GLAY TAKUROが最新E.Pで捧げる坂本龍一への哀悼
GLAYが全7曲入りの最新E.P『HC 2023 episode 2 -GHOST TRACK E.P-』を9月27日にリリースした。今作には、TERU(Vo.)、TAKURO(Gt.)、HISASHI(Gt.)がそれぞれ作詞作曲を手掛けた書き下ろし楽曲が収録されている。同じく収録されているTAKURO作詞、JIRO(Ba.)作曲の既出曲「THE GHOST(80 KIDZ Remix)」もカウントすれば、メンバー全員分の楽曲が楽しめる構成の一枚だ。
このなかのピアノによるインストゥルメンタル「Ghost Of GLAY 愛のテーマ」は、TAKUROが今年3月に逝去した音楽家・坂本龍一への哀悼の思いから作曲した一曲だという。両者は2001年に地雷除去のチャリティプロジェクトのために活動した期間限定ユニット“ZERO LANDMAIN(ゼロ・ランドマイン)”を通じて交流があった。今作について、坂本との思い出について、そして来年メジャーデビュー30周年を迎えるGLAYの現在について、TAKUROに話を聞いた。
■バンドの“一生懸命”は必ず伝わる
――今年のGLAYは“The Ghost(ザ・ゴースト)”というコンセプトのもと、2月に4曲入りシングル『HC 2023 episode 1 -THE GHOST/限界突破-』をリリース。その後、3月から6月にかけてツアーを行いました。
TAKURO:メジャーデビュー29年目の今年はJIROが書いた「THE GHOST」という曲をきっかけに、ツアーではコロナ禍に制作した曲や、これまでのライブであまり日の目を見なかった“ゴーストトラック”的な楽曲を掘り起こして披露しました。例えば15周年の頃の技術だったら表現し切れなかったけど、いまなら楽勝で出来ることもある。いまのGLAYの強度を信じた上で、より楽しさを優先する。そんな意味合いも大きなツアーでした。
あまり知られていない曲でも、こちらが一生懸命「楽しい!」「楽しませるぞ!」と思っていれば、必ずお客さんに伝わるんです。ある種の記憶の再生装置としてみなさんの思い出を優しくなでるような活動もそれはそれでいいんだけど、僕が目指すGLAYの姿はそうじゃない。ヒット曲がどうこうではなく、とにかく楽しく、質の高いエンターテインメントの一端を担いたい。そこも30周年を前に勝負してみたかったテーマのひとつでした。
■コロナ禍と“相棒”
――そのツアーでは最新E.Pに収録のTAKUROさんの楽曲「Buddy」も披露されました。テーマは“相棒”ですが、これはどういう経緯で生まれたのでしょうか?
TAKURO:幾つかの要素がありました。まずひとつは、僕がよく行くイタリアンの店。そこは厨房とフロアの二人が力を合わせてやっていて、通っているうちに仲良くなって、いろんな話を聞いているうちに、“二人三脚”で頑張る姿が印象に残ったんです。
(GLAY「Buddy」(Teaser))
もうひとつはコロナ禍、暗いニュースが多かった時期、芸人さんのラジオにハマって救われたんです。ナイツ、ニューヨーク、オズワルド、空気階段と、結構聴いていました。例えばM-1グランプリへの夢と狂気が象徴的だけど、芸人さんの生き様には、いまの音楽業界で決定的に欠けているものが感じられて。つまり、優勝したら明日から売れっ子、みたいなスターシステムであり、競争精神であり、ハングリー精神ですね。芸人さんたちが笑いのためにしのぎを削り火花を散らす生き様に惹かれて、彼らの単行本や自伝も拝読し、たくさんのヒントをもらいました。
そしてファンのみなさんへの感謝ですね。GLAYにとっての相棒はファンのみなさん。互いに励まし合って、この大変な時代をこれからも一緒に生きていきたい。その思いも、「Buddy」を書くために十分過ぎるくらいの動機になりました。
■坂本龍一との思い出
――同じくTAKUROさん作曲の「Ghost of GLAY 愛のテーマ」は、坂本龍一さんへの哀悼をきっかけに書かれたそうですが。
TAKURO:坂本さんの音楽を初めて聴いたのは中学生の頃でした。多大な影響を受けました。ここ何年かはお会いしていなかったんですが、2000年前後は付き合いも深かった。もちろん新作はリリースされるたびに聴いていました。亡くなられたときはショックでした……僕にとってはインスト音楽の母がマーク・ゴールデンバーグで父が坂本さんですから。特に僕のなかでは『戦場のメリークリスマス』(1983年)と『音楽図鑑』(1984年)が坂本作品の最高峰です。
――坂本さんとの思い出は?
