なぜスペインは”欧州4強”に入れたのか?「世代交代」の成功と黄金時代からの脱皮。
大会前の期待値は、決して高くなかった。
EURO2020開幕前に、スペインを優勝候補の筆頭に挙げた者は少ないだろう。フランス、イングランド、ベルギーといったチームの方が、完成度や成熟度で上回っていたはずだ。
だがスペインはベスト4に勝ち残った。主要大会においては、優勝を飾ったEURO2012以来の4強入りを果たしている。
「私はスペイン人だ!」
GKウナイ・シモンのビッグセーブでスペインがスイスとのPK戦を制した後、そんなメッセージが筆者のスマホに届いた。スペインという国は、強い地域性があるが故に、一つにまとまるのが難しい。しかしながらフットボールというスポーツは偉大なもので、時に人々を一瞬にして束ねてしまう。
強く記憶に残っているのは、EURO2008でスペインが優勝した後の出来事だ。バルセロナの街中で、スペイン国旗とカタルーニャ州旗を掲げた2人の若者が、”ウイニングラン”をするように駆け抜けていった。フットボールが国をひとつにーー。それが体感できた瞬間だった。
■レギュラーとビッグクラブの選手
先述したように、今大会においてラ・ロハ(スペイン代表の愛称)はそれほど期待されていなかった。
アイメリク・ラポルト(マンチェスター・シティ)、エリック・ガルシア(シティ)、パブロ・サラビア(パリ・サンジェルマン)、フェラン・トーレス(シティ)らは所属クラブでレギュラーの選手ではない。ウナイ・シモン(アスレティック・ビルバオ)、パウ・トーレス(ビジャレアル)、ダニ・オルモ(ライプツィヒ)といった選手はビッグクラブでプレーしているわけではない。
加えて、今回の招集メンバーには、レアル・マドリーの選手が一人もいなかった。セルヒオ・ラモスの不参加が話題を呼んだが、ナチョ・フェルナンデス、マルコ・アセンシオ、ルーカス・バスケスらも呼ばれなかった。
黄金時代のラ・ロハでは、主力メンバーはバルセロナとマドリーの選手で固められていた。当時のバルサとマドリーはチャンピオンズリーグの上位進出チームの常連だった。EURO2020が始まる前に、期待が高まらなかったのも無理はない。
「生みの苦しみ」という言葉がある。
現在のスペインは、まさにそれだろう。今大会の平均年齢は26歳だ。ロシア・ワールドカップ(27歳)、EURO2016(27.6歳)、ブラジル・ワールドカップ(27.7歳)、EURO2012(27.6歳)と比較して、最も若い選手たちである。
ポルトガルはクリスティアーノ・ロナウドやペペといった優勝したEURO2016のメンバーを中枢に据えた。ドイツは大会直前にトーマス・ミュラーやマッツ・フンメルスを復帰させた。フランスはカリム・ベンゼマを招集したが、基本的にはロシアW杯で頂を極めた選手たちがレギュラーだった。
一方、イングランドはギャレス・サウスゲート監督がメイソン・マウント、ジェイドン・サンチョ、デクラン・ライス、カルバン・フィリップス、リース・ジェームス、フィル・フォーデン、ジャック・グリーリッシュと若い選手たちに賭けた。イタリアはロベルト・マンチーニ監督がジャンルイジ・ドンナルンマ、マヌエル・ロカテッリ、二コロ・バレッラ、フェデリコ・キエーザを積極起用している。
ポルトガル、ドイツ、フランスは上位進出を果たせなかった。イングランドとイタリアはベスト4に名を連ねた。
EURO2020はそういった意味でも象徴的な大会になっている。
■世代交代とポテンシャル
「若い選手たちのメンタリティーとパフォーマンスに驚かされている。これほどのレベルにあるとは思っていなかった。まったく予想していなかった選手が出現したというのもある。成長のための高いポテンシャルがある」
「優勝候補などと言われたくない。挑戦を前にして私に恐れはない。だが現在のチームに正当な評価というものを与えなければならない。どこまで勝ち上がれるかは分からないが、このチームは若く、成長の意欲があり、勝利にハングリーだ。我々は打倒困難なチームになるだろう」
大会前のルイス・エンリケ監督のコメントである。
シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、シャビ・アロンソ、ダビド・シルバ、セスク・ファブレガス、ダビド・ビジャ...。黄金期のスペインは、華麗で、美しく、尚且つ勝てるチームだった。いまのラ・ロハは、もっと泥臭い。若いからこそ、ガムシャラだ。危うさを孕んだチームが、どこまで行くのかーー。イタリアとの準決勝が、目前に迫っている。