【なぜ日本のアニメ・特撮ヒーローの鬼達は魅力的なのか?】仮面ライダーとプリキュアの鬼達の物語とは?
みなさま、こんにちは!文学博士の二重作昌満(ふたえさく まさみつ)です。
季節は巡って、2月を迎えましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
さて、今回のテーマは「鬼」です。
2月といえば、節分。
そんな節分において欠かせないのが、「鬼」。
広辞苑によれば、鬼とは「想像上の怪物。仏教の影響で、餓鬼、地獄の青鬼、赤鬼があり(中略)人間世界に現れる。後に陰陽道の影響で、人身に、牛の角や虎の牙を持ち、裸で虎の皮のふんどしをしめた形をとる。」とされています。
あるいは「鬼のような」無慈悲な人を指したり、「鬼に金棒」、「鬼の目にも涙」といったことわざでも表現される等、節分に限らず私達日本人の生活の中で非常に身近な存在であるのが「鬼」です。
また、古来より日本で語り継がれてきた物語の中でも、鬼達は邪悪な存在として登場しており、「桃太郎」や「一寸法師」では、主人公と対峙する悪役として鬼達が登場しました。
・・・このように、悪い怪物としての印象が強い「鬼」。しかし鬼は物語の中で悪役として描かれたことも多かった一方、「泣いた赤鬼」のような児童文学をはじめ、いくつかの物語では心優しき悲しい存在としても描かれてきました。
それは、我が国が誇る日本のアニメ・特撮ヒーロー番組においても同様で、これらの作品では、悪い鬼も登場してきた一方、鬼の姿を継承したスーパーヒーローが、人々を守る大活躍もまた描かれてきました。
例えば、現在も毎週日曜日の朝番組としてお馴染みの『仮面ライダー』シリーズでは、2度にわたり「鬼」の姿をモチーフとした仮面ライダーが主人公として活躍しました。
このように私達日本人にとって、良くも悪くも古代から現代にかけて身近な存在であり続けたのが「鬼」。
本記事では、東映制作の特撮ヒーロー番組『仮面ライダー』シリーズと、東映アニメーション制作の『プリキュア』シリーズに登場した2人の鬼達に焦点を当てて、少しお話をしたいと思います。
※本記事は「私、ヒーローものにくわしくないわ」という皆様にも気軽に読んで頂けますよう、概要的にお話をして参ります。お好きなものを片手に、ゆっくり本記事をお楽しみ頂けますと幸いです。
また本記事における各原作者の表記ですが、敬意を表し「先生」という呼称で統一をしております。本記事を通じてはじめてアニメ・特撮ヒーロー番組に触れる方もいらっしゃいますので、ご配慮を頂けますと幸いです。
【正義のためなら、鬼となる!】友よ!お前のためならば!怒りの鬼となった仮面ライダーの悲しき戦いとは?
