アップルCEO、自動運転プロジェクトについて認める
米アップルと言えば、秘密主義を徹底的に貫くことで有名だ。新製品に関する情報は、発表イベント当日までは一切明かさず、同社から次に何が飛び出してくるのか、具体的なことは分からない。
ところが、このほど同社のティム・クック最高経営責任者(CEO)は、米衛星テレビ放送局の番組に出演し、同社が自動運転車技術の開発に取り組んでいることを明かした。
プロジェクトについて初めて言及
同社には「Titan(タイタン)」と呼ばれる秘密の自動車開発プロジェクトがあるといった情報は、これまでにも漏れ伝わっていたが、今回CEO自らが、初めてそのプロジェクトについて語ったと、話題になっている。
これは、同氏が6月5日に、米国の経済専門通信社ブルームバーグが運営するブルームバーグ・テレビジョンに出演し、明かしたもの。
番組の中で同氏は、「我々は自律走行システムに注力している」と述べた。また、同社の自動運転技術への取り組みついて、「究極の人工知能(AI)プロジェクト」と表現し、「おそらく我々が取り組むAIプロジェクトの中で最も難しいものの1つ」とも述べている。
さらに同氏は、「大きな変化が差し迫っている」とし、その例として、自動運転技術、電気自動車(EV)、配車サービスを挙げた。そして「これら3つの変化のベクトルが、ほぼ同じ時間枠で発生している」と語っている。
公道走行試験を開始
これまでの報道によると、アップルは2014年にTitanプロジェクトを立ち上げたとされている。また今年4月には、同社が米カリフォルニア州で走行試験に関する許可を得たと伝えられた。認可を受けた車両は、ソフトウエアやハードウエアを組み込んで改造した3台のSUVで、車種はいずれも「Lexus RX 450h」。
これは、6人のオペレーターが乗車し、走行状況を監視しながら、緊急時には自動運転に代えて人間が運転するというものだが、この車両は近所の住民によって度々目撃されたと伝えられている。
また、昨年11月、アップルは米運輸省が公開した自動運転車に関する連邦政府指針に対し、書簡を送り意見を表明している。この中で同社は、マシンラーニング(機械学習)とオートメーションの技術に多額の投資を行っていることを明かすと同時に、「輸送機関を含む多くの分野における自動運転システムの可能性に心躍らされている」などと述べている。
紆余曲折のTitanプロジェクト
しかし、アップルのTitanプロジェクトは、さまざまな問題に直面しており、計画は岐路に立たされていると言われている。そのきっかけの1つが、プロジェクトの方向性を巡るマネージャー間の意見の食い違いだ。これにより、プロジェクトを率いていた3人の重要人物の1人である、フォード・モーター出身のエンジニア、スティーブ・ザデスキー氏がアップルを退社した。
昨年7月、ザデスキー氏の後任として、かつてアップルでハードウエアエンジニアリング部門を率いていたボブ・マンズフィールド氏がプロジェクトの責任者に就任したが、同氏はその後、戦略の変更を従業員に告げ、数百人に上るエンジニアを異動させた。
アップルの幹部は当時、半自動運転機能を備えるEVと、ハンドル、アクセル、ブレーキペダルもない完全自律走行車の開発を目指していたと言われている。
しかし今の状況は、これとは異なるものになったのかもしれない。
ブルームバーグによると、アップルの幹部はTitanチームに対し、2017年末ごろという期限を設け、自動運転システムの基幹部門を成すソフトウエアの実現可能性を検証するよう指示した。
そのうえで幹部は、同社が当初の計画どおり自動運転車を自社開発するのか、あるいはそれに必要なソフトウエアだけを開発し、自動車メーカー各社に提供する事業を進めるのか、いずれかを決定するよう求めたという。
ただ、今回のブルームバーグ・テレビジョンとのインタビューでクックCEOは、これらのことについては語らなかった。
果たしてアップルは、自動運転のシステムをだけを開発するのか、あるいは、同社自らで自動運転車を開発するのか。インタビュアーにそう聞かれ、クックCEOは「我々がどこへ到達するかは、そのうち分かるだろう。我々が何をするのかということについて、製品の観点から話すことはしない」と答えた。
(JBpress:2017年6月15日号に掲載)