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ボールは獲らずに「狩る」。年代別代表から満を持してなでしこジャパン入りしたボランチ、隅田凜の魅力

松原渓スポーツジャーナリスト
昨年のU-20女子ワールドカップは6試合にフル出場し、3位の原動力に(c)松原渓

【デビュー戦で見せた輝き】

チャンスが巡ってきたのは、後半だった。

なでしこジャパンのデビュー戦を迎えた21歳は、1分1秒も無駄にしまいと自分に言い聞かせるように、精悍な表情でピッチに立った。

2017年4月9日。熊本県民総合運動公園陸上競技場で、なでしこジャパンはコスタリカ女子代表と親善試合を戦った。

高倉ジャパンの国内初お披露目となったこの試合では、高倉麻子監督が年代別代表で指導してきた若い世代が次々にA代表デビューを果たし、日本は3-0で快勝した。

そんな中、スタジアムに足を運んだ観客に「こんな選手がいるのか」と驚きを与えたのが、MF隅田凜だ。

隅田について、高倉監督は「テクニックが非常に高く、中盤でバランスを取れる選手」と評価。そのテクニックは、特に攻撃面で発揮された。

後半開始から投入された隅田は、後半2分、右サイドからドリブルでペナルティエリア内に侵入すると、ゴール前にクロスを上げ、早速チャンスを演出。シュートに至る一連の流れを作った。

その後も積極的にボールに絡み、後半27分には右サイドを自らドリブルで持ち上がり、ペナルティエリア右隅から力強いミドルシュートをGK正面に見舞った。

極めつきは、試合終盤の後半42分。

左サイドからFW籾木結花が落としたパスを、ペナルティエリアの外、ゴールまで25mはあろうかという距離から思いきり右足で振り抜いた。

ブレない体幹に支えられた膝下のスイングは、左から流れてきたボールの芯を完璧に捉えた。強烈なシュートが、コスタリカのベテランGK、ディンニア・ディアスの指先をかすめ、バーに弾かれた。

この豪快なミドルシュートに、スタンドが湧いた。

だが、隅田は悔しがる素振りも見せず、次の瞬間には跳ね返ったボールの軌道を全力で追い、カウンターに持ち込もうとする相手を、体を張って食い止めていた。

【ギャップ】

隅田はコスタリカ戦において、攻撃面で多くの見せ場を作ったが、本人が手応えを口にしたのはむしろ、守備面だった。

「日本と海外では相手選手の間合いが違うので、最初は(一発で間合いを詰めに)行きすぎて逆を取られましたが、時間が経つうちに慣れてきて、『ここだな』と、相手に寄せるポイントが分かるようになりました」(隅田)

球際の守備にはこだわりがある。隅田が目標にあげたのは、ハリルジャパンの中盤のキーマンだ。

「目標にしているのは、(セレッソ大阪のMF)山口蛍選手です。一瞬のスピードで寄せてボールを『狩る』感じと、粘り強い守備を参考にしています」(隅田)

隅田は、ベレーザではサイドハーフのポジションでもプレーすることがあり、昨シーズンは公式戦28試合で9ゴールを決めて得点能力の高さも証明しているが、本職はボランチ。

ベレーザは現在、左サイドバックの有吉佐織がケガで離脱しており、昨シーズン、阪口夢穂とダブルボランチを組んだ中里優が、有吉の穴を埋める形で左サイドバックでプレーすることが多く、隅田がボランチでプレーしている。

鋭い読みと球際の強さを活かし、高いボール奪取能力を持つ隅田は、ダブルボランチでは守備的な役割を担うことが多い。

一方、コスタリカ戦後に攻撃面で「プレーをもっと見て、学びたい」と隅田が話していたのが、ベレーザでもダブルボランチを組む阪口だ。

代表でもベレーザでも攻守の中心としてプレーする阪口は、澤穂希や宮間あやをはじめ、様々な個性を持った実力者たちとボランチを組み、相方の良さを活かしつつ、要所ではその高い攻撃センスを発揮してきた。

そんな阪口は、隅田のプレーを見て、よく驚くことがあるのだという。

「凜ちゃんは淡々とやっているように見えて、相手がボールを持った瞬間にガツンと当たりに行ったり、自分がボールを持っている時には強気で仕掛けたりする。普段は大人しいんですが、ピッチでは熱くなるところがあって、『そんなギャップがあんねんや』と、(ベレーザの)練習でもよく驚かされています」(阪口)

