【世界史】トランプの王様は実在の人物?モデルとなっている4人の偉大な英雄とは
ババぬき、大富豪、神経衰弱、ポーカー。遊びから、本物のお金を賭けるラスベガスのカジノまで、世界中で親しまれているトランプ。
その絵柄やマークは一部の例外もありますが、スタンダードとなるデザインは多くの方が、頭に思い浮かべられるのではないでしょうか。
その中でもJ、Q、Kは絵札となっているのが特徴的ですが、ここに描かれている人物には、じつはモデルが存在していると言われています。
それは世界史にも登場する英雄なのですが、いったい誰なのでしょうか。この記事ではキングの札にフォーカスして、4人の人物をご紹介したいと思います。
スペードのキング=ダビデ王
旧約聖書にも登場する、古代イスラエルを統一したダビデ王がモデルと言われます。絵札の中では唯一、右を向いているのが特徴です。
まだキリストも誕生していない、はるか昔。イスラエルに存在した王国が、ペリシテ人(古代パレスチナに居住していたと伝わる民族)と激しく戦っていました。
ある戦いの最中、ペリシテ軍からゴリアテという巨躯の戦士が現れ、一騎打ちを申し出てこう言いました。「もしお前たちの中でオレに勝てる者がいたならば、我々はお前たちに従おう。ただし誰も勝てなければ、お前たちがペリシテに従うのだ」
それに応じて何人もの戦士が挑みますが、誰一人として叶わず、イスラエル王国軍は震えあがりました。そうした中、王国軍に食料を届けに来たダビデという羊飼いの若者が「私がゴリアテを倒して見せます」と宣言。
イスラエルのサウル王は、彼に戦うための剣や鎧を与えようとしますが「私は戦士の武具には、慣れていませんので」と言い、軽装で一騎打ちへ。武器も羊飼いの杖や、川でひろった石だったにも関わらず、見事にゴリアテを討ち取りました。
戦いはイスラエル王国の大勝利となり、ダビデは英雄として称えられますが、人気が高まりすぎ、やがてサウル王はダビデを危険視することに。ついには命を狙われてしまいますが、これを回避して王国を脱出しました。
そうこうするうちペリシテ人が反撃の挙兵を行い、サウル王はこれに敗北して戦死。一方ダビデは神託を受け、それに付き従う人々とともにイスラエルの王になるという、波乱万丈のストーリーが語り継がれています。
クラブのキング=アレキサンダー大王
もともと古代ギリシャの一勢力“マケドニア”の王で、西はエジプト、東はインドに至る巨大な版図を築き、世界史の中でも指折りの英雄とみなされることが多い人物です。10代の頃から哲学者として有名なアリストテレスにより、英才教育を受けていました。
この時代のギリシャは、ひとつの勢力が統一していたわけではなく、群雄割拠の状態でした。そうした中、ギリシャの覇権をかけた“カイロネイアの戦い”が起こりますが、王子時代の彼は軍勢を率いて出撃。初陣にも関わらず騎兵で敵をかく乱させ、勝利に大きく貢献しました。
こうしてギリシャの覇権を握ったマケドニアですが、父王が暗殺されてしまい、彼は20才の若さで王位に。ここから、アレキサンダー大王の伝説が始まります。
当時、ギリシャ軍の主力は盾と槍を持ち、正方形に隊列を組んだファランクスと呼ばれる重装歩兵でした。アレキサンダー大王はこの部隊に、サリッサと呼ばれる長槍の装備を採用。これにより、彼の軍団は敵の歩兵を圧倒したと言います。
また彼は、けた違いの権力者となったあとも、戦いの時にはしばしば前線におもむき、兵士とコミュニケーションを取っていたと言います。演説も上手く、鼓舞された兵士は高い戦闘力を発揮。リーダーとして、たいへん優れた人物であったと伝わっています。
ダイヤのキング=ユリウス・カエサル
世界史に冠たるローマ帝国の基礎を作った人物で、英語読みの“ジュリアス・シーザー”の呼び名でも有名な人物です。彼自身は皇帝にはなりませんでしたが、その偉大さから後世“カエサル”という言葉自体が、皇帝を指すワードとして使われるようになった程です。
トランプにおけるキングの絵札では、ゆいいつ顔が真横を向いています。その理由としては、古代ローマのコインにはカエサルの姿が刻印されていたものがあり、「それが横を向いていたから」といった説があります。
歴史を見渡せば、いろいろな国で様々な皇帝が登場しますが、とくに名言の多い人物として知られています。代表的なものとして、以下の様な言葉があります。
「賽は投げられた」
古代ローマはもともと帝国ではなく、元老院が統治する共和制の国でしたが、カエサルはその権力に反発して、対立関係となります。当時イタリアの北部に流れていたルビコン川(※現ルビコーネ川)は絶対防衛線とみなされ、ここを軍を率いて渡ることは固く禁止されていました。
しかしカエサルは上記の言葉と共に、これを実行したと言われます。もう後戻りは出来ない一線を超えるという意味合いで、現在では“ルビコン川を渡る”という表現も存在します。
「ブルータス、お前もか」
歴史に名を遺す偉業を成したカエサルですが、最後は謀反にあって暗殺されてしまいました。命を取ろうとやってきた暗殺者の中には、信頼していた腹心のブルータスという人物もいたと言います。
その姿を目にしたカエサルは落胆、あるいはショックを受け「まさか、お前までもが」といった心境で、この言葉を放ったと伝わります。
ハートのキング=カール大帝(シャルルマーニュ)
かつてローマ帝国の中でも、西側の地域を支配する通称“西ローマ帝国”が存在していましたが、さまざまな要因により滅亡してしまいます。その跡地にフランク王国という勢力が誕生し、何百年もの統治を誇ることになりました。
その国王の1人であり、最盛期を築いたと言われるのがカール大帝です。多数の民族を統一した“ヨーロッパの父”、あるいはドイツとフランスの基礎を築いた人物と言われることもあります。
周辺勢力との戦いにも次々と勝利し、東側は現在のクロアチアやハンガリーにも及ぶ、広大な領土を築きました。のちにローマ教皇から認められ、ローマ帝国の皇帝としての称号も授かっており、王であり皇帝とも呼べる人物です。
カール大帝亡きあと、フランク王国は西フランク王国・東フランク王国・中部フランク王国という、3つの国に分裂します。このうち西フランク王国はのちのフランス、東フランク王国はドイツの基礎になったと言われています。
ちなみに彼がモデルとなっているハートのキングは、4つのマークのうちで唯一“口ひげ”がありません。ただ言い伝えによれば、もともとのデザインに、口ひげは存在したと言います。
かつてのトランプは今と違い版画で刷られていましたが、消えた理由としては木彫り職人が手を滑らせ、ひげをそり落としてしまったという説があります。
締め切りに追われていたのか、あるいは作り直すのが面倒くさかったのか。理由は定かではありませんが、そのまま提出。そして、このデザインがハートのキングとして定着したと言われます。
絵札に秘められた英雄たち
以上、キング札のモデルとされている4人の人物について、ご紹介させていただきました。実際にゲームをプレイしている時には「この王様は誰だろう」と意識する人は、ほとんどいないかも知れません。
しかし、その由来を調べて行くと面白く、あらためて歴史に親しむきっかけにもなります。実在の人物が札になっている遊びと言えば、日本にも百人一首などがありますが、いずれも何百・何千年の時を超えて親しまれていることを考えると、どこか感慨深い思いになります。