さてここからは、東映制作の特撮ヒーロー番組『仮面ライダー』シリーズに着目し、正義のために自ら「鬼」となり、悪との戦いに身を投じた仮面ライダーについてご紹介をしたいと思います。
その仮面ライダーとは・・・仮面ライダーアマゾン。初代『仮面ライダー』である仮面ライダー1号から数えて、6番目の仮面ライダー(仮面ライダー6号)でした。
彼の話をする前に、少しだけ仮面ライダーシリーズについてご紹介をさせてください。
『仮面ライダー』は、漫画家・石ノ森章太郎先生の原作で生み出された特撮ヒーローのことです。1971年にシリーズ第1作『仮面ライダー(1971)』の放送が開始され、主人公が悪の秘密結社ショッカーによって改造手術を施されて、バッタの能力を持った大自然の使者・仮面ライダーとなり、毎週ショッカーが送り込む恐ろしい怪人と戦う物語が展開されました。
その結果、『仮面ライダー(1971)』は国内で社会現象的な大ヒットを巻き起こすことになりました。その後、次回作『仮面ライダーV3(1973)』や『仮面ライダーBLACK RX(1988)』等の昭和の仮面ライダーシリーズを経て、『仮面ライダークウガ(2000)』から『仮面ライダージオウ(2019)』までの平成仮面ライダーシリーズ等、世代を跨ぎながらテレビシリーズは継続され、現在は『仮面ライダーガッチャード(2023)』が放送されています。
このように、仮面ライダーシリーズは約53年の歴史を有している国民的ヒーロー番組と呼んでも過言でなく、「毎週日曜日の朝は、仮面ライダーが放送されている」という放送状況も実に約24年に至ります。
そんな長い歴史を有している仮面ライダーシリーズ。その中でも、特に個性豊かな「異色作」として挙げられてきたのが、シリーズ第5作『仮面ライダーアマゾン(1974)』でした。
「そもそもアマゾンっていう名前自体が独特だよね・・・?」
・・・と言われますと、大変ごもっともなのですが、確かにアマゾンは数ある歴代仮面ライダーシリーズの中でも「特別な存在」というイメージは否めないかなとは思います。少しだけ、『仮面ライダーアマゾン(1974)』の物語を概説すると・・・。
『仮面ライダーアマゾン(1974)』は、南米アマゾンの奥地で23年もの間、暮らしていたアマゾン(本名:山本大介)が、古代インカ帝国の秘術によって改造され、仮面ライダーアマゾンとして変身し、原始は忠類であるマダラオオトカゲの戦力・能力で、南米アマゾンの奥地で結成された悪の秘密結社「ゲドン」と、日本を舞台に戦う物語。
これまで登場した仮面ライダー1号~5号が、「バッタ」モチーフの仮面ライダー1号のイメージを継承してきたのに対し、6号である仮面ライダーアマゾンは「トカゲ」かつアマゾンで育った野生児。さらにアマゾンと戦う悪の秘密結社「ゲドン」も、単に世界征服を謳うのではでは無く、古代インカ帝国の超エネルギーを手に入れるために、超エネルギーを宿した「ギギの腕輪」を持っているアマゾンを追って日本に上陸した・・・という、一概に「正義のヒーロー対悪の秘密結社」ではなく、「秘宝の奪い合い」に焦点を置いた仮面ライダーと悪の組織の対決等、新たな試みも行なわれていました。
客観的に見てもこれだけで十分「異色」ではあるのですが、歴代の仮面ライダー達は、物語において子ども達に「ヒーロー」として認識されているのに対し、アマゾンは違いました。彼はアマゾンで育ってきたかつ、異形のヒーローである故、守る対象である人間達になかなか受け入れてもらえず、いくら「アマゾン、悪くない!」と無実を証明しようとしたところで、アマゾン自身も日本語をよく理解できない上に誤解を受けるわで・・・複雑な日本の人間社会に対して正義のヒーローであるはずのアマゾンが翻弄されることもありました。
アマゾン自身も「人間嫌いだ!」とホームシックになり、都会の人混みを走り抜ける状況に陥るなど・・・人々からその活躍を賞賛される仮面ライダーが大活躍する姿を期待する子ども達の目線から見れば、やや不憫な印象であったのは否めなかったと思います。
