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【体操】白井健三が村上茉愛を完コピ! 動画が再生回数合計33万超え

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
18年11月のファン感謝イベントで体操日本代表選手が記念撮影(撮影:矢内由美子)

■日体大の男子主将・白井が女子主将・村上の演技を

 体操界のひねり王子・白井健三(日体大4年)が女子のエース・村上茉愛(同)になりきって演じた迫真のパフォーマンスが世界で話題になっている。

 16年リオ五輪体操男子団体金メダリストで、13、15、17年世界選手権種目別男子ゆか金メダルの白井が、17年世界選手権種目別女子ゆかで金メダルを獲得した村上の演技を完全にコピー。年末に公開された動画は、その完成度の高さが評判を呼び、年明け以降も再生回数が伸び続けている。異なった角度から撮影された2パターンの動画の再生回数の合計はすでに33万回を超えた。(※19年1月5日現在)

白井健三選手による村上茉愛選手の演技の完全コピー動画の投稿

 動画が撮影されたのは18年12月28日。日体大体操競技部の練習納めの恒例として長年続いている学年対抗戦の中で、男子部主将の白井が女子部主将である村上のゆかの演技を、振り付けまで忠実に再現するパフォーマンスを披露した。

 演技開始の合図からスタートのポーズを取ると、「茉愛さん、ガンバでーす」と男子部員たちの声が響き渡り、会場である同校体操競技場は大盛り上がり。印象的なシンセサイザー音から始まる音楽が歓声でかき消されるほどになる中、白井は粛々と演技を進めた。

別の角度から撮影された投稿映像では振り付けの細部も忠実にコピーしていることが分かる

■フィギュアスケート選手も反応

 村上の代名詞であるH難度「シリバス(後方抱え込み2回宙返り2回ひねり)」などのアクロバット系を難なくこなした。白井はシリバスを伸身にしてさらにひねりを1回増やした「シライ3(後方伸身2回宙返り3回ひねり)」=男子H難度=を持つ身なので、これは当然と言えば当然。それよりも場を盛り上げたのは、男子体操では見られないアクロバット以外の部分だ。

 最初の見せ場である「片足立ちターン4回ひねり」をハイクオリティーでこなして大きな拍手をもらうと、足を前後に開脚してジャンプし、後ろ足を頭上方向に跳ね上げる「輪跳び」のシーンでは、見つめる男子部員から「足、開いてるよ~」のかけ声も。アップテンポな曲調に変わってのダンスパートでは村上にそっくりな切れ味の良い動きで会場をさらに沸かせた。

 とどめは両手を上げる演技終了の合図。指先を優美に反らせるところまでを完全に再現し、喝采の中、約90秒のパフォーマンスを終えた。

 画面を通しても観衆や白井本人の満足感が伝わるような“好演技”。これには動画を視聴した多くの人々がSNS上で反応を示し、

「今年(2018年)最高の動画」

「女子でも世界に行ける」

「なぜか笑える」

「OMG(Oh,my god)」

「Awesome」

などの投稿が相次いだ。

 また、評判は体操ファンのみならず、国内外のフィギュアスケートファンにも拡大。フィギュアスケートでも同様の試みをしようとの呼びかけもあり、フィギュアスケート男子シングルの米国代表として平昌五輪に出場した優美派のアダム・リッポンが「僕は何をやったら良いかな?情熱をかき立てるプロジェクトになりそうだね」と返す一幕もあるほどになった。

■模倣の天才でもある白井

 男子が女子の演技を忠実に再現するのがどれほどの“難易度”なのかはハッキリしないが、柔軟性の一般的な男女差を考えれば、白井の表現力、再現力が秀逸であることに疑いはない。

 実は白井は、模倣の天才だ。父・勝晃さんによれば、白井は子どもの頃からダンスが大得意。白井が幼かった時期、勝晃さんが指導する体操教室で女子選手のためにダンスのプロを招いてレッスンを行うと、男の子である白井はその時間は見ているだけだったが、レッスンが終わる頃には、約20人の女子選手のそれぞれの振り付けをすべて覚えているほどだった。

 しかも白井は、それを真似して踊るばかりでなく、ときには自分の振り付けをレッスン時間内に覚えきれなかった女子選手に教えてあげていたそうだ。見ただけで何通りもの振り付けをすぐに覚えてしまい、1人でも楽しそうに踊っている白井を見たダンスのプロ講師は勝晃さんに、白井をダンスの道に進ませるべきと進言するほどだった。

■白井「1カ月以上、準備しました」

 ただ、そんな白井でも、17年世界選手権金メダルの村上の演技を正確に再現する作業は、一朝一夕にはいかなかった。

 白井は「1カ月以上、準備しました!」とコメントし、18年11月下旬の全日本団体選手権を終えた後は、日体大での最後の学年対抗戦に向けて入念に練習を進めてきたことを明かした。そこには、ともにゆかの世界選手権優勝経験者として、今後の体操界を盛り上げながら東京五輪やその先へと向かう村上へのリスペクトの念も込められているようだった。

 そして、完全コピーが可能だった理由はもう一つある。白井と村上は軸足(右)、付き手(右)、ひねりの方向(右)がすべて一緒。そんな偶然が奇跡のコピーを高いクオリティーで実現させた要因の一つなのだ。

 白井と村上は今春に日体大を卒業し、東京五輪まで体操に打ち込んでいくことを宣言している。そして、ともに日本の体操界を盛り上げていこうという気持ちを持っている。こんな楽しいパフォーマンスは大歓迎。ファンの声が聞こえてきそうだ。

16年11月の全日本団体選手権後にあったファン感謝イベント終了後に、参加選手たちが記念撮影(撮影:矢内由美子)
16年11月の全日本団体選手権後にあったファン感謝イベント終了後に、参加選手たちが記念撮影(撮影:矢内由美子)
左から村上茉愛、白井健三、杉原愛子(撮影:矢内由美子)
左から村上茉愛、白井健三、杉原愛子(撮影:矢内由美子)
サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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