隅田が試合前に見せる、名前のイメージ通りの凜とした佇まいも、その「熱さ」とのギャップをより色濃くする。

「おっとりした性格」と話していたのは、ベレーザの下部組織のメニーナで、隅田の素質を引き出した寺谷真弓監督(現・メニーナ監督)だ。

「(隅田は)中盤でバランスを取るのが上手く、特に守備では良いポジションで上手くセカンドボールを拾ったり、いいコースの消し方や優れた予測能力を持っています。そういう感覚的なものは、教えられるものではないんです」(寺谷監督/2014年末のコメント)

競争が激しいなでしこジャパンの中盤に、また一人、楽しみな逸材が加わった。 

【年代別代表と、A代表の違い】

神奈川県藤沢市で生まれ、小学校に入る前にはすでにボールを蹴っていた隅田は、2009年、中学1年生の時にメニーナに入団。2011年から2014年まで全日本女子ユース (U-18)サッカー選手権大会で4連覇を果たすなど、一つ下の世代の籾木結花、清水梨紗、長谷川唯らとともにメニーナの中心選手として一時代を築き、2012年にトップのベレーザに昇格した。

2012年以降はコンスタントにリーグ戦に出場し、現在は21歳ながら、なでしこリーグでのプレーは6年目になる。

一方、年代別代表では、AFC U-16女子選手権(2011)、FIFA U-17女子ワールドカップ(2012)、AFC U-19女子選手権(2013/2015)、FIFA U-20女子ワールドカップ(2016)と、数々の国際大会に主力として参戦してきた。

2016年11月にパプア・ニューギニアで行われたU-20女子ワールドカップは、ボランチとしてフル出場。

日本は同大会で3位の成績を収めたが、グループリーグで敗れたスペインや準決勝で敗れたフランスは、球際の強さや一瞬のスピードが、同年代のレベルでは群を抜いていた。

「国内リーグだと相手チームが引いて守ってくることもありますし、(1対1の)間合いも違うので、世界大会に行くといつも(相手のプレッシャーや間合いに)慣れるのに時間がかかります。その分、国内では判断のスピードを上げることや、スピードへの対応も自分から仕掛けて引き出さなければいけないと思っています」(隅田)

そういった経験も踏まえた上で、隅田にとって、なでしこジャパンの選手が多く所属するベレーザのハイレベルな環境で普段からプレーできていることは大きなアドバンテージである。

また、なでしこジャパンに初招集され、普段は交わることのない選手たちと一緒にプレーする中で得たものも大きかったという。

「(熊谷)紗希さんや(宇津木)瑠美さんは、すごく声を出していて、パワフルさが違うな、と感じました。(横山)久美さんのドリブルの間合いは本当にうまくて、1対1ではすぐに(マークを)剥がされてしまいました。やっぱり、なでしこジャパンは一人ひとりのレベルが高いなと感じます」(隅田)

【進化の過程】

U-20女子ワールドカップを終えた直後に隅田が掲げた目標は「フィジカル面を強化して、さらにゴールを意識したプレーをする」ことだった。

大会が終わってから、まだ4ヶ月あまりしか経っていないが、隅田のフィジカルは確実に強さを増している。特に上半身の厚みが増したのは、継続的なトレーニングの成果でもある。

週2〜3回、体幹を鍛えるトレーニングを行いながら、ベレーザがサポートを受けているジムに通い、上半身の強化にも力を入れているという。

「(ジムで)最初は『よくこんな体で代表に入っていたな』とボロクソに言われました(笑)。だから、伸びしろしかなかったんです。自分では実感がないのですが、最近は上半身が太くなったと言われますね。ただ、身体が重くならないように、動きのスピードは変えずに、体幹を強くしながらパワーもつけたいと思っています」(隅田)

より強く、より確実に、中盤で相手からボールを奪う場面が増え、体幹が強くなったことでシュートの力強さも増した。隅田の得点力には、阪口も期待しているという。

「(リーグ戦の)試合の時に、私が攻撃参加したい場面で『凜ちゃん、うしろは頼むな』って言うと、『はい!!』って(笑)、頼もしいんです。ただ、得点能力も高い選手ですし、前に上がりたい時はどんどん上がって欲しいですね。ボランチでもサイドのポジションでも、隙あらばシュートを狙って欲しいと期待しています」(阪口)

今シーズン、守備的ボランチとしても、攻撃的サイドアタッカーとしても進化を続ける隅田のプレーに注目だ。

攻守両面で効果的に関わるバランス感覚は絶妙だ
攻守両面で効果的に関わるバランス感覚は絶妙だ
スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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