いまさらながら……2017年夏の甲子園、名采配をプレーバック。(その5・坂井)
▼第6日第4試合 2回戦
坂 井 000 013 020=6
明 豊 001 030 03x=7
3点を追う坂井(福井)は6回、八番・石川雅晴の二塁打で2点差とし、なおも1死二、三塁。打席には、2年生の九番・山内良太だ。打順は下位。もともと福井大会では5試合で犠打18と、こつこつとつなぐチームだ。さてさて、スクイズで1点差にして一番につなげるのか。明豊(大分)との試合は中盤、勝負どころ……。
山内の初球。二走、三走がそろってスタートし、おっ、スクイズかと思うと山内は高めの球に強攻。なんとなんと、ヒットエンドランだ。たたきつけた打球は前進守備の三遊間を破り、坂井は鮮やかに同点に追いついた。そういえば坂井は1点を追う4回、1死三塁から走者がスタートを切り、スクイズと思わせたが、やはり打者・吉川大翔は強攻している。このときはファウルだったが、6回、同じ作戦がまんまと功を奏したわけだ。
「ウチらしい攻めで、リズムに乗っていけました」
とは川村忠義監督だ。前身・春江工時代の2013年、栗原陵矢(現ソフトバンク)らがいてセンバツに出場した。翌14年に県立の4校が統合して坂井となり、夏はこれが初出場である。
走者を三塁に置いてのエンドランは、一見奇襲だが、点の入りにくい軟式野球ではよく見られる得点パターンだ。無死、あるいは1死で三塁に走者がいて、硬式ならばスクイズを仕掛けられる局面。走者がスタートを切り、打者はなんとしてでも当てにいき、欲をいえばたたきつけて弾ませる。スクイズなら、2ストライクからファウルすると三振だが、振りにいくのだから三振のリスクは低い。軟式の世界では"たたき""ボテラン"などと称される、一般的な戦術だ。
奇襲? いや、軟式野球ではなじみの戦術
実は川村監督、高校野球に転じる前、同じ福井県内の武生二中で軟式野球部を指導していた。1997年に赴任し、県大会出場レベルまで引きあげると、移った南越中では01年に中部日本大会優勝を達成。03年には羽水高に異動し、05年から監督を務めた野球部は、北信越大会に3回進んでいる。坂井の前身・春江工の監督は、09年8月からだ。
あれ、やっぱり軟式の経験からですか? とたずねると川村監督。
「そうです。高校野球でも、いつかは実践したいとずっと考えていました。ただ春江工時代は、バットに当てる技術とか、それをやるだけの力が整っていなかった。ですがこのチームでは、日常からずっと練習していますし、県大会でもありましたよ。自信を持つ作戦です」
なるほど、"奇襲"をまんまと成功させた山内は、「どんな球でも転がす自信がありました。機動力やバント、エンドランがチームの特徴です」。
坂井は8回、敵失などで一時リードを奪う。だが1点リードの8回、2死二塁で強打者・浜田太貴を迎えた場面。一塁が空いており、この日2二塁打の浜田を歩かせる選択肢もあった。それでも、吉川・石川のバッテリーは勝負を選択。これが裏目に出て逆転2ランを浴び、そのまま敗れたが、
「素晴らしい打線でした。でも、"逃げない"がウチのモットーですから」
と川村監督、意に介さない。
この試合のスタメンのうち、2年生は3人いた。彼らが残った新チームは、秋の福井大会を準優勝し、来春のセンバツ出場がかかる北信越大会にコマを進めている。