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『愛の不時着』で人気再燃中の韓国ドラマに異変。なぜ今『ヴィンチェンツォ』なのか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
写真出典=韓国ネットフリックス『ヴィンチェンツォ』紹介画像より

『愛の不時着』や『梨泰院クラス』で人気再燃中の韓流ドラマ。韓流ドラマと言えば、『冬のソナタ』や『美しき日々』のようなラブストーリーか、『宮廷女官チャングムの誓い』や『トンイ』のような勧善懲悪・立身出世の時代劇、もしくは『美男<イケメン>ですね』や『私の名前はキム・サムスン』のようなラブコメを連想するなど、人それぞれだと思うが、最近の韓流ドラマはちょっと違う。

ダークヒーローがじわりじわりと増加中。主人公は善人という不文律を破り、毒を以て毒を制す物語が人々の支持を得ているのだ。

韓流ドラマといえば『冬のソナタ』のように男女のラブロマンスがメインだった時代もあったが、今はラブロマンスを軸にさまざまなジャンルを絡ませることが主流になっている。さらには『ミセン -未生-』や『秘密の森』のように、恋愛要素を極力抑えたドラマもちらほら登場し、世界中でファンを獲得している状況だ。

そんな流れにおいて題材や設定にはある程度の流行が存在するのだが、ここ2、3年は『知ってるワイフ』『ザ・キング:永遠の君主』『シーシュポス:The Myth』『こんにちは?私だよ!』などの「タイムトリップ系」と、『ホテルデルーナ~月明かりの恋人~』『サンガプ屋台』『悪霊狩猟団:カウンターズ』などの「退魔系」が多い傾向にあった。

「悪は悪で処断する」のが『ヴィンチェンツォ』

そしていま、新たなブームを予感させるのが「ダークヒーロー系」なのだ。

その先頭を切ったのは、Netflixでも配信中の『ヴィンチェンツォ』(tvN)だ。

以前、本欄でも紹介した「中国産ビビンバPPL騒動」で炎上したこともあるが、それでも韓国での視聴率は平均10%台をキープしており、日本のNetflixでも「今日の総合TOP10」上位にランクインされるほど人気が高い。

俳優ソン・ジュンギ扮する主人公・ヴィンチェンツォは、韓国ドラマで馴染みの薄いイタリア・マフィアのコンシリエーレ。「悪は悪で処断する」というキャッチコピーのもと、ヴィンチェンツォが放火や拉致、脅迫、拷問など、ありとあらゆるマフィアのやり方で悪者をこらしめる。

弁護士でありながらも憲法が正義を具現してくれると思わない主人公が、巨大な権力を相手に繰り広げる熾烈な報復劇は、痛快そのものだ。“善人役”のイメージが強かったソン・ジュンギも、『ヴィンチェンツォ』を通じて新境地を開いた。

(参考記事:「最近やたらかっこいい…」俳優ソン・ジュンギが“絶好調のビジュアル”披露し話題に!【PHOTO】)

『ヴィンチェンツォ』に続いて注目を集めているのは、4月から韓国で放送が始まった『模範タクシー』(原題、SBS)だ。

イ・ジェフン主演『模範タクシー』もダークヒーロー

原作となるウェブ漫画は、日本でもLINEマンガに『リコール~復讐代行サービス~』という邦題で掲載されている。

俳優イ・ジェフンが演じる主人公キム・ドギは、表向きはタクシードライバーだが、実は復讐を依頼してきた被害者に代わって加害者たちを断罪する“リベンジ代行”のプロフェッショナルだ。

前出のヴィンチェンツォが頭脳派だとすれば、キム・ドギは肉体派で、各エピソードのクライマックスでは豪快なアクションシーンが繰り広げられる。

もともと時事番組のプロデューサーとして知られる監督が手がけるドラマだけに、「リアルすぎる」事件の描写とスピーディな展開が好評だ。初回から2桁の視聴率を記録し、先週放送された第4話は15.6%の高視聴率をマークした。

他にも『謗法~運命を変える方法~』(FODで配信中)や『マウス』(原題)、韓国で年内放送予定の新ドラマ『悪魔判事』(原題)などにダークヒーローの主人公が登場するのだが、韓国ドラマ界にこのようなダークヒーロー系が増えている理由は何か。

韓国でダークヒーロー系ドラマが人気の理由

「いまホットな社会的問題を取り上げることができるだろう」と語ったのは、とあるテレビ局関係者だ。この関係者は『スポーツソウル』の取材で言っている。

「『ヴィンチェンツォ』や『模範タクシー』などで描かれているのは大手企業の横暴、障害者虐待、校内暴力、リベンジポルノ被害、職場でのパワハラなど、実際に韓国社会で起こり、人々を憤慨させた事件ばかりだ。そして財力・権力を持つ加害者らが軽い刑罰を受ける不条理な社会システムに、大衆が不満を募らせるのも日常茶飯事となっている。正義がしっかりと働いていない無力な現実と違って、痛快な“倍返し”が描かれるダークヒーロー系に大衆が熱狂するのは、ある意味当然とも言えそうだ」

ただ、ダークヒーロー系作品が増え続けることに対し、一部では懸念の声も上がっている。刺激を追うあまり、暴力に対する描写が過激になることを警戒すべきというのだ。

特に女性や未成年者たちが被害者として描かれることが多いため、モチーフになった事件の被害者や同じ立場の視聴者らへの十分な配慮が求められているという。

いずれにしてもダークヒーローたちに支配されつつある韓国ドラマ界。今後の動向に引き続き注目したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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