・・・とはいえ、それでも仮面ライダーアマゾンは、仮面ライダー1号から正義の系譜を継承した唯一無二の「仮面ライダー」でした。彼は風俗習慣の異なる日本社会に翻弄されても、最後の最後まで邪悪な組織との戦いを投げ出すこと無く、戦い続けたのです。
そんなややクセのある『仮面ライダーアマゾン(1974)』の物語ですが、本作の中でアマゾンと心を通わせる彼の「トモダチ」が登場します。なんとこの「トモダチ」、もとはアマゾンと敵対する悪の組織ゲドンの怪人でした。
彼の名は「モグラ獣人」。アマゾンが持つ古代インカの秘宝「ギギの腕輪」を奪う使命を帯びてアマゾンと対決するも失敗。任務の失敗により組織に処刑されようとするも、アマゾンにより命を救われ、アマゾンの協力者となった怪人でした。
「私が子どもの頃に観たショッカーの怪人は怖いイメージがあったけど、アマゾンは怪人とも仲良くなるの?」
という意見もあると思います。ご指摘のとおり、歴代仮面ライダーシリーズに登場する怪人達は、その多くが「悪党」でした。人を無差別に殺害し、そのやり口も残虐かつ狡猾で、罪のない人達を溶かしたり、骨にしたり・・・正に悪魔の集団だったのです。
しかしそんな邪悪な怪人達の中でも、「もしかしたらトモダチになれるかも!」と可能性を見出したのが「モグラ獣人」でした。
元は悪の組織の怪人であったとはいえ、彼自身も友情には厚く、窮地のアマゾンを救出したり、敵を攻略するためのヒントを探ったりと、いわゆる「イイやつ」だったのです。
しかしそんなモグラ獣人も、命を落としました。彼が所属していた「ゲドン」とは別の悪の秘密結社である「ガランダー帝国」の怪人(キノコ獣人)の菌攻撃で死んでしまったのです。しかし彼は命を落とす直前、自身を蝕んだ菌兵器をもとに解毒剤を完成させるために尽力した結果、無残にも唯一無二の大切な命を落としてしまいます。
「マサヒコ・・・モグラを尊敬するかい?」(モグラ獣人)
モグラ獣人は、親友であるアマゾンやマサヒコ少年に看取られ、息を引き取ります。弔い合戦の中でアマゾンは怒りを爆発させ、正義のための復讐の鬼となって、にっくきキノコ獣人を倒すのでした。
戦いを終え、「勇気の士(ひと)、モグラ獣人の墓」と彫られた墓の前に涙を流したのは、彼にとって大切な存在であるアマゾンとその仲間達だったのでした。
【ピカピカぴかりん♪じゃんけんポン♪】泣き虫だけどメチャメチャ強い!キュアピースと宿敵アカオーニの決着は?
仲間の仇討ちのために復讐の鬼となり、戦いを終えた仮面ライダーアマゾンですが、このような「鬼」を題材とした物語は、同じく東映という大看板を背負った、東映アニメーション制作のアニメ作品である『プリキュア』シリーズの世界でも展開されました。
本題に入る前に、少しだけプリキュアシリーズについてお話しをさせてください。
プリキュアシリーズは東堂いづみ先生の原作で、2004年に放送が開始された東映アニメーション制作のアニメ作品『ふたりはプリキュア』に端を発するアニメシリーズです。
「女の子だって暴れたい!」というキャッチコピーのもとで誕生した『ふたりはプリキュア(2004)』は、性格の異なる2人の女の子が伝説の戦士・プリキュアとなり、邪悪な組織と戦う物語。
好評を博した本作はその後、『ふたりはプリキュア Max Heart (2005)』や『ふたりはプリキュア Splash Star(2006)』と派生作品が毎年放送されるようになり、以降も『Yes!プリキュア5 (2007)』や『スマイルプリキュア!(2012)』、『ヒーリングっどプリキュア(2020)』と世代を跨ぎながらシリーズ化され、シリーズ第20作『ひろがるスカイ! プリキュア(2023) 』において、プリキュアはシリーズ誕生20周年を迎えました。現在は最新作『わんだふるぷりきゅあ(2024)』が放送されています。
