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やまゆり園障害者殺傷事件から5年、大規模施設の内部告発が相次ぐことで事件の本質が見えてきた

篠田博之月刊『創』編集長
あの凄惨な事件から5年。真相解明はできたのだろうか(筆者撮影)

 やまゆり園障害者殺傷事件から5年、裁判では植松聖死刑囚の、刑事責任能力の有無に論点が絞られてしまい、背景や真相についてはほとんど触れられないまま、事件は風化しつつある。しかし、この事件に衝撃を受けた、障害者問題に長年取り組んできた人たちの思いもあって、この1年ほど、いろいろな事実が明らかになりつつある。

 月刊『創』(つくる)では2021年8月号で、植松死刑囚が勤務していた当時に書いた支援報告の内部資料を、関係者の内部告発を通じて明らかにし、発売中の12月号では、それを受けて『こんな夜更けにバナナかよ』作者の渡辺一史さん、この秋に別のやまゆり園施設の内部告発を報じた共同通信の市川亨記者、そしてやまゆり園の元職員Tさんの座談会を掲載した。

 この記事も大きな反響を呼び、障害者施設関係者の間で、それをもとに議論が広がっている。植松死刑囚は、支援現場でどういう状況に接して、重度障害者は生きていても仕方がないというあのような考えに至ってしまったのか。裁判はその真相に迫れなかったが、判決文では、あの犯行の背景として彼の施設での体験があったことを指摘していた。

 やまゆり園は事件の被害者だからという見方と、障害者差別という重たい問題と地続きの困難さから、これまでそこに踏み込んで報道することはほとんどタブーになっていたが、この1年ほどで言えば、やまゆり園の施設内部の「虐待」の現実が徐々に明らかになりつつある。神奈川県の黒岩知事の取り組みや、毎日新聞、そしてこの秋の共同通信と、少しずつそこに踏み込もうとする報道が出てきているなど、事件の背景を探ろうとする試みは少しずつ進んでいる。

 今回の『創』12月号では、内部告発者が撮影したやまゆり園の入所者の居室内部の写真をグラビアに掲載した。これまで障害者の家族でさえなかなか入ることができなかった居室内部の映像だ。8月号で紹介した植松死刑囚の内部報告などと照らし合わせて考えると、あの事件の解明のためには、タブーとされてきた施設内部の実態に迫ることは不可欠と言える。

愛名やまゆり園で居室入り口の鉄扉(『創』12月号掲載の内部告発映像)
愛名やまゆり園で居室入り口の鉄扉(『創』12月号掲載の内部告発映像)

 『創』12月号の記事全体はかなりのボリュームになるため、ここではその一部を紹介するが、関心のある人はぜひ原文をご覧いただきたい。なお『創』は事件発生直後からこの問題に取り組み、植松死刑囚への接見記録を含め相当量の報道を行ってきたが、その主要なものは2冊の単行本『開けられたパンドラの箱』『パンドラの箱は閉じられたのか』に収録されている。ぜひお読みいただきたい。

扉をあけようとしても出られない入所者(『創』12月号掲載の内部告発映像)
扉をあけようとしても出られない入所者(『創』12月号掲載の内部告発映像)

 この記事を読む前に簡単に解説しておくが、神奈川県内には、やまゆり園が3つあった。

【津久井やまゆり園】(1964年設立)【愛名やまゆり園】(1966年設立)【中井やまゆり園】(1972年設立)。事件が起きたのは津久井やまゆり園で、『創』記事では最初に渡辺さんがそれぞれについて説明しているが、ここでは割愛する。では以下、誌面に掲載されたもののごく一部であるが、座談会の紹介だ。

「まるで刑務所のよう」異様な支援の実態とは

渡辺 市川さんが書いた共同通信社の配信記事が大きな波紋を広げています。簡単に記事のポイントをまとめると、中井やまゆり園では、一部の入所者を1日20時間以上、外から施錠した鉄製扉のついた個室に閉じ込める対応が常態化し、特に異様なのが、居室に設置したカメラの映像を職員室のモニターで監視しているというんです。まずは、この報道に至った経緯をお話しいただけますか。

市川 私が以前ネットに書いた記事を見て、職員の方が数カ月前に連絡をくれたんです。「うちの園にはこういう問題がある」と。そして、複数の職員の方々から数カ月かけて話を聞いていきました。

渡辺 お聞きになってどう思いました?

