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ルメール騎手が新しいブランドを立ち上げた。その理由と目的とは?

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
CL by C・ルメールを立ち上げたクリストフ・ルメール騎手

ルメールのブランドが情報解禁

 サウジアラビアで1日に重賞を4勝したクリストフ・ルメール。帰国後、新型コロナウィルスの陽性反応が出てしまい、2週間、騎乗をキャンセルした。

 「熱と咳が少し出たけど、元気でした。ただ、ホテルでの隔離中はずっと1人だったので退屈でした」

 そう言って苦笑する。

 そんな状況から今週末、復帰をする。そして、それに合わせたわけではないが、偶然、同じタイミングで1つのプロジェクトの情報が解禁となった。

 「洋服のブランド『CL by C・ルメール』を立ち上げます」

 トップジョッキーとして成功を収めている彼が今、何故、新たな業種に参戦しようとしているのか。今回はそのあたりを詳しく記していこう。

サウジアラビアで1日に重賞を4勝し、レース後、関係者から記念撮影を求められたルメール騎手。4勝を意味する4本指を立てて撮影に応じた
サウジアラビアで1日に重賞を4勝し、レース後、関係者から記念撮影を求められたルメール騎手。4勝を意味する4本指を立てて撮影に応じた

 私がこの構想を本人の口から初めて聞いたのは相当、前。改めていつくらいから練っていた構想か?を問うと「2年前から」と本人。情報解禁までに時間を要した理由を次のように続ける。

 「素材もデザインも日本製に拘りました。自分の足であちこちに出向き、高いクオリティーのモノを探しました」

 京都のアーティストや和歌山の工場など、騎手をしながら行脚し、選りすぐった。そのため2年間かかったのだと言う。

 このようにして出来上がった服には、リーディングジョッキーの拘りが細かいディテールにまで込められていた。

 「基本的には騎手の勝負服をモチーフにしました。ただ、本当の勝負服は薄くてタイトなので、もっとカジュアルに着易いようにしました」

 ボタンを騎手のヘルメット型にしたり、ジッパーをジョッキーブーツにしたりという遊び心も盛り込んだ。

ポロシャツのボタンはジョッキーのヘルメットの形。他にジッパーはジョッキーブーツの形になっているなど遊び心も取り入れた
ポロシャツのボタンはジョッキーのヘルメットの形。他にジッパーはジョッキーブーツの形になっているなど遊び心も取り入れた

 「パンツはジョッキーパンツを基礎に、ストリートに対応出来る様、ポケットを付けました。気軽く履けるようにスニーカーに対応出来るようにもしました」

 和柄にフランスや蹄鉄をあしらったデザイン。また、彼の生まれ故郷であるフランスのトリコロールカラーや「個人的に好き」という黒をベースにした色使い等にも拘った。

 「柔らかくて動きやすく、デザインもお洒落なのでゴルフをする時や競馬場へ行く時など、普段使い出来ます。毎日でも着ていただきたいです」

蹄鉄と和洋折衷の模様を取り入れたデザインも
蹄鉄と和洋折衷の模様を取り入れたデザインも

ブランドを立ち上げた理由と目的

 ところで、JRAでリーディングジョッキーとなるほどの人物が、全く異業種のファッション業界へ足を踏み入れる事を不思議に思う読者の方も多いのではないだろうか。本人の話を聞くと、しかし、その答えが意外なところにあると分かる。

 「これで大きく稼ぎたいという気持ちはありません。だから、大量生産はしません。帽子と秋冬のジャケットは構想段階でのJRAの年間GⅠレース数に合わせて24個(着)、ポロシャツやパンツ等その他のモノに関しては重賞レース数の128だけの限定品とします」

 ひと儲けを企むわけではない事は、この数字から理解出来る。そこで改めて、それでも何故、起業したのかは、次の言葉からよく分かる。

 「日本人の皆さんも、日本の競馬の世界も僕を温かく迎え入れてくれました。僕はそんな日本と日本の競馬界に恩返しをしたい。だから100%日本の素材にも拘ったし、競馬の大衆化につながる洋服を考えました」

 その上で売得金に関しての活用法を次のように続けて〆た。

 「売り上げの一部は引退馬支援等に活かされる事が既に決まっています。その他にも何等かの形で還元出来るように、今後も考えていきたいです」

 「騎手になった時から目標にしている(生まれ故郷の)凱旋門賞を、日本の馬に乗って勝つのが僕の現在の夢です。日本は僕にとって第二の故郷ですから」と日本への愛を語るジョッキーは、恩返しを様々な形で具現化していく。競馬場の内だけでなく、外でも彼から目が離せなくなりそうだ。

16年には日本馬マカヒキで凱旋門賞の前哨戦ニエル賞を快勝。残念ながら凱旋門賞は敗れたが「いつか日本馬で凱旋門賞を勝つのが僕の夢」とルメールは言う
16年には日本馬マカヒキで凱旋門賞の前哨戦ニエル賞を快勝。残念ながら凱旋門賞は敗れたが「いつか日本馬で凱旋門賞を勝つのが僕の夢」とルメールは言う

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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