そんな約20年にも渡る長い歴史を有したプリキュアシリーズにおいて、今回ご紹介するのは、プリキュアシリーズ第9作目『スマイルプリキュア!(2012)』。
本作は、「七色ヶ丘中学校」に通う5人の中学2年生の少女達が「伝説の戦士プリキュア」となって、世界をバッドエンドに染め上げようとする「バッドエンド王国」から地球を守る物語。
『スマイルプリキュア!』が放送されたのは、2012年から約1年間。ご存知のとおり、東日本大震災が発生した翌年であり、日本が辛く悲しい出来事に向き合い、前を向いて戦い続けていた時代でした。
そんな時代背景の中で誕生した本作は、ひとことで言えば「希望に溢れたウルトラハッピーな物語」だと思います。毎週放送が楽しみになるような明るく楽しい作風、個性豊かな5人のプリキュア達と、彼女達を支える妖精達、悪役だけれども憎めない「おとぎ話」をモチーフにした「バッドエンド王国」の3幹部達(赤鬼、オオカミ、魔女)、そしてプリキュアと悪役達が織りなすバラエティ溢れた多種多様な内容・・・。
敵の発明品によって、プリキュアが小さくなったり、子どもになったり、透明人間になったり、ロボットにされたり、敵味方一緒にゲームをしたり・・・
私達大人も童心に還って、肩の力を抜いて安心して観られるような自由な作風であり、大好きな絵本のように何度も読み返し(観返したく)たくなるような作品でした。
そんな楽しさいっぱいの『スマイルプリキュア!』ですが、先述したとおり5人のプリキュアが登場します。
絵本が大好きで、元気な明るい女の子であるキュアハッピー(星空みゆき)、バレー部に所属し、熱いハートをもつ大阪出身の少女キュアサニー(日野あかね)、泣き虫だけども芯が強く絵を書くことが得意なキュアピース(黄瀬やよい)、家族思いで姉御肌、まがったことが大嫌いなキュアマーチ(緑川なお)、生徒会の副会長で弓道部所属、知的美人のキュアビューティ(青木れいか)・・・
個性豊かな5人の中で、今回焦点を当てるのは、泣き虫だけども芯が強い、キュアピース(黄瀬やよい)。
この「やよいちゃん(劇中での呼称)」ですが、泣き虫かつ普段はおとなしい性格な上、得意な絵を描いても人に見せられない恥ずかしがり屋さんでした。さらにスポーツと数学が苦手。「1+2+3+4」の答えが出せず苦戦したほか、スーパーヒーローやスーパーロボットが大好きで、自分が好きなものについて熱く語り、ロボットアニメ「ロボッター」の玩具発売初日には長蛇の列に並ぶ等、「オタク気質」なキャラクターでもあります(私も変身ヒーローやロボットが大好きなので、かなり親近感が沸くタイプですが・・・)。
そんなやよいちゃんですが、ひょんなことから「プリキュア」に覚醒します。本作第3話にて、バッドエンド王国の幹部である「アカオーニ」が七色ヶ丘中学校を襲撃したことをきっかけに、やよいちゃんはキュアハッピー、キュアサニーに続く3人目のプリキュアとして覚醒します。プリキュアは変身時、何かしらの名乗りをするのがお約束なのですが・・・。
「ピカピカぴかりん♪じゃんけんポン♪ キュアピース!」(キュアピース)
・・・そうです。このキュアピース、なんと変身の名乗り時に視聴者に毎週じゃんけんを仕掛けてくるという、類い希かつ極めて希有なキャラクターだったのです。
「キュアピースだからいつもピースを出してくるんじゃないの?」
残念ながら違います。その日の放送によってグー、チョキ、パーと名乗り時のポーズが違うのです。キュアピース曰く、「私に勝てたらその日1日はスーパーラッキー」なのだとか。視聴者にじゃんけんを仕掛けるキャラクターといえば、日曜日の夕方放送の『サザエさん』が定番ですが、『スマイルプリキュア!(2012)』の放送は日曜日の朝。
つまり、「日曜日にじゃんけんを仕掛けてくるやつがもうひとり増えた」状態だったのです。
それはさておき、無事に初変身を果たしたキュアピース(やよいちゃん)。切れの良い動きでポーズをとり、身構えたと思ったら・・・
「いやぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」(キュアピース)
なんと恐ろしい形相の敵に背を向け、半泣きで両手を挙げた古典的なポーズで敵前逃亡。さらに雷を主体とした必殺技を得意としながらも、必殺技を出す度に自らが出した雷の音に仰天する等、可愛らしさが前面に出た(良い意味で)「あざとい」キャラクターでした。
当事件以降、キュアマーチ、キュアビューティも無事合流して「スマイルプリキュア!」の全員が揃い、バッドエンド王国との戦いに身を投じていくことになります。勿論キュアピースも活躍しますが、そのキャラクター性は健在。自ら進んでパンチやキックといった徒手空拳技を敵に打ち込むことはほとんどなく、他のメンバーと力を合わせるのが定番。さらに毎回名乗りのじゃんけんは継続しつつ、必殺放を放つ際は自分の出した音で驚くのがお約束でした。
「弱いじゃないか!」とご指摘を頂きそうですが、実はこのキュアピース。幾多もの戦いを重ねていく中で、彼女に秘められた潜在能力が発揮される時がきました。
それは、プリキュアの妖精である「キャンディ」がバッドエンド王国に連れ去られてしまい、この戦いに敗れれば二度と元の日常に戻ることはできないという覚悟のもとでの戦いでした。
バッドエンド王国を舞台に、キャンディ救出を引き受けたハッピーを除く、残る4人のプリキュア達は、なんと単独でそれぞれの幹部に勝負を挑むこととなります。
キュアピースの相手は、彼女が誕生するきっかけをつくったアカオーニでした。
「キュアピース!泣き虫のお前に俺が倒せるオニィ?」(アカオーニ)
「私泣き虫だけど、根性はあるもん!」(キュアピース)
しかし戦力の差は大きく、キュアピースが倒れ伏せる中・・・
「話にならないオニ」と歩を進めるアカオーニの足を、半泣きで掴むピース。
「いい加減にはなすオニ。・・・お前泣いてるオニ?泣き虫オニ?ウワッハッハッハッ・・・!」(アカオーニ)
「・・・痛い。怖い。でもここで逃げたら、皆と一緒にいられなくなっちゃうから。それが一番怖いから・・・絶対逃げない!」(キュアピース)
遠くで戦っている他の4人プリキュア達と心を合わせ、奮起したキュアピースはアカオーニに再び立ち向かいます。
「そこをどくオニィ!」(アカオーニ)
「絶対!通さない!!」(キュアピース)
キュアピースの電撃を喰らい、怒りに満ちたアカオーニは黄色い目を輝かせ巨大化します。
「プリキュア!ピース・・サンダァァーーーーーー!!!!!」(キュアピース)
渾身の必殺技でアカオーニを破ったキュアピースは、それぞれ幹部を退けた他のプリキュア達と合流し、キャンディと共に元の世界へ帰ることができたのでした。
「キャンディを取り戻して、みんなで一緒に帰る。」その強い思いによって強敵を打ち破ったキュアピースの姿は、正に「100%ヒーロー」でした。
つまり、キュアピースは本気を出せばメチャメチャ強いプリキュアである上、彼女だけでなく「スマイルプリキュア!」の各メンバーが、幹部級の悪役を退けてしまう程の強力な力量を秘めていたのです。他のプリキュアシリーズや『秘密戦隊ゴレンジャー(1975)』をはじめとするスーパー戦隊シリーズ等、複数のヒーロー達が1グループになって敵と戦う作品は「皆で力を合わせて、お互い足りない部分を補い合い、共通の敵をやっつける」のが醍醐味ですが、あえてそれを実行せず、単独で強い敵をやっつける展開は珍しいものでした。
その後、キュアピースとアカオーニは本作の終盤にてかけて何度も再戦することになります。そして、キュアピースはアカオーニ自身が変化した怪物(ハイパーアカンベェ)と最後の一騎討ちを展開し、最終的に5人のプリキュア全員の前に敗れ、アカオーニは戦意を喪失したかに見えました。
しかし、アカオーニは他の2人の幹部達と共に、バッドエンド王国3幹部全員でプリキュア達に最後の戦いを挑みます。その猛攻に苦戦を強いられるプリキュア達ですが、彼女たちが聞いたのは、3幹部達が辿ってきた悲しい過去でした。