市川 まず20時間以上というのは異常だなということと、私も津久井やまゆり園の事件は関心を持って見ていましたから、いろいろ資料を調べてみました。

 すると、県が3月に出した報告書(「障害者支援施設における利用者目線の支援推進検討部会報告書」)の中で、すでに中井やまゆり園で20時間以上の居室施錠が行われていることが書かれていたんです。私は正直、「どうしてこれが大きな問題にならないんだろう」と驚きました。

渡辺 ただし、県の報告書にはカメラ監視のことは報告されていませんよね。

 実は私は一昨年、津久井やまゆり園の元職員を取材した時に耳にしていました。「中井やまゆり園に比べたら、まだ津久井はマシですよ」という口調で語ってくれたのですが、「中井では刑務所のように利用者をカメラで監視している。利用者の行動障害が激しくて、うかつに居室に入ると職員の身が危険だから」というんです。それを聞いたとき、まさか動物園の猛獣じゃあるまいし、と思っていたのですが、それが本当のことだったと。

市川 中井やまゆり園には7つの寮があり、「山寮」「空寮」「海寮」などの名称がついているのですが、カメラ監視を行っているのは「泉寮」というユニットです。居室は7室ありますが、1つは短期入所用なので、基本的には6人が6部屋に入っています。そして、職員は職員室に並んだモニターを見ていて、利用者がドアを叩いて開けてくれという仕草をしたら開けるとか、散歩や入浴のときだけ連れ出して、戻ったら施錠すると。

渡辺 要するに、泉寮にいる利用者の人たちは、それくらい他害行為が激しい人たちだと捉えていいんでしょうか。

市川 ところが、情報提供してくれた職員によると、泉寮の他にも強度行動障害の寮はあるし、行動障害がけっこう激しい人がいるのですが、必ずしも泉寮のように閉じ込めているわけではないと。

渡辺 強度行動障害には判定基準があるはずですが、どういう方が泉寮に入るのか、明確な基準があるわけではない?

市川 例えば、職員に飛び掛かってくるとか、暴れるから仕方ないんだとか、泉寮の職員は思っているかもしれませんが、じゃあ本当に仕方ないかどうかを検証しているわけではない。とにかく泉寮は他の寮の職員に実態を見せない。まず泉寮に入れないし、入っても居室閉じ込めだし、利用者の障害がどの程度なのか、実際に見ているのは泉寮の職員だけということです。

渡辺 要するに、同じ施設内でも「泉寮はおかしいんじゃないか」という雰囲気があるということですか。

市川 そのようです。秘密主義のような感じですね。

施設内でも疑問視される「泉寮」の秘密主義

渡辺 市川さんの記事には「長時間の施錠が10年以上続いている人も数人いる」とありますが、泉寮でそうした支援が常態化したのはいつ頃なんでしょう。

市川 いつ何をきっかけにそうなったかはまだ取材できていませんが、泉寮は中井やまゆり園でも独特の存在で、他の寮はカギが共通で職員が行き来できるのですが、泉寮だけはカギが違っていて、他寮の職員が容易には入れないそうです。

 泉寮では、行動障害が特に強度な人たちを見ているから、「俺たちは特別だ」というエリート意識があって、泉寮での勤務を経験した職員が、県の本庁に異動した後、再び課長とか部長という肩書で中井に戻って来るそうです。現在の生活支援部長も、かつて泉寮の職員だった人ですから、なおさら以前のやり方を変えようとはしなかったという話でした。

渡辺 親御さんは入れるんですか?

