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筒香獲得は失敗ではなかった?!パイレーツでの打撃爆発で評価を上げたドジャースのスカウト力と指導力

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
8月29日のカージナルス戦でサヨナラ本塁打を放った筒香嘉智選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【パイレーツ移籍後驚異の長打力を誇る筒香選手】

 パイレーツ移籍後の筒香嘉智選手の勢いが止まらない。

 すでに主要メディアが大々的に報じているように、8月29日(現地時間)のカージナルス戦では、1対3の9回1死一、二塁で迎えた第4打席で、逆転サヨナラ3点本塁打を放ち、チームの窮地を救う活躍を見せた。

 筒香選手の活躍は、それだけに止まらない。8月14日(同)にドジャース傘下3Aから解雇された2日後の16日にパイレーツとメジャー契約で合意。移籍後は13試合に出場し、打率.333、5本塁打、11打点の好成績を残している。

 特に、筒香選手の持ち味だった長打力を遺憾なく発揮。移籍後9安打中8本が長打(2二塁打、1三塁打、5本塁打)で、長打率は驚異の1.037と、MLBでも規格外のパワーを見せつけている。

【来季のMLB残留に向け強烈アピールに】

 果たしてどれだけの人が、パイレーツ移籍後の筒香選手に対しこれだけの活躍を予想していただろうか。

 レイズでMLB2年目のシーズンを迎えた筒香選手だったが、開幕から打撃不振が続き、5月11日(同)に40人枠から外される措置(いわゆるDFA)をとられた。

 その後ウェーバー期間中の5月15日(同)にドジャースへのトレードが成立したものの、新天地でもなかなか成績を残すことができず。6月9日(同)に右ふくらはぎ痛を理由に負傷者リスト入り。そして同17日から傘下3Aでリハビリ出場に移行し、打撃復活のチャンスを与えられていた。

 しかしリハビリ中もなかなか打撃を上向かせることができず、20日間のリハビリ出場期間が終了するのと同時に、ルールに合わせドジャースでも40人枠から外され、本人も同意の下ドジャースに残留し、3Aで出場を続けていた。

 ただ以前に本欄で報告したように、7月中旬以降から筒香選手の打撃がようやく上向きだし、パイレーツ移籍が決まるまでの8月の月間成績は、打率.387、2本塁打、11打点を残す状態まで上向いていた。

 ただその成績は3Aのものであり、投手のレベルが上がるメジャーで、同様の成績を残せるかは未知数の部分があった。3Aでの打撃向上に期待して獲得に動いたパイレーツでさえも、現在の活躍を想像できていなかったのではないだろうか。

 現状ではシーズン終了後もパイレーツが筒香選手の保有権を有することになるが、仮にパイレーツと袂を分かつかたちになったとしても、現在披露している打撃が、来シーズンのMLB残留に向けて大きなアピールになっているのは間違いないところだ。

【打撃傾向が明らかに変化し弱点も克服】

 実はデータを深掘りしてみると、パイレーツ移籍後の筒香選手の打撃傾向は、明確に変化している。

 これはメディアの間でも指摘されてきたことだが、パイレーツ移籍前の筒香選手は、「速球系の球が打てない」ことが弱点とされてきた。

 それを物語るように、MLB公式サイトに掲載されている筒香選手の打撃データをチェックしても、今シーズン筒香選手と対戦した投手の球種別占有率を見ると、速球系(4シーム、2シーム、カッター、シンカー)が全体の64.3%を占めている(8月28日時点)。それだけ相手チームも、筒香選手が速球系を苦手にしていると判断していたからに他ならない。

 ところがパイレーツ移籍後だけのデータをチェックすると、前述のサヨナラ本塁打を除く8安打のうち6本が、速球系を攻略したものなのだ。またデータとしてアップされていないので正確ではないが、サヨナラ本塁打に関しても、速球系(カッター?)を捉えたもののように見える。

 どう見ても現在の筒香選手に、これまで言われ続けてきた弱点が当てはまらないのは明々白々だ。

【筒香選手を蘇生させたドジャースの評価】

 こうした筒香選手に関する今シーズンの一連の流れを見ていくと、筒香選手を獲得しながら戦力として生かせなかったドジャースが貧乏くじを引いたように思われる方がおられるかもしれない。多分そうした評価を下すメディアもいるだろう。

 だが実際は、むしろ真逆だ。ドジャースは間違いなく筒香選手獲得で、チームとしての評価を上げていると考えるべきだ。

 改めて思い出して欲しい。レイズからDFAされた筒香選手に対し、ウェーバー期間中に手を挙げたドジャースは、「NPB時代からその打撃を高く評価するとともに、筒香選手はMLBでも同様の打撃ができる」と判断し、獲得に動いていた。

 もちろん当時ドジャースは外野手に負傷者が続出し、緊急補強の意味合いがあったのも確かだが、筒香選手の潜在能力をしっかり評価していたのも、紛れもない事実だ。果たして昨シーズンから打撃不振が続いていた筒香選手に対し、ドジャースのような評価をしていたチームは、他にどれほど存在していただろうか。

 残念ながらドジャースの期待するかたちで筒香選手の打撃が上向くことはなかったが、もし仮に筒香選手の打撃改善が1週間早かったら、またはドジャースが負傷者続出で日々40人枠を入れ替えるような危機的状況に陥っていなかったとしたら、多分筒香選手は40人枠から外れることなく、今も残留していたかもしれない。

 ただ結果として、筒香選手の打撃爆発がドジャースの選手を見抜く力、いわゆるスカウト力(もしくはスカウティング能力)が正確だったことを証明しているし、多少時間がかかったとはいえ、筒香選手を完全に蘇生させた彼らの指導力も、十分に評価に値するものだ。

 選手のみならずチームに対する評価も、決して単純なものではないということだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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