「お前達にはわからないオニ!」(アカオーニ)
「あたし達が何度も味わった・・・あの悔しさ、痛み!あたし達は絵本の中じゃいつも嫌われ者!」(マジョリーナ/バッドエンド王国の幹部)
「誰からも相手にされない・・そんなときだ。俺達の前にジョーカーが現れたのだ!」(ウルフルン/バッドエンド王国の幹部)
実は、アカオーニをはじめとするバッドエンド王国の幹部達は、もともと絵本の世界「メルヘンランド」で暮らす妖精であり、おとぎ話の悪役であることから皆に嫌われてしまい、そんな孤独な気持ちをつけ込まれてバッドエンド王国に身を投じた存在でした。
「痛いでしょう。苦しいでしょう。悔しいでしょう。いけないのは、このくだらない世界です。居心地の悪い世界は全部壊しましょう。ピエーロ様が力をくれます。世界から未来を奪ってバッドエンドにしましょう。そうすれば、あなた達の住みやすい世界になりますよ。」(バッドエンド王国の刺客:ジョーカー)
赤鬼、魔女、オオカミ・・・彼らは絵本の世界ではいつも悪役。故に3幹部達は人々から嫌われてきたのです。
「疎まれ、蔑まれ、誰からの相手にされない!その悔しさや淋しさ・・・お前達なんかにはわからないオニ!」(アカオーニ)
そんなアカオーニ達の過去を知ったプリキュア達は拳を緩めます。たとえ悪役とはいえ、そんな彼らの悲しき事情を理解したプリキュア達は、彼らに寄り添うために説得を試みます。
「なんで戦おうとしないオニ!」(アカオーニ)
「私も学校で同じようなことがあった。」(キュアピース)
「あんたらが絵本の中で感じたこと、わからんでもない。」(キュアサニー)
プリキュア達から同情され、さらに逆上した3幹部はプリキュア達に襲いかかります。
「私達は、私達の世界の未来を守りたい!そのために、あなた達と戦うのは違うと思います!」(キュアビューティ)
「毎日幸せで、なんの不自由もないお前達に!」(アカオーニ)
「私達は、あなた達が感じた嫌な思いを、少しでも和らげたい!」(キュアハッピー)
彼らに呼びかけたのは、子どもの頃から絵本を読むことが大好きで、物語の世界に耽ることが大好きなキュアハッピー(星空みゆき)でした。
「私、絵本の中のみんなが大好き。本当は、オオカミさんもオニさんも魔女さんも、とっても優しいんだよね。絵本が沢山の夢や希望を与えてくれるのは、みんながいてくれるおかげだもん。ありがとう。よかったら、私と友達になって欲しいな。」(キュアハッピー)
キュアハッピーの言葉に心を動かされ、目を潤わせるアカオーニ達。
「みんなで一緒に遊ぼう。きっと、とっても楽しいから。」
アカオーニ達は涙を流し、彼らを囲っていた邪気が取り払われます。
するとアカオーニ達は本来の姿に戻ります。彼らの正体はメルヘンランドの妖精達(オニニン、マジョリン、ウルルン)だったのです。
その後、スマイルプリキュアは悪の皇帝ピエーロに最終決戦を挑み、彼を浄化することでバッドエンド王国を壊滅させることに成功します。プリキュア達はバッドエンド王国との戦いを終えたことで、地球は元の平和な世界に戻り、オニニン達が暮らすメルヘンランドも救われたのでした。めでたし、めでたしー。
『スマイルプリキュア!(2012)』の物語はここで終わりますが、本作で描かれたプリキュア達とアカオーニの因縁は、敵側の事情を抱擁し、敵ではなく友達として受け入れることで完結します。
他者を許すこともプリキュアの強さの証である。スマイルプリキュアの煌々たる姿は、放送終了から10年以上が経過した現在も、その活躍を見守っていた人々のキラキラした大切な思い出として輝き続けていることでしょう。
最後までご覧頂きまして、誠にありがとうございました。
・菅谷洋也、『講談社シリーズMOOK 仮面ライダーOfficial Mook 仮面ライダー昭和 Vol.5 仮面ライダーアマゾン』、講談社