市川 いや、親御さんも泉寮には入れないみたいです。そもそも、施設全体として普段の支援の状況や入所者の生活について、親御さんに詳しくは伝えないという話ですから。自分の子が20時間以上施錠されているという明確な認識を持っているかどうかも怪しいんじゃないかと、職員の方々は言っています。

渡辺 さて、Tさんは、津久井やまゆり園と愛名やまゆり園を運営する「かながわ共同会」の職員として15年以上のキャリアがあります。『創』8月号で語ってくれたことも補足しながら話しますが、植松死刑囚が津久井やまゆり園在職中に勤務していた「のぞみホーム」も独特の雰囲気のあるホーム(寮)でしたよね。

 例えば、「利用者なんて死ねばいい」と公言する職員がいたり、「おい、こら、てめえ」と命令口調で話す職員がいたり。Tさんは、植松が「のぞみホーム」で、ああいう考え方に取りつかれたのには理由があるとおっしゃっていました。

T そうですね。でも、市川さんのお話を聞いた感じだと、津久井では行動障害の最も激しい人たちが入所していた「みのりホーム」という寮が、そういう感じでした。他のホームの職員が入れないわけではないのですが、表立って入るのは控えてほしいという雰囲気があって、中でいったい何が行われているかなんて、全然わからなかったですからね。

愛名やまゆり園の居室内部(『創』12月号掲載の内部告発映像)
愛名やまゆり園の居室内部(『創』12月号掲載の内部告発映像)

渡辺 「みのりホーム」は、私が取材した平野和己さんと吉田壱成さんという利用者がいた寮なので、親御さんからいろんな話を聞いています。特に事件後(芹が谷園舎に仮移転後は「6寮」という名称に)は、「知らない人が入ると乱れる利用者が多い」という理由から、親の立ち入りも一切禁止だったそうです。

 あるいは、週末に平野和己さんの両親が和己さんを外出させるために迎えに行くと、衣類も含めて和己さんの全身におしっこのニオイが染みついていて、ホーム長に理由を尋ねても、「さあ?」と明確な理由は聞けなかったという話です。吉田壱成さんにいたっては、2018年に原因不明の骨折をして、お母さんは虐待を疑ったのですが、園からは否定されて、今でもうやむやになったままです。

T 僕が泉寮のお話を聞いて一番引っかかるのは、何の検証もしていないという点ですね。しかも、それが県立直営の施設であることに、すごい違和感を感じます。県は、かながわ共同会に対して虐待は良くない、施錠や身体拘束は減らすべきだと、あれだけ言っていたにもかかわらず、県の直営施設で20時間以上の拘束があったというのは、本末転倒だし、じゃあこれまでいったい県は何をやっていたのかと聞きたくなりますよね。

そもそも「強度行動障害」とは 不適切な支援が障害を招く

渡辺 そもそも「強度行動障害」とは何かというと、自分の顔を叩くなどの激しい自傷行為や、物を壊して大暴れするなどの他害行為やパニックが頻繁に起こる状態をいい、主に自閉症の人たちに起こりやすい現象だとされています。

 ただし大切なのは、彼らは生まれつき行動障害だったのではなく、その背景には特有の音や光、触覚などの感覚過敏があって、その不安感や不快感を周囲に伝えられないストレスが積み重なって起こると考えられていることです。これは強度行動障害の支援者養成研修のテキストの最初に必ず書かれていることです。

市川 私に情報提供してくださった職員の方々がおっしゃるのも、まさにそのことです。強度行動障害といっているけれども、それは不適切な環境に置かれているからひどくなるのであって、暴れるからといって、ただ拘束したり閉じ込めたりするだけでは何も解決しないと。

渡辺 その証拠に、津久井やまゆり園では「大暴れして手がつけられない」と判断されていた平野和己さんや吉田壱成さんが、横浜市内の別の施設に移ったところ、まったく見違えるように変化してしまったことです。私は、それをこの目で見ているのではっきり言えますが、障害を重くするのも軽くするのも支援しだいという事実が、強度行動障害ほど如実にわかる例はなかなかありません。和己さんも壱成さんも、今いる施設のリサイクルセンターなどで朝からフルタイムで働いていて、本当に驚いてしまいます。

津久井やまゆり園から他の施設に移った平野和己さん(渡辺一史さん撮影)
津久井やまゆり園から他の施設に移った平野和己さん(渡辺一史さん撮影)

