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仮放免の外国人に新型コロナワクチン接種へ 厚労省、オーバーステイもケース見て対応

米元文秋ジャーナリスト
移民コミュニティーの人への新型コロナワクチン接種、米アトランタ(写真:ロイター/アフロ)

 厚生労働省はこのほど、難民申請者の一部も含む「仮放免」中の外国人も、新型コロナウイルスのワクチンの接種対象とするよう都道府県に伝えた。

 これまで政府は「居住実態がある外国人」が接種対象になると説明していた。しかし、居住していても住民登録のない外国人への接種について、可否を周知していなかった。今回、そうした「本邦に在留することができる外国人以外の在留外国人」の一部への同ワクチン接種に踏み込み、具体例として仮放免者を明示した。

 仮放免者以外で、住民票を持たないオーバーステイ(超過滞在)の人については、厚労省は、基本的に出入国管理及び難民認定法(入管法)の規定に沿うとしつつ「ケースバイケースで対応」(担当者)する方針だと説明する。可否を一律には示しておらず、含みを残している。

日本人同様に接種券送付も

 仮放免者とは、入管法に基づき、収容または退去強制の命令を受けて入管施設に収容された外国人のうち、「情状及び仮放免の請求の理由となる証拠」を考慮して、一時的に収容が解除された人たちとされる。

 今回の政府方針は、厚労省健康局健康課予防接種室が3月31日付で、各都道府県衛生主管部(局)宛てに出した「事務連絡」に記されている。表題は「入管法等の規定により本邦に在留することができる外国人以外の在留外国人に対する新型コロナウイルス感染症に係る予防接種について」だ。

 事務連絡は、仮放免者のうち「実施主体である市町村の区域内に居住していることが明らかなものについては、仮放免中の者から申請があった場合に接種券の発行を行う等、新型コロナ予防接種を受けることができるよう適切な配慮を行う」と明記している。

 その際の居住実態や身分証明の確認は「仮放免許可書や、仮放免中の者に関する各地域の出入国在留管理局からの通知、旅券等」によって行う、と述べている。

 また「仮放免中の者の居住地を当該市町村が把握している場合は、事前に接種券を送付するという方法も考えられる」と記述。一般の日本国民や、実習生などとして正規に滞在する外国人と同様の手続きも可能となる。

 今回の事務連絡は、2012年6月14日付の厚労省健康局結核感染症課の事務連絡で示された、外国人に対する予防接種の取り扱いにならった内容だ。

 出入国管理庁の統計によると、19年末時点の仮放免者数は全国で3315人。20年は、入管の収容施設への新型コロナウイルス感染拡大などに伴う仮放免も進められた。

「入管に相談」の困難

 オーバーステイの外国人全体となると、さらに人数が多い。入管庁によると、21年1月1日現在の「不法残留者数」は前年同日とほぼ同じ8万2868人に上る。

 オーバーステイの人について厚労省担当者は、取材に「基本的な考え方としては、オーバーステイ状態であれば、最寄りの地方の在留管理局にご相談いただくという取り扱いになるかと思う」と指摘。入管の手続きによって仮放免となれば、今回の事務連絡に基づく接種が受けられると説明した。

 一方で「本来なら出頭すべきなのに隠れている。もしかしたら本当に止むに止まれぬ事情があるんだろうとも思う」とも語り、接種の可否について「一律に基準を示すのは難しい。基準を示すと一律の対応になってしまうのかと思う」「基準で切ると言うより、ある程度余地を残す」と、一定の配慮をする考えを示した。

 オーバーステイの人のワクチン接種をめぐっては、茨城県大洗町のインドネシア人の間で、町への要請が議論されるなど、動きがある。しかし、家族への仕送りなどのため働くオーバーステイの人からは、強制送還への警戒感から、接種のため自治体や入管に居住地を知られることは避けたいという声が聞かれた。

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 オーバーステイの人のワクチン接種も実施するとなると、担当する自治体職員らの入管への通報義務との兼ね合いも課題となろう。業務の公益性を通報義務よりも優先する運用が、認められる可能性はあるのだろうか。

 この点について厚労省担当者は「必要性が生じれば検討していくことになるが、そもそもは入管とのバランスを見ながらの部分になると思う」と述べた。

国連「在留資格にかかわらず」

 新型コロナウイルスは、自国民でも外国人でも、正規滞在者でも非正規滞在者でも感染する。ワクチンで感染を封じ込める戦略を採用するならば、こうした違いを超えて、より多くの人への接種が必要となる。

 このため、国連移住労働者委員会などは3月8日、「国籍や在留資格にかかわらず、非差別の原則に基づき、全ての移民とその家族に、新型コロナワクチンへの公平なアクセスを保障する」などとの指針を公表した。

 各国からの報道などによると、米国、西欧の主要国、イスラエル、モルディブ、マレーシア、韓国などが、在留資格のない人のワクチン接種を進めようとしている。

(了)

ジャーナリスト

インドネシアや日本を徘徊する記者。共同通信のベオグラード、ジャカルタ、シンガポールの各特派員として、旧ユーゴスラビアやアルバニア、インドネシア、シンガポール、マレーシアなどを担当。こだわってきたテーマは民族・宗教問題。コソボやアチェの独立紛争など、衝突の現場を歩いてきた。アジア取材に集中すべく独立。あと20数年でGDPが日本を抜き去るとも予想される近未来大国インドネシアを軸に、東南アジア島嶼部の国々をウォッチする。日本人の視野から外れがちな「もう一つのアジア」のざわめきを伝えたい。

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