2年ぶりのコミケ開幕! コロナ対策を徹底した新しい同人誌即売会のスタイルとは?
世界最大の同人誌即売会・コミックマーケット(コミケ)99が12月30日、東京都江東区の東京ビッグサイトで開かれました。コミケが開催されたのは2019年12月末以来、実に2年ぶりです。
感染症拡大防止を徹底した会場運営
コロナ禍以降初のコミケ開催とあって、これまでにない感染症拡大防止を徹底した会場運営となっています。まず、開催期間をこれまでの3日間から、2日間に減らしています(2019年は東京ビッグサイト工事の都合上、4日開催)。出展サークル数も、1日あたり約1万2000サークルから、約1万サークルに減らしました。一方で、出展面積は過去最大となる計16ホールを確保しています。
続いてコミケでよく話題になるのは、1日最大20万人、通常17万人前後にもなる膨大な来場者数です。この数を制限するために、入場受付時間を指定した事前チケット制を導入しました。これにより、来場者数を1日あたり5万5000人に抑えています。
さらに特徴的なのが、入場時に検温するだけでなく、新型コロナウイルスのワクチン接種証明書か、PCR検査の陰性証明書がないと入場できない仕組みです。これは日本国政府の「ワクチン・検査パッケージ」を先行的に導入したもので、政府の技術実証も兼ねています。
また、東京ビッグサイトは東1~8ホールからなる東展示棟と、西1~4と南1~4ホールからなる西・南展示棟の東西に大きく分かれるのですが、この東西の入場チケットも別々に設定され、午後になり混雑がある程度落ち着くまで、東西の移動が自由にできないようにしています。
初日の30日は、朝7時から30分ごとに時間を分け、一人一人間隔を保った待機列が形成されました。大きな混乱もなく、10時の開場とともに参加者はスムーズに入場していきました。
変則日程の上中止となったコミケ98
コミケは元々、毎年8月2週目の週末と、年末の2回実施されていました。ところが、本来は2020年夏に開催が予定されていたコミケ98は、東京オリンピックの影響で会場である東京ビッグサイトが使えないため、20年5月のゴールデンウィーク中の開催が予定されていました。
ところが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、20年3月にコミケ98の「中止」が決まります。そして、コミケ98は欠番扱いのまま、本来は20年冬に開催が予定されていたコミケ99をどのように開催するかを、コミケを運営するコミックマーケット準備会(以下、準備会)は模索し続けることになります。
コロナ禍が始まったばかりの20年の4月ごろは、「夏になれば落ち着くだろう」という見方もありました。ところが周知の通り、夏になっても収束の目処は見えませんでした。そこで準備会は7月に、コミケ99は20年12月には開催せず、21年5月の開催を目指すことを発表します。東京オリンピックの開催も1年遅れたため、コミケの開催もそっくり1年遅らせようという判断でした。
新しい同人誌即売会のあり方を探る
その後、一度は国内の新型コロナウイルスの感染状況が落ち着き、政府もGoToトラベルキャンペーンをはじめとする様々な需要喚起策を打ち出すようになります。同人イベントの開催も徐々に再開するようになります。東京ビッグサイトを使用した中規模なものでも、20年10月には『東方Project』シリーズという作品群に限った同人イベント「博麗神社例大祭」や、コミケをそのまま縮小したようなオールジャンル同人誌即売会「COMIC1(こみっくいち)」などの開催が再開されました。
これらの同人誌即売会は感染症対策を徹底した上で開催されました。具体的には、出展サークル数を減らし、会場の配置をどのように変えればいいのか。ソーシャルディスタンスを保ちつつ、かつスムーズに大勢の人数を入場させるにはどういうすればいいのかなど、ウィズコロナ時代に向けた新しい同人イベント運営のあり方が常に模索されました。
そして、これらの即売会イベントのスタッフには、実はコミケのスタッフとかけもちしている人も少なくありません。東京ビッグサイトで中規模なイベントを運営しながら、全館を使う最大規模のコミケをどうやったら運営できるのか。それぞれのイベントの知見を専門家の協力を得ながら結集させ、21年5月の1年半ぶりコミケ開催に向け態勢を整える予定でした。
ところがその後、デルタ株など変異種の感染拡大が急速に続き、21年1月には緊急事態宣言が再発令されます。感染症拡大の収束はなかなか見えず、準備会も3月に、5月に予定されていたコミケ99の開催を12月に延期することを決定します。
