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バルセロナのオーラが消えちゃった。 ローマに「実力負け」でCL敗退

杉山茂樹スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

 いまバルセロナを評価する際、拠りどころになりやすいのは、首位を独走する国内リーグにおける成績だ。スペインのレベルは確かに高い。UEFAリーグランキングにおいて、現在2位イングランドに大差をつけ、トップの座に君臨する。

 しかし、国内一と欧州一とではステイタスに著しい開きがある。勝るのは断然、後者だ。スペインリーグ目線でチャンピオンズリーグ(CL)を見るのはナンセンス。真のレベルはCLの戦いに見て取れる――との前提に立てば、バルサのこれまでの戦いぶりはけっして褒められたものではなかった。

 スペインリーグの好成績を拠りどころにすれば、楽観的になれるかもしれないが、CLの戦いぶりを眺めれば、思い切り悲観的にならざるを得ない。そこでは優勝を狙うだけのプレーを披露できずにいた。

 今季は失点が少ない。これまでのバルサに比べてディフェンスがよくなった、とはよく言われる台詞だが、これなどはまさに国内リーグ基準のローカルな評価の典型だ。CL的には、プレッシング色が薄れ、後ろで守る凡庸なチームに成り下がったと言うべきだろう。

 その分、攻撃力も減退。リオネル・メッシ、ルイス・スアレスの2トップ頼みのサッカーに陥った。

 ネイマールがいた昨季までは、攻撃の柱は3本だった。それこそがバルサ伝統のスタイルだった。それが今季は2人に減った。

 ネイマールの代役なのかどうか定かではないが、今季途中、リバプールから巨費を投じて獲得したコウチーニョは、戦力にならずじまい。今季加入した同じくブラジル代表のパウリーニョも、スタメンを飾れずにいる。途中交代で出場することが多いウスマン・デンベレも、例えばレアル・マドリードのルーカス・バスケスのような計算できる何かを持っているわけではない。

 選手個人の問題もさることながら、肝心な点はやはりサッカーの中身だ。バルサの伝統的なスタイルを、エルネスト・バルベルデ監督の采配のなかに見ることはできない。従来のバルサ色を失ってしまったのが、今季のバルサだ。魅力度は大幅に減退した。

 ホームでのCL準々決勝第1戦でローマを4-1と下したバルサだが、このなかにはPKによる得点が2点含まれている。内容にはスコアほどの差がなかった。とはいえ、第2戦でローマがバルサを3-0で下す可能性は低いとみるのが自然で、第1戦を終了した段階でバルサのベスト4進出は決まったも同然に見えた。

 それでも事件は起きてしまった。

 ローマはイタリアにあっては、攻撃的サッカー志向の監督が指揮を執るケースが目立つチームだ。リュディ・ガルシア、ルチアーノ・スパレッティに続き、今季から監督の座に就いたエウゼビオ・ディ・フランチェスコも、そのなかにしっかりカテゴライズされる監督である。

 目標スコアは3-0。通算スコア4-4ならば、アウェーゴールの差で勝利はローマに転がり込む。ならばどんな作戦を立てるべきか。

 2004~05シーズンのCL決勝ミラン対リバプール。前半を0-3とされて折り返したリバプールの監督、ラファエル・ベニテスは、布陣を4-2-3-1から、中盤ダイヤモンド型3-4-3(4列表記でいえば3-3-3-1的な布陣)に代え、ミランに対して高い位置から激しくプレッシャーをかけた。

 そして3-3に追いつき、延長PKを制して優勝を飾ったのだが、この日のディ・フランチェスコ監督も、そのときのリバプールを想起させるような攻撃的な作戦を立て、バルサ戦に臨んだ。

 3バックといえば、ともすると守備的に聞こえる。だが、3-0で勝たなければならないチームを率いる攻撃的な監督が、ここでそんな3バックを用いるはずがない。3バックでありながら3トップ。Jリーグでよく見かける2シャドー型3トップとはコンセプトが異なる、両ウイングを置いたベニテスのリバプール型だ。

 その3-4-3を、バルサの中盤フラット型4-4-2にぶつける作戦が奏功した。今回のローマの逆転劇を語るとき、これは外せない要因になる。

 ローマには3本の矢があった。右からパトリック・シック、エディン・ジェコ、ラジャ・ナインゴランが並ぶ3人のFWが、バルサの4バックにプレッシャーをかけた。とりわけその両サイドバック(ネルソン・セメド=右、ジョルディ・アルバ=左)は、これにより攻撃参加できにくい状況になった。

 ローマはその両ウイングの下に、さらにサイドアタッカー(アレッサンドロ・フロレンツィ=右、アレクサンドル・コラロフ=左)を置いた。

 一方、バルサの4-4-2は、左サイドハーフのアンドレス・イニエスタが、サイドにいる時間より、ゲームメーカー然と内で構える時間が長い。そのためその左サイド(ローマの右サイド)は、ローマが2対1で数的優位な状況を作り出していた。ジョルディ・アルバの裏は、まさに狙い目になっていた。

 前半6分、ローマのCFジェコがジョルディ・アルバの裏に狙いをつけ、ランニングを開始すると、中盤の深い位置からダニエレ・デ・ロッシがすかさずミドルパスを供給する。それがそのままラストパスになり、ジェコの先制弾が生まれた。

 3トップが本来バルサのお家芸であることは先述の通り。3FWプラス3バックも同様だ。アヤックスに端を発する、バルサがクライフ時代から採用してきた3バックだ。

 そうしたバルサの伝統的な”持ち物”を、この大一番にディ・フランチェスコは採用した。逆に、バルベルデはバルサ色に乏しいサッカーで臨み、後手を踏んだ。

 かつてのバルサは、攻撃的なサッカーを展開する同型のチームに対して、無類の強さを発揮した。攻撃的サッカー度で劣ることはなかった。むしろ守備的なチームに、カウンターを食うのがやられるパターンだった。

 だがバルベルデの2トップサッカーは、カウンター型のサッカーに対しては強くなったかもしれないが、向かってくるチームには脆さを見せる。

 バルサが敗れる展開は、これまではたいてい”追って届かず”だった。一方的に支配するもののゴールを奪えず涙するパターンだったが、この日のローマ戦は、相手に常に効果的な攻撃を許していた。泡を食いっぱなしだった。

 後半、ローマに2点を奪われて0-3、通算スコア4-4で鮮やかな逆転を許したバルサ。かつてはあり得なかった惨めな負け方だ。フロック負けではなく、実力負け。バルサのサッカーはすっかり魅力的ではなくなった。特別なチームでもなくなった。攻撃的サッカーの看板は、はげた状態にある。

 スペインリーグでは現在4位ながら、CLでは優勝を狙う位置にいるレアル・マドリードに、ライバルのバルセロナは大差をつけられた格好だ。バルサがスペインリーグを制しても、レアル・マドリードがCL3連覇を達成すれば、国内リーグ優勝の意味は無に等しくなる。

 バルサはうまくいっていない。重症だと僕は思う。

(集英社 webSportiva 4月12日 掲載原稿に一部加筆)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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