「子どものいる人生を選ばない人はエゴイスト」発言のノルウェー議員、メディアにも特集しないよう要請
ノルウェーのミッドテレマルク市の市議会議員で、同地域での「中央党」議長であるChase Alexander Jordalさん(30)が「子どもを産まない」選択をする人や「それを支持する論調」に強く反発している。彼によると、親になることを選ばない人は「身勝手なエゴイストであり、人生の敵対者」だそうだ。
このような時代遅れの論調はノルウェーにはもともとあるが、ノルウェーで「子どもを産まない選択」をまさにしている筆者からすると、「うるさい」と呆れるしかない。
ノルウェー統計局によると、2022年の出生率女性1人当たり1.41人。前年の1.55から急減し、ノルウェーで過去最低の数値となった。30歳の半数以上が子どもがいない状態だ。
世界的に北欧は福祉制度が整い、育児もしやすく、女性にとっても働きやすい、ジェンダー平等が進んだ国だとされている。だが、いくら育児をしやすい政策を整えても、もう時代は変わった。育児しやすい社会だとしても、「結婚しない」「子どもを産まない」という「伝統的な家族像」を選ばない人はいるのだ。
北欧各国ではまさにこの「子どもを産まない」選択をする市民増加が今ホットなニューストピックでもある。フィンランドやノルウェーでも、「子どもを産まない」人の増加の記事はいくつも見つかる。
ノルウェー中央党の政治家Chase Alexander Jordalさんは、なんとこのように「子どもを産まない」選択をする時代の流れやそれを支持する論調を特集すること事態、「メディアはするべきではない」と考えている。
メディアに、子どもを持たないことを選択した若者に関する記事を「取り下げるよう」要請もしている。
たとえ「子どもは産まない選択をする」実態があるとしても、メディアが取り上げることで「さらに子どもがいないことを常態化させる可能性があり、社会にとって良くない」そうだ。また「子どもの増加が気候に負担をかける」という論調も否定している。
「子どもを持たないという選択は不自然で、生命に敵対的であり、社会的に見ても非常に危険だ」と文化メディア「Subjekt」に寄稿した。
北欧には確かに「気候に負担がかかるから」と子どもをもつ意味を見出せない人もいる。そして「中央党」というのは中道左派だが、地方出身者や農民の味方であり、とにかく「なんでも国産」支持で、国際社会との連携・気候や環境問題への関心は薄い傾向があり、時に「極右政党か?」と筆者が首をかしげるほど、ポピュリスト的な愛国心丸出しの政党だ。
ノルウェーの女性1人当たりが産む子どもの数が今ほど少ない時代はなく、出産までにかかる時間も長くなっている(つまり高齢出産が多い、ノルウェー統計局SSB調べ)。
アーナ・ソールバルグ元首相(保守党)は、首相時代の2019年に「もっと子どもを産むように」市民に呼びかけ、ほほ笑みながら「どうしたら子どもが産まれるかは、私がわざわざ説明しなくてもいいですよね?」と、ほぼ下ネタを公共放送の新年番組で発したことが大きな話題となった。このエピソードは未だにオスロ大学のフェミニズムやジェンダー平等の授業で取り上げられる。
中央党の政治家の論調は二つの点でノルウェーで議論されている。
まずは今起きていることを報じる「ジャーナリズムの否定」、「タブーを破る」メディアの役割を否定し、政治家がメディアに何を報じないべきか要請している問題。ノルウェー公共局の記事では読者アンケートで「メディアは子どもがいない選択をするストーリーを報じないべきか?」と問い、1万6000人以上が回答し、17%がイエス、83%がノーと回答。
そして「市民の選択をリスペクトしない政治家」に対して「余計なお世話」と女性たちから呆れた声が殺到している。
このように女性の身体の選択に口出しする人がいることには筆者は驚かない。だが、まさかノルウェーの議員がメディアに寄稿してまで意見して、子どもがいない人生を選択した一部の市民を否定することに影響力を使い、メディアの報じ方にまで口出しすることにはさすがに驚いた。その時間とエネルギーを「育児がしたい」と思う市民のための政策提案に費やしてほしい。
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