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甲子園通算52勝目? 明徳義塾・馬淵史郎監督がマスクにトンボを入れたわけ

楊順行スポーツライター
(写真:岡沢克郎/アフロ)

「65(歳)になっても、サヨナラ勝ちはうれしいもんよ」

 明徳義塾(高知)・馬淵史郎監督は、交流戦の白星を勝ち星に加えるとしたら甲子園通算勝利単独4位の52勝目を逆転勝ちで飾り、思わず出たガッツポーズをそう説明した。2020年甲子園高校野球交流試合。第1日第2試合で鳥取城北と対戦した明徳は、7回終了時点で無安打ながら、2対1とリード。ノーヒット勝利という珍記録もあるかと思われたが、8回表に先発・新地智也が打ち込まれて4点を献上、逆転を許す。その裏の明徳は、四番・新澤颯真の初安打に敵失もあって2点を奪い、4対5で迎えた9回裏だ。2死一、二塁のチャンスからまたも四番・新澤が「2死とか、走者とか考えず、後ろにつなごうという気持ちで」2球目のストレートを右へ。これがライトの頭を越えるサヨナラ2点三塁打となり、馬淵監督のガッツポーズを呼ぶわけだ。新澤はいう。

「前の打席、左投手(阪上陸)からショートにいい打球が飛んだので、自分のところでまた同じ左に代わってくれたのは、左対左でも逆によかったです」

 馬淵監督が「真面目すぎ。三振したくないから、当てに行ってしまう」と評する四番だが、この打席は「高めはフライになるので低めを狙い、ファーストストライクから強い当たりを」という思い切りが実を結んだ。それにしても……途中までの2点はいずれも、四球で出た走者が盗塁し、バント、犠飛で生還するといういかにも試合巧者らしいもの。もしノーヒットでの勝利となると、おそらく1953年夏、慶応(神奈川)2対1北海(北海道)以来だったが、ヒットが出ない間、ベンチのムードはどうだったのか。軽快な守備で2併殺にからんだ今釘勝二塁手によると、

「ノーヒットは知っていましたけど、得点パターンがよく、うまいゲームができているという感じで、ムードは悪くなかった」

トンボは前にしか飛ばん勝ち虫や

 コロナ禍のなかでの開催。こちらも選手たちもマスクをつけての会話だが、明徳の選手たちが装着するマスクにはトンボのシルエットがあしらわれている。トンボは古くから勝ち虫といわれ、戦国期から武士に愛された。徳川四天王の一人・本多忠勝が愛用した蜻蛉切(とんぼぎり)とよばれる長槍は、穂先に止まったトンボが真っ二つに切れてしまったという。司馬遼太郎好きな馬淵監督の発案。18年のセンバツ前、「トンボは前しか飛ばんから、勝ち虫や」と、縁起のよさから公式戦の帽子のツバの裏に入れたのだという。

 今回はそれをマスクに転用したのだろう。それを馬淵監督に確かめようとしたが、残念ながら取材時間終了。だが馬淵監督、なぜか逆さまにマスクをつけ、トンボの頭が下を向いていた。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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