1件のSNS投稿から生まれた味の素「冷凍餃子フライパンチャレンジ」から学ぶ「不」の声との向き合い方
「冷凍ギョーザが張り付いてしまうフライパンを提供してください」
そんな味の素冷凍食品の呼びかけに、なんと3520個ものフライパンが届いてしまったことで、SNSでも大いに話題になった「冷凍餃子フライパンチャレンジ」。
その裏側を、味の素冷凍食品 取締役常務執行役員 マーケティング本部長の松本征之さんが、沖縄で開催された「マーケティングアジェンダ2024」で詳しく教えてくれましたので、ご紹介したいと思います。
SNS投稿をきっかけにフライパンの提供呼びかけ
この「冷凍餃子フライパンチャレンジ」は、日本だけでなく海外のさまざまなPRアワードを受賞しており、業界では有名な成功事例となっています。
実は、この企画のはじまりは1件の「餃子の皮が張り付いた!」というお客様の声に遡ります。
「油いらないって!!書いてたじゃん!!!嘘つき!!!」
焼け焦げた餃子の皮がフライパンにこびりついた写真とともに投稿されたこの投稿は、X上で話題になり、同様の現象が起きた人の共感の声や、アドバイスなどが寄せられる事態になります。
通常の企業であれば、ある意味での炎上状態になっているこの投稿には直接触れずに、1件のクレームとして扱っていたかもしれません。
しかし、味の素冷凍食品の担当者は、この投稿に正面から向き合う判断をします。翌日にこの投稿に対して、お詫びの文章とともにフライパンの提供の依頼のコメントを行ったのです。
SNS上のクレームに対してサポートを行う行為は「アクティブサポート」と呼ばれ、現在では多くの企業が実施していますが、通常は解決が可能なクレームに対するサポートを中心に行うのが常識です。
生活者の焼き方や環境によって焦げてしまった可能性がある行為に対して、ここまで踏み込んだ対応を行うことはリスクもあります。
しかし、味の素冷凍食品の対応はこれだけにとどまりませんでした。
問題が発生するフライパンの提供を全国に呼びかけ
翌月にはなんと「冷凍ギョーザが張り付いてしまうフライパンを提供してください」と同様の問題が発生するフライパンの提供を全国に呼びかけたのです。
その結果、冒頭に書いたように、なんと約3日間で全国より1000個以上のフライパンが集まり、最終的には3520個も集まることになります。
その後、味の素冷凍食品は、R&Dチームが届いたフライパンを徹底検証。なんと3520個のフライパンにナンバリングをして、3Dスキャンをして専用サイトを立ち上げます。
さらにnoteも立ち上げて具体的なフライパンの焦げ付きの状況検証の経緯報告まで丁寧に実施されるのです。
※参考:まずは100個!|味の素冷凍食品公式フライパンnote
こうした味の素冷凍食品の徹底した改良への姿勢は「狂気のサイト」としてSNS上でも話題になり、最終的にリニューアル商品の売上は定番商品としては大幅増という結果につながります。
やす子がうたう「羽根パネェ~!ギョーザ」のおいしい焼き方篇(出典:味の素冷凍食品公式YouTube)
「不」の声の解消は、感動につながる
ここで注目したいのは、同様の状況になったときに私たちは同じ判断ができるか?という点です。
味の素冷凍食品が、今回ここまでの神対応を行うことができた背景にはまず「永久改良」という企業文化が、一人ひとりに浸透していた面が大きいようです。
実は味の素冷凍食品においても「永久改良」を誰が言い出したのかは分からないそうですが、冷凍餃子では絶対負けないという活動が文化に根付いていった歴史があるようです。
だからこそ、SNS担当者は顧客の声から逃げずに正面から向き合い、あえて着払いでフライパンの募集をチームとして決断し、R&D(研究開発)チームもフライパンを徹底的に検証するという信じられないほど地道な作業に取り組むことができたのだと言えます。
また、味の素冷凍食品のSNS担当者が過去にX上で冷凍食品を巡る手抜き論争が勃発していた際に、「手抜きではなく手間抜き」という投稿を通じて賛否の声が交差したものの、多くの応援の声を得ることができたという経験があったことも、好影響を与えていたようです。
※参考: 企業の投稿が44万いいね! 冷凍餃子の#手間抜き論争が大きく話題化した理由
松本さんは、顧客の「不」の声は見過ごしたくなりがちだが、その声を解消できると感動にもなり得ると話されていました。
特に「冷凍餃子フライパンチャレンジ」で重要なのは、この取り組みが最初から話題化を狙ったものではなかったという点でしょう。
現場の担当者一人ひとりが、顧客の「不」の声と逃げずに向き合い、「永久改良」の企業文化によって「不」の声を本気で解消しようと取り組んだことが「冷凍餃子フライパンチャレンジ」の成功につながったと言えます。
ファミリーマートCMOの足立光さんも「話題化は炎上と紙一重だからこそ、一歩踏み込む勇気が大事」という話をされていました。
実は一見炎上やクレームに見える顧客の「不」の声にこそ、その企業が取り組むべき本当のテーマがあるということも言えるかもしれません。
(※この記事は、アジェンダノート寄稿記事を加筆・修正のうえ転載しています。)