その後も首都圏では、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が続きましたが、国民全体のワクチンの摂取も進み、夏以降、感染者数は急速に下がり続けます。9月いっぱいでまん延防止等重点措置が解除されてからも急激な感染拡大には至っておらず、行政の大規模イベント開催に関する制限も緩和されたことで、12月30日に無事、2年ぶりのコミケ開催が実現できました。
徹夜列や「始発ダッシュ」が解消
こうして迎えたコミケ99では、“副産物”も生まれました。まず、11時以降から入れる1日2000円の通常チケットとは別に、朝7時に入場受付が可能で、10時以降から会場に入れる「アーリーチケット」を1日5000円で販売しました。このチケットの差別化により、これまで問題視されていた徹夜列が解消したのです。
以前から準備会では徹夜は禁止行為で、公共交通機関の始発以降からの来場を呼びかけています。ところが実態としては徹夜組による列が形成されており、その後に始発組による列が続くという状態がずっと続いていました。
そのため、マナーを守る参加者にとっては、徹夜組の存在は目の上のたんこぶとも言えました。また、こうした列構造の問題もあり、始発列車が東京ビッグサイト最寄りの国際展示場駅に着くと、我先に降車して待機列に駆け出す、いわゆる「始発ダッシュ」も問題視されていました。ところが、入場受付時間が指定されたことによって、この「始発ダッシュ」の問題も解消しました。徹夜列と「始発ダッシュ」……この2つの大きな問題が一度に解消されたことは、半世紀近くにわたるコミケの歴史の中でも快挙と言えます。
一方で、入場チケットの当日販売が現段階ではなく、またチケットの価格が1日2000円以上かかるようになり、気軽に訪れられるイベントではなくなった面もあります。敷居を高くすることで来場者を抑制する狙いがあることは見て取れますが、今後人類がコロナをより克服できるようになれば、例えば午後からの来場には事実上チケットが不要になる措置を執るなど、緩和措置も必要になるでしょう。
コミケに10年以上足を運ぶ、30代の男性参加者は新しいコミケの様式についてこう話します。
「年々コミケの規模が拡大する一方で、様々な問題が顕著になっていました。しかし今回は開場直後でも場内のいろいろなサークルをゆっくりと見て回れました。一番快適なコミケだった思います。ただ、これはあくまでコロナ禍の制限によるものです。私の周りにも地方や海外在住者をはじめ、様々な理由で今回の参加を断念した人もおり、複雑な思いです。『参加者全員は全て平等』という理念を準備会は掲げていますが、早く誰もが平等に参加できるコミケに戻って欲しいと思います」
対面イベントの重要性
これまで、コミケが延期されるたびに、元々の開催予定日にオンラインで代替イベントを実施する「エアコミケ」が開かれてきました。そしてついに2年ぶりに、「エア」ではない本物のコミケが実施されました。同好の士が再び全国から一堂に会せるようになったことは、極めて大きな価値があると筆者は考えます。
実はコミケのような即売会イベントは、ある種の同窓会のような役割も兼ね備えています。ここでしか手に入らない大好きな絵師の同人誌が欲しい、自分の作品を多くの人に見てもらいたい、中には、転売の商材が欲しいなど、コミケに来る目的は人それぞれ異なります。きっかけは人それぞれなのですが、何度も足を運ぶうちに、自然と人と人とのつながりができていくのが同人誌即売会の魅力です。
そしてこれは、声優やアイドルや音楽アーティストなどのライブでも同じことが言えます。ライブのたびに、同好の士が全国から一堂に集まるこの上ない機会となるのです。ところがコロナ禍によって、こうした同好の士が集まれる機会がことごとく奪われてしまいました。
少なくともコミケは、この同好の士が一堂に集まれる場によって、新しいコンテンツを次々と生み出してきた歴史があります。例えば、今年7月から9月にもテレビアニメ化されていた『ひぐらしのなく頃に』シリーズ。人気ゲーム作品『Fate』シリーズの前作となった『月姫』シリーズ。YouTubeの解説動画などでは今やおなじみのキャラクターとなっている「ゆっくり霊夢」と「ゆっくり魔理沙」の原作である『東方Project』シリーズは、いずれもコミケに出展していた同人サークルから生まれた作品達です。
筆者も20年以上にわたりコミケに通い続けていますが、2年ぶりのコミケが開催されたことで、当たり前だったことが実は当たり前ではなかったこと、そして改めてこうした対面イベントの大事さを痛感しています。コロナ禍の新しいコミケの運営方法を今後より発展させて、徹夜や早起きをしなくてもいい、誰もが気軽に参加できるイベントになればよいなと思います。
(撮影・全て筆者)