藤井聡太七段(17)の玄妙な飛車浮きを木村一基王位(47)は眼鏡をはずして見つめる 王位戦第2局中盤
7月14日。北海道札幌市・ホテルエミシア札幌においておこなわれている第61期王位戦七番勝負第2局▲木村一基王位(47歳)-△藤井聡太七段(17歳)戦は、2日目午後の戦いに入りました。棋譜は公式ページをご覧ください。
藤井七段の封じ手は「合わせの歩」。飛車を積極的に前に進めて縦横に使います。本局は木村王位が先手番ですが、先に本格的な攻勢を見せたのは後手番の藤井七段でした。
藤井七段の飛車は木村陣5筋の歩をかすめとります。一方で木村王位は自然に応対。歩を1枚渡しても、トータルでは2歩得の成果を得ました。形勢判断は微妙なところで、先手と後手、どちらを持ちたいかは好みによるところかもしれません。
52手目。藤井七段は53分を消費して、飛車をじっと元の8筋に戻します。対して木村王位も長考で応じ、12時30分、昼食休憩に入りました。
両者の食事はいずれも、地元北海道産の食材がふんだんに使われているようです。
対局再開の時刻は13時30分。その十分以上前に、手番の木村王位は対局室に戻ってきていて、将棋盤の前で考え始めました。
再開4分ほど前に藤井七段も戻ってきて、下座に着きます。
木村王位はマスクなし。藤井七段は白いマスクをつけています。コロナ禍がとても収まったとは言えない現在。将棋界の公式戦では、対局者はできるだけマスクをつけることが推奨されています。しかし、ずっとつけっぱなしでなければいけない、というわけではありません。
「時間になりました」
13時30分。記録係の広森航汰三段が、再開の定刻となったことを静かに告げます。木村王位は右手をほおに当て、考え続けます。報道陣としては、木村王位が一手指してもらえると、写真が撮れてありがたい、というところでもあります。しかし対局者の側は、そんな気遣いをする必要はありません。やがて報道陣は対局室から退出しました。
「木村先生、残り2時間30分です」
広森三段がそう告げると、木村王位は律儀に「はい」と返事をしました。
53手目。木村王位は端に一つ角を上がります。攻防ともに含みのある手です。木村王位の残りは2時間29分となりました。
藤井七段もこの角上がりは予期していたか。3分ほどでじっと自陣の銀を二段目に上がりました。残りは2時間21分。形勢、時間ともに、ほぼ互角の進行です。
進んで、木村王位もグレーのマスクを再びつけました。さらに進むと、今度は藤井七段がマスクをはずしました。
端の9筋で香車が交換され、両者の駒台に初めて歩以外の駒が乗ります。
14時55分。藤井七段は41分を使って、端の飛車をじっと一つ、相手の角の頭の上に浮きます。木村陣四段目の銀をはさんで互いの飛車が横の段で向かい合う形となりました。なんとも玄妙な一手です。
ここで藤井七段は席を立ちました。
藤井七段のこの飛車浮きは、観戦者にとってはなんとも意外な一手でした。
戸辺「おお・・・。全然違いましたね・・・。へえ・・・。ちょっと深いですね・・・」
ABEMA解説の戸辺誠七段も検討していなかった手でした。
対局者の木村王位もまた意表を衝かれたようです。じっと斜め下を向いて、やはり意外そうな表情をしています。このあたりの木村王位の心情を、戸辺七段が推測します。
戸辺「対局室の木村王位も、ちょっと首をひねってるじゃないですか。『うーん・・・?』みたいな。『そうなの?』っていう」
木村王位は眼鏡をはずし、ちょっと信じられないものを見るような目で盤上を見つめています。
戸辺「これはちょっと、意外っていう顔をしてますよ。ほら。『えーっ、そうなんだ? まじすか?』みたいな顔をしてるじゃないですか、だって」
藤井七段が席をはずしたあと、15時12分頃、木村王位はぼやきのような大きな声をあげました。
「いやあ・・・」
藤井七段は席に戻り、脇息(ひじかけ)にもたれて目を閉じ、休息を取るような姿勢で木村王位の指し手を待ちます。もちろんその間にも、脳内では先を読んでいるのでしょう。
15時15分頃、木村王位は席を立ちながら広森三段に「残りどれぐらい?」と時間を尋ねます。
「1時間と43分です」
一方の藤井七段は1時間34分。まだまだ長い中盤戦が続きそうなところ。第1局とは対照的な、いかにも2日制のタイトル戦らしいスローペースとなりました。