市川 中井の泉寮にいるのは20代、30代の利用者なのですが、ここで10年、20年と過ごすと、当然部屋に閉じ込められるわけですから、徐々に筋力や体力が低下していく。そして、40~50代で車いすが必要になると、もう暴れる力がないということで、他寮に移されて高齢になって亡くなっていくと。つまり、泉寮で弱っていくのを待っている。私はそれを聞いてすごくおぞましいなと思いました。

 それと、泉寮の利用者の行動記録を見たのですが、渡辺さんがおっしゃるように、とても人を見ているような記録ではなく、まるで動物の観察記録のような書き方なんです。気持ち悪いというか、ザラッとした不快感を覚えました。

渡辺 どんな記録なのか、支障のない範囲で紹介していただけますか。

市川 例えばですね、「粗暴あり。メガネ破壊」とか「夕方はリラックスした声を上げていた」「トビラ叩きがあり、職員が聞き取りを実施」「その後、落ち着いて、おやつを受け入れる」とかですね。

T 職員が関わると、ひどい状況になるから、ただ放置して落ち着くのを待つという感じですよね。「リラックスした声を上げていた」というのも、なぜリラックスしているのか、どんな声を上げているのかも考察していないし、およそ支援らしいことは何もしていないですね。

渡辺 市川さんは、先ほどの記事の翌日に、続報としてこんな記事も配信しています。2年前の出来事ですが、利用者が鎖骨を折るケガをした際に、職員が「邪魔だ、どけ」と洗濯物などを運ぶカートを強くぶつけた疑いがあったにもかかわらず、園では「他の入所者が踏んだことが原因」と事故扱いで処理したことが職員の証言で発覚したという記事です。

 これも以前、Tさんが津久井やまゆり園時代に体験したことと似ていますよね。あるとき、自閉症で反復性行動のある利用者に対して、職員がヒンズースクワットを強要して面白がっていたところ、利用者が逃げようとして転倒してケガをしてしまった。ところが、「利用者が突然動き出してケガをした」と後輩職員に口裏合わせをして、虚偽の報告書を作成したという話がありましたよね。

T 施設内には、もう表に出ないことが山ほどあります。例えば、利用者さんがケガをしたとしても、ひと月で治るケガはケガじゃない。どうしてかというと、月1回家族会が開かれて、そのとき家族が来るので、それまでに治るなら報告する必要はないという感じなんです。

職員には「通報義務」が…情報の隠ぺいこそ法律違反

渡辺 市川さんに情報提供した職員の方々は、今どんな状況にありますか。

市川 園内で「犯人探し」というわけではありませんが、「内部文書を表に出すのは機密漏洩だ」とか「誰がやったんだ、あいつじゃないか」とか、そんな憶測が飛び交っているようで、とても不安だし、神経質になっていますよね。

渡辺 Tさんも同じ立場に置かれた経験者として、市川さんに情報提供をした方々に言いたいことはありますか。

T まずはよくやったと。よくぞやってくれたと真っ先に言いたいですね。あなた方がしたことは、法律的にも道徳的にも正しいことだと伝えたいですね。

渡辺 私が施設職員と話していて痛感するのは、「障害者虐待防止法」の条文がまったく知られていないことです。この法律では、施設職員には通報が義務づけられているんです。条文はこうです。

《虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報しなけれは゛ならない》(第16条1項)

 つまり、「この利用者は虐待されているんじゃないか」と疑いを持った時点で、施設職員には通報する「義務」がある。通報しないことこそ、むしろ法律違反だということですね(罰則規定はない)。ここが大きく誤解されている点です。

 さらに、通報者は虐待の証拠をつかむ必要もなければ、たとえ間違いだと後でわかった場合も、《通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない》(同条4項)と定められています。虐待を証明する義務は、通報者ではなく、通報を受けた自治体にあるんです。これをぜひ知ってほしいですね。

T でも、市川さんに情報提供した方々は、私と違って複数人いるわけでしょう。仲間がいるのは、すごいアドバンテージですよ。私は一人だったから悶々と悩みましたし、新聞社やテレビ局に話を持ちかけても、一人の証言だけでは記事にできないといわれて、なかなか報道してもらえませんでした。だから、なおさらつらかったです。一人だと確かに「世迷い言」と疑われても仕方がないかもしれませんが、2人以上いれば、これはもう事実なんだと胸を張れますからね。

