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本田圭佑は東京五輪に必要なのか? 過去の五輪から見るオーバーエージの功罪

元川悦子スポーツジャーナリスト
OA枠での東京五輪出場を目指す本田圭佑(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

1年後の東京五輪のチーム作りはどうなる?

 新型コロナウイルスの感染拡大で開催が1年延期された東京五輪。だが、5月15日現在で全世界の感染者が444万人、死者が30万人に達するなど、終息は全く見えていない。2021年7月23日からの開催も危ういのではないかという悲観的な見方も出てきている。

 それでも、アスリートは五輪への意欲を失っていない。サッカー男子の場合、97年1月1日生まれ以降という出場資格が維持される方向となり、選手たちも少なからず安堵感を抱いている。ただ、代表活動再開のメドが立たず、場合によっては大会直前の強化だけという可能性もあるため、チーム作りは1からやり直しになる可能性が高い。

 そこで問題になるのが、年齢制限のないオーバーエージ(OA)枠をどうするかだ。本田圭佑(ボタフォゴ)や長友佑都(ガラタサライ)、香川真司(サラゴサ)らワールドカップ経験者たちが続々と名乗りを挙げる中、メダル獲得を目指す森保一監督も最強メンバーでのチーム結成を希望。すでに2019年6月のコパアメリカ(ブラジル)で布石を打っている。同大会では東京五輪世代主体のメンバーに2018年ロシア組の川島永嗣(ストラスブール)、岡崎慎司(ウエスカ)、柴崎岳(ラコルーニャ)らを加えて戦い、「アンダー世代の選手が多い中にOA選手が入ってくるメリットはすごく感じることができた」と前向きに発言。OA枠活用に積極的な姿勢を示している。

過去4度活用されたOA枠。成功したシドニーとロンドン

 しかしながら、過去の全大会でOA枠採用が成功しているわけではない。96年アトランタ以降の6大会を見ると、OA枠を使ったのは2000年シドニー、2004年アテネ、2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロの4回。このうち、好結果が出たのは、シドニーとロンドンだ。

 シドニーの時はフィリップ・トルシエ監督(U-19ベトナム代表監督)がU-23とA代表を一元管理していて、五輪に出たのは「A代表のラージグループ」という位置づけだった。楢崎正剛(名古屋クラブスペシャルフェロー)、森岡隆三(解説者)、三浦淳宏(神戸SD)のOA枠3人も他のメンバーと繰り返し代表活動を行っていて、全く違和感なく本番を戦えた。

 ロンドンの時はそこまで準備期間はなかったものの、本大会に参戦した吉田麻也(サンプドリア)と徳永悠平(長崎)の2人はいずれも五輪経験者だった。吉田はロンドン世代の1つ年上で年齢的にも近かったからスムーズに溶け込めたし、徳永も守備のユーティリティプレーヤーとして献身的にチームに貢献した。彼らの人間性やポジションバランスなども考慮して抜擢した関塚隆監督(日本サッカー協会ナショナルチームダイレクター)の眼力が奏功したというわけだ。

アテネとリオは融合時間が足りず

 逆にアテネとリオはOA選手と五輪世代との融合時間が足りず、うまく機能しなかった。アテネの時は山本昌邦監督(日本協会副技術委員長)は小野伸二(琉球)、高原直泰(沖縄SV)、曽ヶ端準(鹿島)の黄金世代3人を抜擢。高原は肺動脈血栓症の再発によって欠場を余儀なくされ、小野と曽ヶ端の2人をアテネに連れていったが、最終予選でキャプテンを努めた鈴木啓太(AuB株式会社代表取締役)を外すことになり、チームバランスが崩れてしまった。

 リオの時も手倉森誠監督(長崎監督)も塩谷司(アルアイン)、藤春廣輝(G大阪)、興梠慎三(浦和)を抜擢したが、3人は揃って世界大会初参戦。かつてないほどの独特の緊張感に包まれた。連携面やコミュニケーション面の難しさも重なり、世界の壁に阻まれた。もう少し準備期間があれば違ったのかもしれないが、選手を送り出すJクラブ側から「拘束期間を最小限にしてほしい」という要望が根強く、指揮官は思い描いた強化ができなかった。こうした実情を踏まえ、リオの後には「わざわざOA枠を使う必要があったのか?」という疑問も噴出したほどだ。

五輪の主眼は育成か、それとも結果なのか?