TAKURO:ひと頃はニューヨークに行く度にご自宅を訪ねていました。2001年、坂本さんが監修された『非戦』(幻冬舎刊)という本に掲載する原稿の執筆を依頼されまして。当時、GLAYの活動が忙しかったせいもあって、少々お待たせしてしまって。まだ締め切り前だったんですが、坂本さんから「原稿はまだか?」と何度も催促されまして。やがて、結構きつめな口調で「まだ!?」と催促が来たので、僕もつい、「坂本さんだって僕の年頃は忙しかったでしょ? 戦争も人の命も大事だけど、GLAYもいま頑張り時なんですよ!」なんて言い返すと、坂本さんが「まあ、そうだよな」なんて言ってくれて、といったやり取りもありましたね(笑)。
坂本さんの逝去後、ニッポン放送で追悼番組があったんです(※4月16日放送『サウンドコレクション~坂本龍一さんを偲んで~』)。そのとき、2001年の僕と坂本さんの対談番組(※『坂本龍一×GLAY TAKURO HAPPY Xmas2001今あなたに贈りたいLove Song』)が再放送されたんですが、久し振りに聴いたら、僕、めちゃくちゃ生意気な口調なんですよ……。「お前、あの坂本さんによくそんな口のきき方を……」と唖然としてしまった。いまなら絶対にあんな態度はとれない(笑)。憧れの人と交流が生まれて、舞い上がっていたというか天狗になっていたのかな。もう恥ずかしくて、すごく嫌でした。この場を借りてお詫びしたい(笑)。
――坂本さん、このインタビューを目にしたら、向こうで笑っていらっしゃるかもしれませんね。
TAKURO:いまでもニューヨークに行ったら、まだいらっしゃるような気がします。もちろん、いないんでしょうけどね。でも、音楽を聴けばいつでもそこにいるし。いっそ、いないかどうかも曖昧なままでいいんじゃないか、とも思います……。
この「Ghost of GLAY 愛のテーマ」は11月からのツアー(『GLAY HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2023 -The Ghost Hunter-』)のオープニングSEに使う予定です。坂本さんの音楽を自分の体のなかに入れた証として、坂本さんの「メリー・クリスマス ミスターローレンス」のような作品を、一つ、世に残しておきたかった。2022年にリリースした僕のソロアルバム『The Sound Of Life』でもそうでしたが、僕が作るピアノ曲の背景にはいつも坂本さんがいます。
(GLAY『HC 2023 episode 2 -GHOST TRACK E.P-』Trailer)
■30周年の挑戦
――最後に、来年のメジャーデビュー30周年に向けて、現時点での抱負をお聞かせください。
TAKURO:今回の最新E.Pには「SEVEN DAYS FANTASY」いう曲も収録されていますが、これは来年に予定しているGLAYの新作アルバムに向けた実験的な習作のつもりで作りました。次回作は、The Early 90’sなJ-POPをやってみようかなと思っていて。僕は現在ロス在住ですが、日本の音楽を外から眺める機会が増えると、改めてJ-POPという音楽の独自性が見えてきた。そもそもこんなに転調したりメロディが飛んだり跳ねたりするポップスって、かなり特異じゃないですか。
この先、20年、30年かかるかもしれないけど、J-POPはこれまでとは違う再評価をされて後世に残るんじゃないか?という、ある種の予感めいたものがあって。90年代以降、歌謡曲とも演歌とも違う不思議な進化を辿ったJ-POPの古典を、ちょっとGLAYで引き受けたくなった。もっと言うと、僕らのルーツであるJ-POPという名前が付く以前の日本のロックのDNAから引き受けたくなった。そして周年のライブは、代表曲を入れて、今年よりも間口の広いセットリストにするでしょうね。成功しても失敗しても、みんなで盛大に笑えるような30周年にしたい。楽しみにしてもらえたら嬉しいです。
GLAY『HC 2023 episode 2 -GHOST TRACK E.P-』
リリース日:9月27日
収録曲:1. Buddy 2. Pianista 3. U・TA・KA・TA 4.刻は波のように 5. SEVEN DAYS FANTASY 6. THE GHOST (80KIDZ Remix) 7. Ghost of GLAY 愛のテーマ