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慢性のかゆみに悩む人必見!そう痒症の診断と治療法

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

慢性そう痒症とは、6週間以上続くかゆみのことを指します。国内外の調査から、生涯有病率は22%と高く、高齢者ほど罹患率が上昇することがわかっています。難治性のかゆみは、不眠やQOL(生活の質)の低下を招きます。米国では年間700万件の受診があり、そのうち約半数は医療機関を受診していないと推定されるため、実際の患者数はさらに多いかもしれません。

【慢性そう痒症の原因と分類】

慢性そう痒症は大きく分けて、炎症性、神経障害性、炎症性と神経障害性の混合型の3つに分類されます。

炎症性は全体の60%を占め、アトピー性皮膚炎、乾癬、脂漏性皮膚炎などが原因となります。これらの疾患では、IL-4やIL-13、IL-31などのサイトカイン(炎症を引き起こすタンパク質)が痒みの発生に関わっています。最近ではこれらのサイトカインを標的とした新薬が開発され、治療選択肢が広がっています。

一方、神経障害性と混合型は25%を占めます。帯状疱疹後神経痛(帯状疱疹の後に起こる難治性の痛み)や、Brachioradial pruritus(腕の外側の限局性そう痒症)などが含まれ、末梢や中枢の神経の過敏が原因と考えられています。混合型の代表である苔癬化病変を伴うそう痒症は、炎症と神経の関与が指摘されています。

残りの15%は、腎不全肝不全悪性腫瘍など内科的疾患に伴うかゆみや、薬剤の副作用によるものです。オピオイド鎮痛薬や抗がん剤の分子標的薬では、そう痒の発生頻度が高いことが知られています。

【慢性そう痒症の診断と検査】

慢性そう痒症の診断で最も重要なのは、詳細な問診と視診です。かゆみの部位や程度、日内変動、悪化・軽快因子などを聴取します。そして皮疹の有無を確認し、原発疹(原因となる皮膚病変)と続発疹(かゆみによる引っ掻き痕など)を区別します。

原発疹を認める場合は、皮膚生検で確定診断を得ることもあります。一方、皮疹を認めない場合や、1年未満の経過で全身性の疾患が疑われる際は、スクリーニング検査を行います。一般的な検査項目は以下の通りです。

血算:貧血や血液疾患のチェック。慢性そう痒症との直接的な関連は乏しいですが、全身状態の評価に有用です。
生化学検査:腎機能障害や肝機能障害、電解質異常の評価。これらの異常が慢性そう痒症の原因となることがあります。
甲状腺機能検査:甲状腺機能亢進症や低下症は、全身性のそう痒症の原因の一つです。

ただし、これらの検査が症状の改善につながるというエビデンスは乏しいのが現状です。

【慢性そう痒症の治療戦略】

慢性そう痒症の治療は、原因となる疾患を特定し、病態に応じた治療を行うことが基本です。

炎症性そう痒症の第一選択薬は、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などの抗炎症作用のある外用薬です。ビタミンD3外用薬は、乾癬に伴うそう痒に有効です。外用薬で効果不十分な場合は、経口ステロイドや免疫抑制薬、生物学的製剤の使用を検討します。IL-4/13阻害薬のデュピルマブは、アトピー性皮膚炎や結節性痒疹に高い有効性を示しています。

神経障害性そう痒症では、カプサイシンやメントール、リドカインなどの局所麻酔薬外用が第一選択となります。内服ではガバペンチン、プレガバリンなどの抗てんかん薬、パロキセチンなどSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、ミルタザピンなどNaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)が使用されます。オピオイド受容体に作用するナルトレキソンやブトルファノールも難治例で試みられます。

光線療法は、炎症性および神経障害性そう痒症の両者に有効です。UVB(280-315nm)は表皮内の神経線維を減少させ、NB-UVB(311nm)はサイトカインを抑制すると考えられています。

内科的疾患が原因の場合は、原疾患の治療が最優先です。例えば透析に伴う皮膚のかゆみでは、透析条件の見直しや活性炭の使用を検討します。肝疾患に伴うそう痒では、胆汁うっ滞の改善が重要で、内科と連携した治療が求められます。

【皮膚科医からのアドバイス】

慢性そう痒症は、患者さんのQOLを大きく損ねる疾患です。皮膚科医として、そう痒症状の改善のためには、的確な診断と病態に基づいた治療選択が肝要と考えます。内科的疾患の合併も少なくないため、全身を診る視点を忘れてはいけません。

治療抵抗性のそう痒症例では、漫然と外用ステロイド薬を継続するのではなく、他の治療法への変更を試みるべきでしょう。また、皮疹を伴わない慢性そう痒症では、神経障害性そう痒の可能性を念頭に置き、神経調節作用のある外用薬や内服薬を積極的に取り入れることが求められます。

皮膚のかゆみ対策として、スキンケアも重要です。保湿剤の使用や、体をタオルでゴシゴシこすらないなどの刺激の少ない入浴方法を心がけましょう。生活習慣の改善やストレス管理も、そう痒症状の緩和に役立ちます。

慢性的なかゆみでお困りの方は、ぜひ皮膚科専門医に相談してみてください。

【参考文献】

1. Yosipovitch G, Rosen JD, Hashimoto T. Itch: From mechanism to (novel) therapeutic approaches. J Allergy Clin Immunol. 2018;142(5):1375-1390.

2. Pereira MP, Steinke S, Zeidler C, et al. European Academy of Dermatology and Venereology European Prurigo Project: expert consensus on the definition, classification and terminology of chronic prurigo. J Eur Acad Dermatology Venereol. 2018;32(7):1059-1065.

3. JAMA. Published online May 29, 2024. doi:10.1001/jama.2024.4899

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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