【世界史】フィクションも顔負けな夢と冒険の人生!幼少からトロイ王国を目指し続けたドイツ人の生涯
※この記事ではギリシャ神話“トロイ戦争”と、その王国が実在したことの証明に、人生をささげた人物の歴史をご紹介しており、こちらはその後編となっています。
トロイ発掘の夢に向け、ほぼ全財産を投入して物資を購入。一世一代の大博打でリトアニアの港へ輸送したシュリーマンでしたが、そのタイミングで大火災が発生。彼は物資だけでなく、夢に至る道も焼き尽くされたような絶望感に、襲われてしまいました。
しかし、そのタイミングでとつぜん、港の責任者から声をかけられます。「すみません、あなたがシュリーマンさんですね。あなたの手配した船の積み荷ですが」。
「ああ、わかっているよ。燃えてしまったんだろう」。「いやいや、それが。船から下ろしたときには、港の倉庫がいっぱいでして。急遽、別の倉庫へ移送せてもらったんですよ」。
「ええ、それでは、まさか!」。「あなたは本当に運がいい。すべて無事に保管してありますよ」。まっ暗闇から一転、思ってもみない僥倖にシュリーマンは救われました。その感動は言葉にならないほどで「おお、神よ」と彼は叫びました。
大富豪への道と江戸旅行
かくしてクリミア戦争で高騰した物資を、独自ルートでサンクトペテルブルグへと運び、売ることに成功したシュリーマン。すべてを投じた賭けに成功し、巨万の富を得ることができたのです。
その後も様々な事業を継続しましたが、ついには仕事をリタイアしてなお、あり余る財産がある状況を、作りあげることができました。とうとう夢の実現へ繋がる列車へ、その切符を手にしたシュリーマンですが、今まで仕事で精一杯だった彼は、まだ見ぬ広い世界を見て回りたいと考えました。
そこで彼はヨーロッパを出て、世界旅行へ出発します。アフリカ、インド、東南アジア・・そして1865年には、その足で幕末の日本へもやってきました。「おお、これはなんと不思議な光景だ」。
髷を結い、刀をさして歩くサムライたち。徳川将軍家の大名行列。そして浮世絵から庶民の暮らしまで、それはもう今まで見たどの国にも増して、独特の文化に驚愕しました。
こうした貴重な記録を彼は書き残し、やがて“シュリーマン旅行記”として、ヨーロッパで出版したのです。
救いの女神ソフィア
さて、このように世界旅行も終えた彼は、いよいよ幼少からの夢、トロイ発掘へ全力を投入する時が来ました。そのためには調査・発掘隊の結成はもちろん、土地の採掘権をめぐる交渉など、とてつもない準備や勉強が必要となりました。
彼は寝る間も惜しんで没頭しますが、そのあまり3人の子供もいる家庭を顧みなくなり、妻とは不仲になってしまいました。さらには発掘のため、ギリシャに移り住もうと妻に提案するも、拒否されてしまいます。
ついには、お互いの意志が合わず離婚することになってしまいました。しかしトロイ発掘の準備は着々と進み、念願としていたギリシャ地方へ、足を踏み入れるときがやってきたのです。
エーゲ海を渡り、そこでシュリーマンは過去への未練を断ち切るかのごとく、日々作業に没頭しました。しかし、目星をつけた場所をどれだけ堀り進めようと、遺跡はおろか、手がかり一つ出てきませんでした。
「そんな。ここまできて、もしトロイが空想の存在だったとしたら、私の人生は一体」。不安や焦りの気持ちが一気に襲いますが、しかしここでシュリーマンに救いの女神ともいうべき存在が現れます。
ギリシャ人の少女、ソフィア。彼女も故郷の叙事詩に深い知識や好奇心を持ち、協力者として大きなヒントを与えてくれました。それは、シュリーマンが発掘している場所は、海から離れ過ぎていたことです。
