バルサ相手に衝撃の2ゴール。代表招集直前で乾貴士が見せ付けた「個の力」
衝撃の2ゴールだった。
エイバルに所属する乾貴士が、リーガエスパニョーラ最終節のバルセロナ戦(2-4)で2度ネットを揺らしたのである。
両チームにとって、ほとんど何も懸かっていない試合ではあった。最終節まで優勝の可能性を残していたバルサだが、それは首位レアル・マドリーがマラガとのアウェー戦を落とすという条件が絶対であり、あくまで他力本願だった。一方、エイバルはすでにヨーロッパリーグ出場権獲得の望みを断たれていた。
マドリーが開始早々の2分にクリスティアーノ・ロナウドのゴールで先制したことで、バルサの本拠地カンプ・ノウの雰囲気は一層白けたものとなる。
乾の左足が火を噴いたのは、そんな時だ。8分、アンデル・カパのアーリークロスに、難しいバウンドを左足で抑え込んで枠にねじ込んだ。それだけでは飽き足らず、この日本人MFは61分にキケ・ガルシアから落とされたボールに左足を振り抜き、GKマーク=アンドレ・テアシュテーゲンの横っ飛びを完全に無効化する正真正銘のゴラッソを決めたのである。
■バルサと乾の奇しき巡り合わせ
結局はバルサが底力を見せ付け、オウンゴールにルイス・スアレス、リオネル・メッシの2得点で残り30分での逆転劇を演じた。だが驚くべきは、やはり乾の個の力だ。
バルサ相手の得点。これには、「日本人初」という札がつく。歴史上誰も成し遂げたことのない偉業を、この男はまたしても簡単にやってのけた。それも、一挙に2得点だ。
バルサと乾には、不思議な縁があるのかもしれない。
今季、2005-06シーズンに大久保嘉人(現FC東京)がマジョルカで記録した39試合を上回り、乾はスペイン1部の日本人選手最多出場記録を更新した。記念すべき40試合目が、本拠地イプルーアで行われたリーガ第19節バルサ戦だった。
乾は今季のリーガで、一時帰国によって欠場を余儀なくされた2試合を除き、出場可能だった36試合で28試合に出場。ホセ・ルイス・メンディリバル監督の下で、完全なる主力となった。
前線からのプレッシングを生命線とする“エイバル・スタイル”において、乾が重宝されてきた大きな理由のひとつはハードワークを厭わない姿勢にある。
だが指揮官は乾により多くを求めていた。以前エイバルを取材で訪れた際、関係者から「クロスと突破は、今季タカシに求められている部分」と聞いていた。
乾自身、移籍2年目ではその部分を意識していたようだ。
リーガ第13節ベティス戦で相手DFクリスティアン・ピッツィーニを退場に追いやり、3-1の勝利に大きく貢献した。リーガ第17節のアトレティコ・マドリー戦(0-1)では相手DFシメ・ヴルサリコをきりきり舞いにし、敵将ディエゴ・シメオネにさえその能力を認めさせた。成果は確実に出始めていた。
■乾の唯一の課題だった得点力
これまで、乾の唯一の課題は得点力だった。
第29節ビジャレアル戦(3-2)の今季初得点を、「キャリアベストゴールだった」と語っていた乾は、エイバルではなかなか得点で貢献できずにいた。
エイバルはセルジ・エンリク(今季リーガ11得点)、ペドロ・レオン(10得点)、キケ・ガルシア(8得点)、アドリアン・ゴンサレス(7得点)と決定力を有した選手たちを前線に揃える。
乾がゴールを取らなくても、チームは勝利への道筋をしっかりと辿れていたのである。
それでもメンディリバル監督は練習で乾がシュートを決められなければでんぐり返しをさせるという“罰ゲーム”を下し、乾に発破をかけ続けた。無論、乾が決めればでんぐり返しをするのは指揮官の方であったが。
そうして迎えた最終節。ノープレッシャーだったとは言え、乾はバルサから2ゴールを奪った。ビッグチームを震えさせる、2得点。これが彼の大きな自信になったのは間違いない。
今月25日には、6月7日の親善試合シリア戦、13日のワールドカップ最終予選イラク戦に向けた日本代表の招集選手が発表される。
なお、ヴァイド・ハリルホジッチ監督は先日、今回の招集リストについて通常(23名前後)よりも呼ぶ選手を増やす可能性を示唆している。
目に見えて成長している乾を、ハリルホジッチ監督が追跡してくれていることを願うばかりだ。