【ライヴ・レポート】スパークス 2017年10月24日/東京キネマ倶楽部
スパークスが2017年10月、最新アルバム『ヒポポタマス』に伴う来日公演を行った。
1970年代から活動するベテランながら21世紀に入って頻繁に日本のステージに立つようになった彼らだが、このところロン(キーボード)とラッセル(ヴォーカル)の2人編成での公演やフランツ・フェルディナンドとの共演ユニットFFSなど、変則的なフォーメーションでの来日が続いてきた。今回は久々のバンド編成によるライヴ。東京キネマ倶楽部2 daysの初日はほぼフルハウスといえる盛況ぶりとなった。
ショーは新作の「ホワット・ザ・ヘル・イズ・イット・ディス・タイム?」から、新旧取り混ぜたセットリストで小気味よいテンポで進んでいく。「プロパガンダ」〜「アット・ホーム、アット・ワーク、アット・プレイ」、「ホェン・ドゥ・アイ・ゲット・トゥ・シング“マイ・ウェイ”」などのスパークス・クラシックスは、1曲ごとのイントロが奏でられるたびに大きな声援が沸き起こる。
仏頂面でキーボードを弾くロンと笑顔を浮かべてステージ狭しとスキップしながら歌うラッセルの絶妙なコントラストは、スパークス最大の魅力のひとつだ。45年のあいだ女性ファンのハートを溶かしてきたラッセルの百万ドルのスマイルは健在で、曲間のトークでも「何を言おうとしていたんだっけ?...たぶん何でもないんだろうな(it's probably nothing)」と次の曲を紹介するなど、リラックスしたムードが漂っていた。
ロンが“人間が歌うこと”を前提とせずに曲を書いたため、ラッセルが独自のファルセット・ヴォイスで歌うようになったというのは有名なエピソードだが、それから45年を経た『ヒポポタマス』からの曲でもそのスタイルは踏襲されている。「アクロバチックな体位もいいけど、古臭いと言われてもやっぱり正常位が一番♪」と歌う「ミッショナリー・ポジション」、「うちのプールにカバがいる♪」という童謡のような「ヒポポタマス」などは、スパークス“らしさ”が染み込んだ曲であり、オールド・ファンらしき層からも大きな歓声を浴びていた。
バンドのメンバーもそんなスパークス節を心得たミュージシャン達だ。 ミニ・マンションズのザック・ドウズ(ベース)、タイラー・パークフォード(キーボード)を軸にツイン・ギターを加えたバンドは全員が白黒横縞柄ファッションでまとめて、ポップでありながらパンクっぽさも伴う演奏で、幅広い音楽性を網羅していた。スパークスのエレクトロ・ポップ期を代表する「ザ・ナンバー・ワン・ソング・イン・へヴン」にもロックなアレンジが加味されている。エヴァン・ワイスとテイラー・ロックのギターが、さらにロックなエッジを際立たせていた。
スパークスのライヴで誰もが期待している“ロン踊り”のコーナー(正式な名称は不明。それまで無表情でキーボードを弾いていたロンが突如立ち上がって、笑顔で派手に踊り狂う)は「ザ・ナンバー・ワン・ソング・イン・へヴン」の間奏パートで披露され、この日一番の拍手と歓声で迎えられた。
そしてライヴ本編のハイライトはもちろん「ディス・タウン」だ。1974年に発表されたこの曲は本国以上にイギリスとヨーロッパで大ヒット。日本でも彼らの代表曲として知られるスパークス・クラシックスで会場はヒートアップ。その後に本編ラストとしてプレイされた「ライフ・ウィズ・ザ・マクベス」は観衆の火照った身体をチルダウンすることになった。
ただでさえ名曲が多く、しかもライヴ・レパートリーが幅広いスパークス(過去発表した全アルバムをライヴで完全再現したこともある!)。もっとあの曲もこの曲も聴きたかった!...というファンも少なくないだろうが、バランスの取れた曲目のショーは現在進行形の彼らを見事に表現するものだった。
アンコールはFFSの「ジョニー・ディリュージョナル」、そしてラストは「アマチュア・アワー」。最後を飾るのが童貞卒業のセレブレーション・ソングというのがスパークスらしいユーモアといえるだろうか。
日本側の変な“イジリ”もなく、前座バンドもいない。ただスパークスのステージ・パフォーマンスを胸いっぱい味わうライヴは、100%以上の満足感をもたらしてくれた。それがこの日の観衆に共通する想いであることは、会場を後にする彼らの顔に浮かぶ笑みから伝わってきた。