神話ではトロイの城壁に上った兵隊が、ギリシャ軍の大船団を見て驚愕する場面がありました。ここは、より物語に即した場所に焦点を当てようという結論となり、再び調査へ歩み出したシュリーマン。その傍らには、いつもソフィアの姿がありました。
幼少からの夢へと至る道
「今日は世間へ発表する論文の執筆に、掛かりきりになってしまう。発掘の作業の方を頼めるか?」「ええ。こっちの方は任せてもらって大丈夫よ」。
シュリーマンにとってソフィアは、いつのまにか物理的にも精神的にも、大きな支えとなっていました。そうして同じ目的に向かう中、いつしか2人は惹かれ合い、ついには本当のパートナーになりました。
このときシュリーマン48才。ソフィアは17才と、今の価値観ではかなりの年の差婚でもありますが、まさにギリシャ神話への夢が、めぐり合わせた結婚でした。
これ以上ない追い風を得たシュリーマンでしたが、発掘している場所は人の住まない、未開の原野に等しい土地でした。予想外のハプニングも、あとを絶ちません。毒ヘビや毒グモ、サソリなども近辺には生息しており、作業の途中や寝泊りする仮小屋に、ガサガサと湧いて悲鳴をあげることもありました。
また冬は凍てつくような寒さにさらされ、夏は焼けつくような熱風がふきつけ、作業員が倒れて中断することもありました。さらには土地発掘の権利を巡り、トルコ政府と揉める等、数々の試練が2人に襲いかかります。
それでも諦めず、発掘の作業をすすめていたある日・・。ガキン!と地中に何かの物体が。それは明らかに自然の創造物ではなく、大理石でできた彫刻でした。
さらに周囲を発掘していくと、建物や門の跡も。そして決定的だったのは、焼けた土や城壁の遺跡まで出た事です。まさに炎に包まれて滅んだという神話とも、一致します。
そして遺跡の中からは、見るからに立派なツボも出てきました。シュリーマンはソフィアも呼び、2人で中を取り出してみると、黄金の腕輪や耳飾りなど、輝く宝物が入っていたのです。
「なんと美しい、トロイの貴族が身に着けていたのだろうか。もしかすると王国が滅びる直前、隠したのかも知れないな」。彼はその中でも、ひときわ輝く額飾りを取り上げ、ソフィアの頭に当てがって言いました。
「よく似合っている、神話の王妃ヘレネにも負けない美しさだ。ここまで人生、色々あったが、君と出会えたからこそ夢が叶えられた。ありがとう」。
現実に起こった夢と冒険の人生
『トロイ王国とは架空の存在ではなく、古代に実在していた。』このニュースは世界中をかけめぐり、驚きをもって人々に受け止められました。
シュリーマン夫妻は、それからも発掘を進めたり、各地の学会に招かれてスピーチをしたりと、忙しく過ごしていました。それらがひと段落すると、やがてギリシャにトロイ王国に存在していた建物に似せた家を作り、子どもも生まれ、家族みんなで暮らして行きました。
よくおとぎ話のエンディングで「2人は仲良く、幸せに暮らしました」という表現がありますが、シュリーマンとソフィアほど、この言葉が似つかわしい人物はいないように思えてしまいます。
そして大人になっても夢や冒険心を忘れない大切さを、おとぎ話でなく本当の人生をもって、現代の私たちに教えてくれます。
・・ちなみに古代史や神話をふりかえる時、私たちの日本も女王ヒミコや古事記の言い伝えなど、まだまだ謎に包まれている記録が、いくつも存在しています。
いつか、それらの真実を見つけ出すのは、もちろん科学技術や専門家のチカラも大きいに違いありませんが、意外にも誰かの突きぬけた好奇心こそが、その突破口になる可能性もあります。
歴史はすでに判明している事実も面白いものですが、新たに謎を追い求めて行く視点においても、ぜひ楽しんで行きたいものですね。