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アトピー性皮膚炎患者の生活の質向上に向けた課題とは?アルゼンチンの調査から学ぶ

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

こんにちは。今回は、アルゼンチンで行われたアトピー性皮膚炎患者と介護者に対する調査結果から、患者さんが抱える問題点と今後の課題について考えてみたいと思います。

アトピー性皮膚炎は、皮膚の慢性炎症性疾患で、世界中で患者数が増加傾向にあります。かゆみを伴う湿疹が繰り返し現れ、患者さんのQOL(生活の質)に大きな影響を与えます。アルゼンチンでの有病率は小児で約5~10%、成人では5%弱と報告されています。

今回の調査は、成人患者334名と小児患者の介護者339名、計673名を対象に行われました。調査項目は、症状の重症度や治療満足度、経済的負担など多岐にわたります。

【医療アクセスの格差が生み出す問題】

調査の結果、患者さんの約67%が皮膚科医によって治療を受けていましたが、地方や経済的に恵まれない地域では専門医へのアクセスが限られていることが明らかになりました。また、一般医には、アトピー性皮膚炎の診断や治療に関する十分な知識がないケースも見られました。医療アクセスの格差を是正し、専門医が適切な治療を提供できる体制づくりが求められます。

【経済的負担が患者のQOLを低下させる】

アトピー性皮膚炎の治療には、外用薬や保湿剤、場合によっては光線療法や高額な新薬も必要となります。調査では、患者や介護者の75%が経済的な不安を抱えており、貯金を切り崩したり、食費など必需品の支出を減らしたりしていることがわかりました。公的医療保険の適用範囲を広げるなど、経済的負担を軽減する施策が求められます。

【患者教育と意思決定の共有の重要性】

調査によると、医療者から病気の管理方法についての教育を受けた患者は16%、自身の治療の優先事項を尋ねられた患者は33%にとどまっていました。疾患教育や意思決定の共有は、治療満足度やアドヒアランス(治療の継続性)の向上につながります。医療者と患者の双方向のコミュニケーションを促進し、患者中心の医療を実践していく必要があります。

アトピー性皮膚炎は、単なる皮膚の問題ではなく、患者さんの生活全般に影響を及ぼす疾患です。今回の調査で明らかになった課題を解決するには、行政、医療者、患者団体が連携し、医療体制の整備や患者支援に取り組むことが不可欠です。私たち一人一人が、アトピー性皮膚炎への理解を深め、患者さんに寄り添うことが大切だと感じます。

参考文献:

Capozza, K. et al. (2024). Patients' and Caregivers' Experiences Navigating the Burden of Atopic Dermatitis in Argentina. Medicina, 60, 584. https://doi.org/10.3390/medicina60040584

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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