乾癬と脂肪酸バランス:赤血球膜分析が明かす新たな治療アプローチ
【乾癬患者の赤血球膜脂肪酸プロファイルの特徴】
乾癬は、皮膚に赤い斑点や銀白色のかさぶたが現れる慢性の炎症性皮膚疾患です。近年の研究で、乾癬患者さんの体内では、脂肪酸のバランスが崩れていることがわかってきました。特に注目されているのが、赤血球膜に含まれる脂肪酸の組成です。
ポーランドの研究チームが行った最新の調査によると、乾癬患者さんの赤血球膜には、健康な人と比べて特徴的な脂肪酸プロファイルが見られることがわかりました。具体的には、抗炎症作用のあるオメガ3脂肪酸(EPA、DHA、αリノレン酸)の濃度が低く、飽和脂肪酸の濃度が高いという特徴があります。
これらの脂肪酸バランスの乱れは、乾癬の症状の重症度と関連している可能性があります。例えば、皮膚の炎症が広がっている面積(BSA)と飽和脂肪酸の濃度には正の相関が見られました。つまり、飽和脂肪酸が多いほど、症状が広範囲に及ぶ傾向があるのです。
【乾癬の重症度と脂肪酸プロファイルの関係】
乾癬の重症度を示すPASIスコアと脂肪酸プロファイルの関係も興味深い結果が得られました。PASIスコアが高い、つまり症状が重い患者さんほど、EPAとDHAの濃度が低い傾向にありました。これらのオメガ3脂肪酸には強力な抗炎症作用があるため、その不足が症状の悪化につながっている可能性があります。
また、全身療法を必要とする重症の乾癬患者さんでは、局所療法で済む軽症の患者さんと比べて、飽和脂肪酸の濃度が有意に高くなっていました。飽和脂肪酸は炎症を促進する作用があるため、これも症状の重症化に関与している可能性があります。
興味深いことに、オレイン酸(オメガ9脂肪酸)の濃度は、全身療法を受けている患者さんよりも局所療法の患者さんで高くなっていました。オレイン酸には抗炎症作用があるため、この違いが治療効果に影響している可能性があります。
【乾癬治療における脂肪酸バランス改善の可能性】
これらの研究結果は、乾癬の治療に新たな可能性を示唆しています。例えば、オメガ3脂肪酸を積極的に摂取することで、症状の改善が期待できるかもしれません。実際、魚油サプリメントの摂取が乾癬の症状を改善したという報告もあります。
また、飽和脂肪酸の摂取を控え、オレイン酸を多く含むオリーブオイルなどを積極的に取り入れることも、症状の管理に役立つ可能性があります。ただし、これらの食事療法の効果については、さらなる研究が必要です。
乾癬の治療において、従来の薬物療法に加えて、患者さんの脂肪酸バランスを改善する取り組みが重要になってくると考えられます。特に、オメガ3脂肪酸を多く含む魚介類や亜麻仁油、オレイン酸を含むオリーブオイルなどを積極的に摂取し、飽和脂肪酸の多い食品を控えめにするなど、日々の食事に気を配ることが大切です。
また、体重管理も重要なポイントです。研究では、BMIが25以上の乾癬患者さんでは、アラキドン酸(オメガ6脂肪酸)の濃度が高くなっていました。アラキドン酸は炎症を促進する作用があるため、適正体重を維持することで、症状の改善につながる可能性があります。
乾癬は複雑な疾患であり、その管理には総合的なアプローチが必要です。薬物療法はもちろん重要ですが、それに加えて適切な栄養管理や生活習慣の改善が、症状のコントロールに大きな役割を果たす可能性があります。今後の研究の進展により、より効果的な治療法が確立されることが期待されます。
参考文献:
Marchlewicz, M. et al. (2024). Fatty Acid Profile of Erythrocyte Membranes in Patients with Psoriasis. Nutrients, 16(12), 1799. https://doi.org/10.3390/nu16121799