えっ!自分は離婚したの?~「知らぬ間離婚」の防止策
タレントのあびる優さん(33)が夫で格闘家の才賀紀左衛門(きざえもん)さん(30)と離婚したことを11月13日、所属事務所が発表しました。
関係者は「実はあびるさんは離婚成立を知らなかったようだ。記入済みの離婚届を以前から用意していて、それを才賀さんが相談なく提出した様子。“混乱してる”と言っていた」と明かしました(参考:あびる優、離婚成立「知らなかった」? 夫・才賀紀左衛門が届け提出し「混乱してる」)
もし、これが事実だとしたら、あびる優さんは、自分が知らぬ間に離婚してしまったということになります。このような、「知らぬ間離婚」を阻止する手段はあるのでしょうか。
離婚法の2つの目的
まずは、離婚の目的を見てみましょう。
「やり直しの自由」の提供
結婚生活に不仲は起こりうるし、円満な夫婦生活に回復するように努力を強いることが不可能なことも当然あります。
破綻した、形式だけの婚姻は、婚姻外の性的関係(いわゆる「不倫」)を生むこともありうるなど婚姻の価値を否定することにもなりかねません。
破綻した婚姻から当事者を開放し、再婚や自立の自由を保障することが、民法が掲げる離婚の第一の目的です。いわばやり直しの自由の機会の提供ともいえます。
「不公正な結果」の防止
日本では、明治時代から、夫婦の合意だけで離婚ができる協議離婚制度があります。お互いに「夫婦としてやっていけない」と判断することほど、明白な婚姻の破綻はありません。しかし、明治民法の下では、妻に協議離婚届出書に署名するように強制して、家の嫁としてふさわしくない妻、夫の気に入らない妻を、一方的に追い出す「追い出し離婚」が行われていました。ここでは、やり直しの自由は夫にしかありません。離婚された妻の名誉、生活保障などについて、何の配慮もなかったのです。
そこで、このような、離婚から生じる不公正な結果を防ぐこと、これが離婚法の第2の目的です。
2つの離婚の方法
そこで、やり直しの自由の提供と不公正な結果の防止を実現するために、民法は、夫婦の間に離婚の合意がまとまり、それを戸籍法の定めるところに従い届け出ることによって成立する協議離婚(民法763条)と民法の定める一定の離婚原因がある場合に離婚の訴えが認められ、判決によって成立する裁判離婚(民法770条)の二つの離婚を定めています。
763条(協議上の離婚)
夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。
770条(裁判上の離婚)
1夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。
協議離婚~9割が当事者の協議で離婚する
日本では、離婚の内、協議離婚は約90%を占めます。協議離婚は、離婚問題を当事者の自主的解決にゆだねます。離婚に対する国の介入を許さない点で、家族のプライバシーを守ることができる制度であるといえます。 なお、協議離婚は当事者同士の話合いで解決を模索するため、当事者の対等性や離婚後のことに関して話し合えるだけの理性が双方にあることが前提条件となります。
協議離婚の問題点
協議離婚は、市区町村役場の戸籍係に離婚届を届け出ることによって成立します。しかし、戸籍係には実質的審査権はありません。そのため、当事者双方の離婚意思を確認する手段がないため、一方的な離婚の届出がされてしまうことがあります。
また、夫婦や親子関係の調整を十分につけず、特に財産分与、子の養育費や離婚後の親子の交流についての協議が不十分なまま、離婚届を届け出てしまうケースが多く見受けられます。そのため、離婚後の特に妻の生活と子の福祉が十分に守れない結果を多く生み出しています。
不受理申出制度
そこで、本人の意思に基づかず、一方的に不当な離婚を防止する制度として、離婚届などの不受理申出制度があります(戸籍法27条の2第3項~5項)。不受理申出後、申出をした本人が窓口に来たことが確認できなかったときは離婚届等の届出は受理されません。不受理申出制度の概要は次のとおりです。
対象となる届出
対象となる届出は、次の5つです。
・協議離婚届
・婚姻届
・認知届
・養子縁組届
・協議離縁届
届出(申請)する人・できる人
・婚姻届・協議離婚届の場合:夫および妻
・認知届の場合:認知者(父)
・養子縁組届・協議離縁届の場合:養親および養子(養子が15歳未満のときは法定代理人)
届出窓口
申出人の本籍地または所在地(住所地)
必要なもの
・届出人の印鑑
・本人確認書類
~運転免許証等の公的機関の発行した顔写真が貼付された有効期限の定めがある書類でない場合は、2点以上の書類の提示が必要になる場合があります。
申出の対象となる期間
期間の定めはなく、不受理申出は取下げられるまで継続されます。
離婚届等不受理申出(申出)件数
2016年度から過去5年間の離婚届等不受理申出(申出)件数は、次のとおりです。5年間の平均申出件数は、36,169件となっています。
知らぬ間に離婚届を出されてしまったら
では、離婚届の不受理申出が間に合わなくて、離婚届が知らぬ間に役所に届け出られてしまったらどうしたらよいでしょうか。
協議離婚が有効に成立するためには、離婚届の時に夫婦双方に離婚する意思があることが必要です。したがって、夫婦の一方が他方に無断で届け出た協議離婚は、他方が追認(過去にさかのぼって、その事実を認めること)しない限り無効となります。
しかし、そのような場合にも、協議離婚が無効であることを主張して、協議離婚の記載のある戸籍を訂正するためには,夫又は妻を相手方として協議離婚無効確認の調停を申し立てる必要があります。
この調停において,当事者双方の間で,さきに届出がなされた協議離婚が無効であるという合意ができ、家庭裁判所が必要な事実の調査等を行った上で、その合意が正当であると認めれば、合意に従った審判がなされます。
夫または妻が一方的に離婚届を役所に届けて、自分が知らぬ間に離婚していたという、「知らぬ間離婚」のトラブルが多発する背景には、夫婦の署名入りの離婚届を役所に届けてしまえば離婚が法的に認められるという日本独特の制度があります。
海外では、離婚するには、夫婦双方が裁判所や行政の窓口に出向いて法に則って離婚するのが一般的です。日本のように、離婚届という紙切れ1枚で簡単に離婚ができてしまうのは、世界でも例外です。
協議離婚の「協議」とは、お互い理性的に話し合ったうえで、双方納得・合意することを意味します。もし、何らかの事情で、夫または妻から協議を経ないで一方的に離婚届を出されてしまう可能性があるなら、不受理申出制度の利用を検討してみてはいかがでしょうか。