渡辺 かながわ共同会では、内部告発者を「懲戒処分」にするという文書を、当時の草光理事長名で出して問題になった経緯もあります。内容はこうです。

《職員が事実とは異なる情報を外部に通報し許可なく園内の写真を提供したのであれば懲戒処分の対象にもなりうる》

 でも、これが発覚した時点で、黒岩祐治知事や県から厳重注意を受けて、草光理事長はあっけなく謝罪しました。文書の中には一応、《事実とは異なる情報》とありますけど、先ほど言ったように、仮に事実と異なっていたことが調査の結果わかった場合でも、通報者は保護されるんです。ましてや、《懲戒処分の対象》とは、無知にもほどがあります。

T とにかく、職場ではいろんな同調圧力が働いて、まわりもすぐ「そんなことない」って言ってきたりしますが、外の世界に出てみたら、それはあっけなく崩れるんですよ、世界は思ったより広いです。自分が常識だと思っていたことが、世間一般から見れば全然常識ではない。だから、世の中の価値観に照らし合わせるためにも、まずは表に出すことです。

市川 情報提供した方々は、周囲からいろいろ言われて不安も感じているようですが、みなさん、自分のやったことは正しいと自信を持っていると思います。

渡辺 声を上げないと何も変わらないというのが、これまで日本の福祉を貫いてきた厳然たる歴史でもあります。誰かが、批判覚悟で必死に声を上げることで、初めて何かが変わる。だから周囲の批判には絶対負けないでほしいですね。

T 結局、こんな支援を続けていると、利用者がかわいそうなだけでなく、職員だって心を病んでいくんですよ。こんな仕事にやりがいを感じられるはずがないし、みんな心のどこかで「おかしいんじゃないか」と思ってるはずです。

神奈川県の取り組みと実態解明へ向けた動き

 記事の最後に渡辺さんが「おわりに」と題して、神奈川県の取り組みが今どうなっているか解説している。その部分も引用しておこう。

《神奈川県は、9月27日、中井やまゆり園の「支援改革プロジェクトチーム」を発足させたと記者発表を行った。

 メンバーには昨年来、県の「利用者目線の支援推進検討部会」の委員を務め、障害者の権利擁護に関する第一人者である弁護士の佐藤彰一氏(國學院大教授)や、強度行動障害の支援に実績のある社会福祉法人同愛会の大川貴志氏、汐見台病院医師の野崎秀次氏など、きわめて信頼のおける委員の顔ぶれがそろったことを、まずは評価したい。また、10月5日には黒岩知事が中井やまゆり園を視察、あらためて改革プロジェクトの推進に全力を挙げるとの意思を表明した。

 かたや、津久井と愛名の両やまゆり園を運営する「かながわ共同会」は、いまだ事件の本質に向き合おうとしていない。

 というのも、今年7月20日、事件から5年目の追悼式(県・市・共同会主催)の記者会見において、新たに理事長に就任した山下康氏はこう発言したのだ。

「法人としては、植松死刑囚が職場というか、仕事の中でこういう思想をつくり上げてきたという考え方には立っていません。彼本来のパーソナリティ障害からくるものだと、私は理解しております」

 この言葉は、その直前に黒岩知事が記者会見で語った「虐待といわれても仕方ない支援もあったのは間違いなかった(略)。利用者の安全のために、車いすに縛りつけておく、部屋に閉じ込めておく。これは変えなければいけない」という言葉を無視した発言とも取れる。

 さらには、昨年3月の横浜地方裁判所での判決文に明記された次の一文──《被告人の重度障害者に関する考えは、被告人自身の本件施設での勤務経験を基礎とし、関心を持った世界情勢に関する話題を踏まえて生じたもの》を完全否定した発言とも取れる。

 かながわ共同会は、この頑なな姿勢をいつまで続けるつもりなのか。今後も津久井やまゆり園を含めた施設のあり方をしっかりと注視していく必要がある。》

月刊『創』12月号の内容は下記をご覧いただきたい。

http://www.tsukuru.co.jp/

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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