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今年のセリエAで4位の好調ミラン、退団濃厚でも献身的な「去りゆく者たちの矜持」

中村大晃カルチョ・ライター
7月4日、セリエA第30節ラツィオ戦でのピオーリ監督とイブラヒモビッチ(写真:ロイター/アフロ)

おそらくは1カ月後、そこに自分の居場所はない――それが分かっているなかで、日々の目の前の仕事に真剣に取り組むことは、プロとして当然ではあるが、決して簡単なことではない。

7月4日のセリエA第30節で、ミランはラツィオに敵地で3-0と快勝した。チーロ・インモービレとフェリペ・カイセド、ふたりのセンターフォワードを出場停止で欠いていたラツィオだが、それを差し引いても見事な勝利だ。

◆リーグ有数の好調ぶり

開幕から1カ月半で不振により監督交代を余儀なくされたのを筆頭に、今季のミランは常に批判の的にされてきた。冬にズラタン・イブラヒモビッチが復帰し、ややムードが変わったものの、新型コロナウイルスの影響でリーグが中断するまで、不安定な調子が続いていた。

だが、ロックダウンはミランにとって大きなターニングポイントとなったようだ。シーズン再開初戦のコッパ・イタリア準決勝セカンドレグ、ユヴェントスを崩すには至らなかったが、序盤に退場者を出しながらも国内最強チームを相手に好パフォーマンスを披露した。

そしてリーグ戦再開からは、今季初の4得点でレッチェを一蹴したのを皮切りに、4試合で11得点と課題の攻撃力が改善され、3勝1分けと最高のリスタートを切っている。

イブラヒモビッチが加入以降の2020年、ミランは13試合で勝ち点25を獲得した(1試合平均1.92)。これはユーヴェ、アタランタ、ラツィオに続き、ナポリやインテルを上回るリーグ4位だ。つまり、2020年に限れば、ミランはCL出場権を獲得できるほどのペースでポイントを積み重ねている。

筆者作成
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◆賛辞に値するプロ意識

しかし、何よりも称賛に値するのは、ステーファノ・ピオーリ監督や一部選手の誇り高き仕事ぶりだ。

オーナーの投資ファンド「エリオット」と、その意向をくむアイヴァン・ガジディスCEOが、ラルフ・ラングニックを中心とする新体制への移行を進めているのは周知のとおりだ。ピオーリの今季限りでの退任は、なかば既定路線とも言われる。

若手重視のラングニック体制になれば、38歳のイブラヒモビッチをはじめ、ベテランは“お役御免”となる可能性が高い。ジャコモ・ボナヴェントゥーラやルーカス・ビリアも、今季で退団の見込みだ。それでも、彼らは必死にミランの順位をひとつでも上げようとしている。

ラツィオ戦で多くのメディアから「完璧」と手腕を絶賛されたピオーリは、試合後に「責任感」「献身的」といった言葉を用いてチームをたたえた。その「姿勢、意欲、真面目さ、誇り」を生かしたいと述べている。「選手たちが最後まで110%を尽くすと確信している」のだ。

◆ラングニック&ピオーリ体制の提言も

彼らは、たとえクラブを去るにしても、胸を張って堂々と去りたいと望んでいるのだろう。その誇りが、ピオーリたちを後押ししている。

エンリコ・クッロー記者は、『レプッブリカ』で、古巣ラツィオに快勝し、新体制への移行を進める現クラブに自らの価値を示したピオーリにとって、「過去と未来に対するダブルリベンジ」と称賛した。

クリスティアーノ・ルイウ記者は、『Calciomercato.com』で「この見事な夏の偉大な主役はもちろん、ピオーリだ。真の目標なく、何もないところから、チームをつくってみせた。しかも、すでに自分の運命を知り、退団確実な選手たちを指揮しつつ、それらすべてをやってきたのだ」と記している。

「毎年同じで、まったくミランにふさわしくないシーズンが続くなか、クラブの顔を救った近年で数少ない指揮官のひとりだ」

『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のアンドレア・ディ・カーロ副編集長は、ラングニックを現場のトップに招へいしたうえで、ピオーリを続投させることも検討すべきではないかと提言している。

おそらく、それは難しい。ただ、ミランがこのまま右肩上がりでシーズンを終えれば、続投を望む声は大きくなる。少なくとも、監督交代に踏み切るなら、ガジディスには相応の説明が求められる。

ピオーリ・ミランはどこまでいけるのか。8月2日の最終戦まで注目の8試合、まずは7日に王者ユヴェントスとの大一番だ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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