 五輪を「U-23世代の飛躍の場」と捉えるなら、確かにOA枠は使わなくていい。五輪世代にA代表入り、ワールドカップ出場、海外リーグでの活躍を望むなら、18人枠全てを若手に空けた方が得策だし、将来の日本サッカー界のためにもなる。協会として今一度、「五輪の意義」をハッキリさせることが重要ではないか。反町康治新技術委員長率いる日本協会技術委員会にはそれを強く求めたいところだ。

 とはいえ、今回は自国開催の東京五輪。結果を求められる分、「若い世代が国際経験を積んで飛躍してくれればいい」という原点だけを追求するわけにもいかない。森保監督自身も「金メダル」という高い目標を設定している以上、A代表の軸を担うようなトップ選手を呼んで、最強軍団で戦うしかない。「育成」と「結果」の狭間に立たされる指揮官も複雑な感情を抱いているのではないか。

成功するOA選手の条件とは?

 であれば、「成功できるOA選び」を考えるしかない。シドニーとロンドンの成功例から導き出せるOA選手の条件は、●現在のA代表主力級、●過去の五輪・ワールドカップ出場者、●若い世代にすんなり溶け込めるキャラクターを持った選手、●東京世代に人材が薄いポジション…といった点になる。現時点では1トップの大迫勇也(ブレーメン)やボランチの柴崎らが有力候補と見られるが、東京五輪挑戦を公言している本田も、この先1年間の過ごし方次第ではチャンスが生まれてくるかもしれない。

本田の利点と課題

 本田の場合、目下のところ、現A代表主力級という部分が引っ掛かるうえ、東京世代に人材が薄いポジションという点で微妙な情勢ではある。ただ、「職業・チャレンジャー」と自称する男だけに、再びA代表の軸を担えるレベルまでパフォーマンスを引き上げる覚悟を強めているはずだし、ポジションも選手層が薄いと見られるボランチでの出場を目論んでいる。ボランチだと森保監督が絶対的信頼を寄せる柴崎との競争になり、やや分が悪いが、彼には1トップや2列目の全ポジションもこなせるという万能性がある。仮に大迫を呼べない場合、本田なら十分に代役を果たせる。北京五輪に出場経験があり、ワールドカップ3大会4ゴールという大舞台の強さを含めて、「チームにいてほしい人材」ではある。

 もう1つの強みは発信力だ。若い世代にすんなり溶け込めるキャラクターと言い切れるかどうかは明言できないが、強靭なメンタリティと言葉の数々は間違いなく東京世代に大きなインパクトをもたらすだろう。今月14日にも「上手くいかなかったとしても情熱を失うな。周りが足を引っ張ろうとしても信念を貫け。歯を食いしばって一歩ずつ進め」とツイッターに投稿したが、ここまでのポジティブ発言は森保監督にはできない。影響力が大きすぎる分、リスクはあるが、彼に賭けるかどうかを決めるのは指揮官自身だ。

森保監督も「経験を伝えてほしい」と熱望するが…

「圭佑にはインターナショナルマッチデー(IMD)の時に代表に来てもらって、東京世代に経験を伝えてほしい」と森保監督も要望していたことがあった。実質的な監督を務めるカンボジア代表の活動もあるのだろうが、東京五輪出場は片手間では叶わない。本田が本気で夢を果たすつもりなら、ボタフォゴで目覚ましい活躍を見せると同時に、今後のIMDは東京五輪代表を優先にするくらいの決意を表すべきだ。

「絶対に必要」と指揮官と東京世代の選手たちに思われる存在価値を示した人間だけが、自国開催の大舞台に立てる。18人の中の貴重な3枠を占有する意味をOA候補者には再認識してもらったうえで、1年後の大舞台に全力でトライしてほしい。

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スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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