尿素水不足問題、転売横行で現場が混乱 増産急ぐあまり「農業用」使用の懸念も
尿素水不足に関する詳細記事を公開してから半月ほどが経過したが、最近では各メディアでも同問題を取り上げるようになってきている。
【尿素とは?】
・工業、農業、自動車など、幅広い分野で使用されている薬品。この尿素に蒸留水を混ぜて作られる尿素水は、トラックなどのディーゼル車に必要不可欠な液体となる。
・現在、世界最大の尿素輸出国である中国が、主原料の1つである石炭の不足に陥ったことで、各国で尿素不足が発生。
・最も影響が出たのが、中国尿素の依存率97%だった韓国。また、オーストラリアも約80%を中国に依存しており影響が出ている。
・日本では輸入と国内生産の割合はおよそ半々だが、その輸入の大部分をやはり中国に依存しており、同じく影響が出ている。
※詳しくは過去記事参照:「韓国は対岸の火事ではない 日本でも尿素水不足で「物流が止まる」の声」
本稿では、過去記事から半月の間で確認された尿素水関連の新たな動きと、現在取られている国内の増産体制における"ある懸念"について紹介する。
転売による異常な価格高騰
「尿素水不足」が物流などの現場から聞こえてくるようになって1か月あまり。
全国各地のトラックドライバーからの情報によると、地域や販売元によってその度合いにバラツキがあるようだが、国内での尿素水不足や、それに付随する混乱が生じているのは間違いない。
その「混乱」の筆頭が価格の高騰だ。
もともと尿素水は1リッター100~200円ほどの価格帯で販売されていたが、現在は、その数倍にまで跳ね上がっている。
品薄になれば、正規ルートにおいても価格が上がるのは当然のことではあるが、一方、現状はいわゆる「転売ヤー」と呼ばれる人たちによって、異常な価格高騰が発生。中には通常の10倍ほどの値段で取引されているケースもある。
これに対し、フリマアプリやネットオークションサイトには、「冷静な行動をとるように」という注意喚起がなされるようになったが、これによって値段が落ち着いた傾向は今のところ見られない。
また、この転売で懸念されるのは「価格の高騰」だけではない。個人間での取引によって、商品の質が保証されないという懸念もある。
非正規の流通ルートで入手した尿素水。転売が繰り返されることで、「転売ヤーたちは品質管理や保存方法を知っているのだろうか」、「こんな状況下で平気で転売するのだから、何か混ぜて量を増やしてる人がいてもおかしくないのでは」という不安の声も現場からは聞こえてきている。
実態のない会社からの「詐欺」メール
さらにこの1か月の間、尿素水を必要とする企業には、「詐欺」と思われるFAXやメールが届くようになった。
実際、前回記事を公開した直後の筆者の元にも、国内外から「尿素水に困っているなら売ります」といった内容のメールやDMが20件ほど届いた。
各メールに記載されている企業を調べたところ、実態そのものが確認できない件が半分以上。また、送信元のメールアドレスがGmailなどのフリーメールというケースも。数件に取材を申し込んだが、現在のところどこからも返信はきていない。
増産急いで「農業用」使用も
しかし今回、取材を進めていると、現在こうした転売や詐欺メール以上に懸念すべき"ある動き"が製造現場にあることが分かった。
それが急ピッチで行われている「増産」だ。
現在の尿素水不足に関して、経済産業省は先日Twitterで「尿素の生産事業者に対し、最大限の増産を要請している」と発表。これを受けて、国内の大手製造企業が現在急ピッチで増産しており、尿素水不足は今後徐々に解消される見込みだという。
しかしその一方、車用の尿素水を入手できなかった一部のメーカーにおいて、「車用以外の尿素を使用して尿素水(アドブルー)製造が行われている」という話が出ているのだ。
先述した通り、尿素の用途はクルマだけに限ったことではない。
主なところでいえば、工業用、農業用、車用などがあるのだが、クルマという繊細な機械に吹きかけるようにして使用される「車用の尿素水」は、尿素32.5%:純水67.5%という細かい比率と高い品質が求められる。
車用の尿素水がよく「AdBlue(アドブルー)」と呼ばれるのは、ドイツの自動車工業会が、品質を保証すべく尿素水に商標をつけたためだ。
しかしそんな中、ある尿素水製造販売業者によると、現在、中国以外の東南アジア各国から日本が緊急輸入している尿素には「農業用」が含まれており、それを車用として転用しているメーカーが一部存在するという。
「尿素不足で製造を止めていた一部の業者が、東南アジアから『農業用』の尿素を輸入して、12月の20日から販売するという案内を出しているんです。農業用は簡単に溶けないように、ホルムアルデヒドや油、粒子がくっつくのを防止するための『固結防止剤』などが含まれている。それを高品質が求められる車用に転用すれば、今後多くのクルマが故障する可能性があります」
ただ、車用の尿素水は高品質を保つための検査があるはず。
農業用で製造したとしても、その検査ではねられるのではないだろうか。
「農業用の尿素に含まれている成分には、アドブルーの品質検査約20項目に含まれていないものもあるんです」(同氏)
同氏が当該メーカーたちに品質についての考えを聞いてみたところ、「品質にはちょっと不安はあるんですけどね」という答えが返ってきたという。
混乱を防ぐためにできる対策は
既述通り、現在尿素水は国内大手メーカーにおいて増産が行われている。そのため、無用な買い溜めや買い占め・転売は無意味で、現場の混乱しか生まない。
尿素水不足よりも少し先に発生した「燃料の高騰」の際、運賃の値上の要望やサーチャージ制に応じてくれる荷主は非常に限定的だった(むしろなぜか運賃を下げられたという声もある)。
こうした事例に鑑みると、現在の物流業界では「アドブルーの価格が上がったから運賃を上げてくれ」と頼んだところで、無情な荷主や元請がそう簡単に要望に応えるようには思えない。
つまり、アドブルーの価格の高騰は、長年の低運賃で疲弊している運送業界をさらに苦しめ、結果的に運行スケジュールの変更や減便などを余儀なくされるケースが出ても不思議はなく、さすれば我々の生活にも影響してくることが十分に考えられるのだ。
昨今の「転売騒動」で思い出されるのは、コロナ禍の中、全国の店頭から姿を消し、フリマアプリなどで数倍の高値が付けられ登場した「マスク」だ。
その際は、小売店舗やECサイトなど不特定の相手に販売する者から購入したマスクを、購入した金額よりも高い価格でインターネットや店舗などを通じ、不特定または多数の者へ転売することを政府が禁止した。
こうした事例からも、社会インフラである物流が止まる可能性があるのならば、今回もマスクの際と同じように政府が尿素水の転売を禁じる必要もあるのではないだろうか。
参考文献:
マスク転売規制についてのQ&A(厚労省・経産省・消費者庁)
https://www.pref.gunma.jp/contents/100145379.pdf
関連過去記事:
韓国は対岸の火事ではない 日本でも尿素水不足で「物流が止まる」の声
https://news.yahoo.co.jp/byline/hashimotoaiki/20211207-00271300
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