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今シーズン筒香嘉智を復活させたのは誰?強豪ドジャースを支える専門性に特化したコーチ分業制

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ドジャースでゲームプランニングを担当するダニー・レーマン・コーチ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【WS連覇&地区9連覇を逃したドジャース】

 ブレーブスが26年ぶりにワールドシリーズを制覇してから、早1ヶ月が経過しようとしている。

 シーズン開幕前は優勝候補の筆頭と目されていたドジャースだったが、リーグ優勝決定シリーズでブレーブスに敗れワールドシリーズ連覇の夢が断たれ、さらにジャイアンツとシーズン最終戦までもつれる死闘の末、地区9連覇も逃している。

 しかしながら、今シーズンのドジャースの戦いぶりに失望したファンは少なかったのではないだろうか。

 シーズン開幕からケガ人が続出し、シーズン最後まで本来の戦力で戦うことができなかった中で、今シーズン最多勝を記録したジャイアンツに次ぐ106勝を挙げるともに、ポストシーズンでもジャイアンツ、カージナルス、ブレーブスと互角の戦いを演じたのだから、むしろ健闘を称えたい気持ちの方が強かったはずだ。

【チームを支え続けたコーチ陣】

 改めて今シーズンのドジャースのチーム成績を振り返ってみても、やはりチーム力は抜群だったことが理解できる。

 ケガ人により26人の出場選手枠が日々入れ替わる中でも、チームの打撃成績は総得点、打点数でナ・リーグ1位を記録し、投手成績でも防御率、被打率で同1位にランクしている。まさに投打ともにリーグトップを維持し続けたのだ。

 もちろんドジャースの選手層の厚さがその理由だといえるだろうが、それと同時に、入れ替わる選手たちを支えるコーチ陣の役割を見逃すことはできないように思う。

 ドジャースのみならずMLBでは毎年のように選手が大幅に入れ替わるのが当然の世界で、チームの総得点数はナ・リーグで4年連続1位、さらにチーム防御率も5年連続1位を記録していることからも、コーチ陣がしっかり選手たちをサポートしていることが理解できるだろう。

【筒香選手も復活させた的確なコーチ分業制】

 ドジャースにおけるコーチングシステムの最大の特長は、的確なコーチ分業制ではないだろうか。その典型的な例が打撃コーチだ。

 今シーズンのドジャースは、コーチ補佐を含めるとブラント・ブラウン氏とロバート・バンスコヨック氏、アーロン・ベイツ氏と、3人の打撃コーチを置いていた。最近MLBでは、NPBのように複数のコーチを同じ部門に配置するケースが少なくないが、ドジャースの場合は完全に役割を分担しているのだ。

 例えばブラウン氏は相手投手の投球術や配球を研究し戦略を立てることを担当し、バンスコヨック氏は選手たちの打撃を徹底的に動作解析した上で、選手たちの打撃フォームを日々チェックしながらアドバイスすることに専念している。

 以前本欄で指摘させてもらっているが、先ほどパイレーツと再契約した筒香嘉智選手がパイレーツに移籍後に打撃爆発できたのも、ドジャース傘下のマイナーリーグでしっかり調整できたからに他ならない。

 またレイズからドジャースにトレードされた直後に、筒香選手は打撃コーチと話し合い、打撃フォームを見直ししていることを明らかにしている。残念ながら筒香選手が本来の打撃を取り戻すまでに時間がかかってしまったが、そうしたドジャースのコーチ陣が及ぼした影響は決して小さくなかったように思う。

【他チームでは珍しいゲームプランニング担当コーチ】

 さらにドジャースには、かなり専門性の高いコーチが存在しているのをご存知だろうか。チームのメディアガイドによれば、「ゲームプランイング&コミュニケーション」を担当するダニー・レーマン氏だ。

 レーマン氏は3年間ドジャースでビデオスカウトを務めた後、2018年に正式にコーチ陣に迎え入れられている。当時の記事によれば、レーマン氏は投手コーチや打撃コーチのように技術部門に携わるのではなく、試合前と試合中のグラウンド及びベンチ内のゲームプランニングやポジショニングを任せられているようだ。

 チーム関係者によれば、試合を進行する上での戦略や守備位置などを担当しており、間違いなくレーマン氏はチームの勝敗を握る重要人物だ。特に野手の守備位置に関しては、他チームの追随を許さないような細かい戦術をつくり出しているといわれている。

 レーマン氏は2019年に一度コーチ陣から外れているが、2020年に再び呼び戻されている。

【現在のシステムを築き上げたフリードマン社長】

 こうしたコーチングシステムを築き上げたからこそ、ドジャースは選手が入れ替わりながらも長年にわたり強豪チームを持続できるようになったのだ。

 そのシステムを考案した人物こそ、MLB屈指の敏腕フロントとして知られるアンドリュー・フリードマン球団社長だ。

 今シーズンはシーズン途中でマックス・シャーザー投手を獲得するなど、年俸総額がMLBダントツの1位になってしまい、今オフは大型補強が行えず、逆にシャーザー投手、コーリー・シーガー選手を他チームに奪われている。

 今後どんな補強を行っていくかに注目が集まるところだが、とりあえず確固たるコーチングシステムが確立しているドジャースが、来シーズンも強豪チームの仲間入りをすることだけは間違いなさそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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