知られざる数億ションの世界(10)超高層でも低層でもない。富裕層向けマンションの王道とは
分譲価格が数億円、ときに10億円以上となる高額マンションは、一般のマンションとは異なる嗜好や判断基準で選ばれることがある。
何階建てのマンションが好まれるか、に関しても、5億円とか10億円の住戸をキャッシュで購入する富裕層の感覚は一般とは異なっていて……。
今回は、数億ションではどんな階数のマンションが好まれるのか、という話だ。
低層マンションが好まれる?
不動産業界において、マンションの建物は階数によって4つのグループに分けられている。低層、中層、高層、超高層の4つだが、そのなかで、富裕層に最も好まれるのはどれか。
そのことを解き明かす前に、それぞれの基準を説明したい。
●低層マンションは、基本的に地上3階建てまでの建物を指し、一部4階建てを含むことがある。
●中層マンションは、主に地上5階建て、6階建ての建物を指す。昭和時代は5階建て、6階建てのマンションが多かったため、「マンションにおいてメインとなる階数」という意味を含めて「中層」と呼ばれたと考えられる。
●高層マンションは、7階建てよりも高いマンションを指す。
●超高層マンションは、高層マンションのうち地上60メートル(階数にして約20階)を超える建物を指す。地上60メートルを超える建物になると、建築構法の基準が一段と厳しくなることが根拠だ。
近年は、「超高層ではないマンション」をすべて「低層マンション」と呼ぶ動きも出ている。が、不動産の世界で以前から行われている分類は以上の4段階となる。
ちなみに、「タワーマンション」は、タワー(塔)形状のマンションのことで、高さは問われない。超高層ではない15階、16階の建物でも塔状であればタワーマンションとなる。超高層ではないマンションを低層と呼ぶことにすると、それは“低層のタワーマンション”ということになり、高いのか低いのか分からない。
“低層タワマン”などというと、本当に専門家なの?と疑われてしまいそうなので、ここでは4つの区分けを採用し、タワーマンションの表記を使わないこととしたい。
さて、その4分類のうち、高級と見なされやすいのはどれか……一般的には地上3階建て、4階建てまでの「低層マンション」を高級と見なす人が多いのではないか。
「中層や高層の建物にせず、あえて3階建て、4階建てに抑えている。だから、贅沢なつくり」と思われがちであるからだ。しかし、それは誤解というもの。低層マンションは、「建設できる建物の高さは10メートルまで」とか「12メートルまで」という制限のある場所で建設される。中層以上の建物にできないので、低層にしているのが実状だ。
もっとも、階数が少ない分、1戸あたりの土地持ち分が多くなるのは事実。だから、贅沢なつくりと思いたくなる気持ちは理解できる。が、低層マンションが建設される場所の土地価格は必ずしも高額ではない。
低層マンションが建設されるのは、主に高さ制限が厳しい一戸建て住宅地。その一戸建て中心の住宅地は郊外で駅から離れることが多く、土地価格が抑えられるからだ。
低層マンションなら、一戸建てを選ぶ
一般の購入者の場合、閑静な住宅地内に建つ地上3階建て、もしくは4階建てまでの低層マンションに憧れる人は多い。その理由は、「低層マンションならば、一戸建てに近い住み心地がある」からだろう。
3階建てならば最上階でも地面に近い暮らしができるし、たとえエレベーターが止まっても支障は少ない。一方で、同条件の庭付き一戸建てよりも安く購入できるし、鉄筋コンクリート造であるため、木造・軽量鉄骨の一戸建てよりも安心感が大きい、という長所もある。
多くの人にとってわかりやすい長所があるのだが、富裕層がその長所に魅力を感じるかどうか……。
じつは、低層マンションの場合、すべての住戸で泥棒被害のリスクは高まってしまう。2階、3階でも不正侵入されかねないからだ。かといって、セキュリティを高めると1戸あたりの管理費が高くなる。戸数が少ないと、管理費ははね上がりやすい。
その結果、低層マンションはリスクはあってもそれなりのセキュリティ態勢となりやすく、富裕層はその点に不安を感じることが多くなる。
それより何より、お金をふんだんに持っている富裕層が「閑静な住宅地でゆったり、安心して暮らしたい」と考えたら、低層マンションよりも一戸建てを選ぶもの。一戸建ての建物を鉄筋コンクリート造の3階建てにし、ホームエレベーター付きにすれば、眺望がよくなるし、住み心地も低層マンションを凌ぐだろう。一戸建てならば、庭に複数の屋根付き駐車スペースも設置しやすい、といった長所も生じる。
実際、低層マンションで専有面積が200平米を超える富裕層向け住戸がつくられることは滅多にない。低層マンションで大型住戸をつくったら、それこそ一戸建てを買うのと変わらない価格になってしまうからである。
中層と高層が富裕層向けマンションの王道である理由
では、富裕層が一戸建ての豪邸と変わらないような金額で購入するマンションとはどんなものなのか。
土地価格が抑えられる低層マンションに対し、土地価格が高くなりやすいのは中層以上のマンション。都心部や駅に近い場所に建設されるケースだ。
実際、数億ションでも特に高額な物件として分譲されてきたのは、都心の便利な場所に建設される中層と高層のマンションだった。
たとえば、港区の南青山や赤坂6丁目、六本木4丁目で建設される5階建てマンションや、千代田区の九段南、三番町などで建設される地上10階建てマンションでは全戸が3億円以上といった価格設定になりがち。そして、富裕層が好むのも、じつはこの中層と高層のマンションなのである。
富裕層が好ましく思うマンションにはいくつかの共通要素がある。
たとえば、便利な都心部で夜は静かな場所に立地し、住戸の独立性は高いこと(だから、1フロア1戸で最上階住戸が理想)。地下に全戸分の自走式の駐車場を備え、警備員や監視カメラで愛車が守られること。そして、複数の出入り口があり、内廊下方式で住戸への出入りが外から分からないこと、といった要素だ。
それらの要素を備えるためには、ある程度の戸数規模が必要。現実的には5階建てから15階建てで、総戸数が50戸から100戸くらいのマンションが富裕層に好まれる規模感となる。
以上が、中層、高層のマンションに富裕層をターゲットにした超高額物件が多くなっている理由である。
ただし、5階建てで総戸数20戸というような小規模でも内容がよければ購入に前向きとなる。それどころか、20戸程度の規模であれば、全住戸を1人で買い占めることもある。いわゆる「1棟買い」で、これまで複数の事例を見聞きしてきた。いずれも購入者は外国人ではなく日本人だ。
さらに、総戸数が500戸を超える大規模・超高層マンションの上層階プレミア住戸も検討する。
独自の魅力があれば、いろいろな物件を検討するのだが、それはすでに中層と高層のマンション住戸を複数所有しているからだ。
富裕層が購入を検討する数億ションの王道は、中層と高層。ときどきは超高層も検討するが、低層マンションには消極的。それが、富裕層のマンション購入なのである。