、スポーツ事例を活用して、皆様にわかりやすくお伝えしたいと思っています。

写真:アフロ

チームの健康状態を意識する

さて、連載第1回の締めくくりに、チームビルディングの概念を人間の「健康維持とお医者さん」の関係で説明していきたいと思います。

私たち人間にとって、健康を維持するためにお医者さんの存在は欠かせません。体調不良で病院に行けば、診察・精密検査などの診断結果をもとに、お医者さんが適切な治療や投薬で健康へと導いてくれます。症状緩和のための一時的な対処もあれば、地道な体質改善で根治を目指すこともあります。

ときには、本人は健康だと思っていても気づかないうちに病魔が蝕んでいることもありますし、生活環境が変われば健康状態に影響が出ることもあります。定期的な健康診断やストレスチェックの重要性は誰もが知っているところです。もしもそれを怠った場合、手遅れになってしまうことさえあり得ます。

それでは、チームの健康状態については誰に相談したらよいのでしょうか。

チームの健康診断を行い、適切なプログラム(処方箋)を提案し、チームを理想的な方向へと導いていく役割こそがチームビルディングです。長い間同じメンバーで仕事をしていれば、いつしか馴れ合いになってチームが「生活習慣病」に陥ってしまうことがあります。

人間の生活習慣病の場合、食事療法や運動療法などを継続することで体質改善を目指します。それと同様に、チームの生活習慣病に有効な方法が存在するのです。良い習慣を定着させることでチームの体質改善を目指します。

体質改善でチームが健康を取り戻したら、次は健康の維持・増進へとステップアップさせます。つまり、マイナスをゼロに戻すだけでなく、ゼロからプラスを生み出すことがチームビルディングの最大の使命だと思っています。

「この職場で何十年と続く人間関係を優先した結果、お互いに厳しい要求ができなくなる」「基準がどんどん下がり、仕事の質が低下している」といった悩みがある場合は、チームの生活習慣病のサインです。

写真:アフロ

カラダ型チーム

私の描く理想のチームは「カラダ型チーム」です。人間のカラダは、それぞれ異なる特徴をもった臓器・器官・部位がお互いに調和し、相乗効果をもたらします。そうすることで自由自在でしなやかに機能しています。そして、心身ともに健康であれば外的環境の変化にも上手に適応できますし、様々なチャレンジを通じて学習し、成長を続けることができます。まるで健康な人間のようなカラダ型チームを作り上げ、メンバーがイキイキと躍動できると最高です。

人間の臓器や各部位にそれぞれ特徴と役割があるように、チームのメンバーにも特徴と役割があるはずです。人は皆、自分の得意なことでチームに貢献したいと思っています。その想いが、社員のやりがいや主体性に直結しています。

本来そういう情熱を持って入社したメンバーが、だんだんと主体性を失いつつあるとしたら、それは直ちに解決しなければならない重要課題です。人間のカラダでいえば、どこかの臓器が機能不全を起こしているのと同じです。その機能不全を補うために他のメンバーに負担が集中しているとしたら、離職などにつながり悪循環に陥ります。

今回は、私の専門分野であるチームワークづくりについて、ぼんやりとした全体像をお伝えしました。目には見えないモノ、実態のつかめないモノ、でも確かに存在するモノ、それがチームワークです。難しい印象を持たれがちなチームワークですが、なんとなくおわかりいただけたら幸いです。

次回以降は、少しずつ具体的なチームづくりに触れていきたいと考えています。

東京電機大学理工学部/(株)ヒューマナジー代表取締役

横浜F・マリノスコーチを経て、現在は東京電機大学理工学部の教員。 Jリーグ監督に必要なS級ライセンス講習会の講師を務める。2016-17年北海道コンサドーレ札幌(J2優勝、J1昇格)、2018-19年ヴィッセル神戸(天皇杯優勝)、2020-21年ラグビーNTTdocomo(リーグワン参入)、2022-23藤枝MYFC(J2初昇格)、2024年からはFC東京のアドバイザーに就任。 スポーツチームのみならず、大企業から中小企業まで研修実績多数。その他、講演・メディア出演・雑誌連載など。著書→脱トップダウン思考(2019)、チームワークの強化書(2022)など。(株)ヒューマナジー代表取締役。

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