Yahoo!ニュース

『仮面ライダーリバイス』で悪の女王から贖罪のために変身。アギレラ役の浅倉唯が自身と重ねた心情とは?

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜

『仮面ライターリバイス』で女優デビューして、悪の女王・アギレラを演じた浅倉唯。冷酷でありながらお茶目という独自のキャラクターを生み出し、図抜けた美貌とも相まって注目された。波瀾万丈のストーリーの中、今は仮面ライダーに変身して人類のために戦う存在に。無力感からの覚悟には、自身と重なるところもあったという。

女王様役なら自分と真逆と思ってました

――『仮面ライダーリバイス』ではデッドマンズの女王・アギレラから、ギフに見捨てられて居場所をなくし、悪魔と分離した人間の夏木花に……と立ち位置が変遷していますが、最初から大まかな展開は聞いていたんですか?

浅倉 洗脳されて担ぎ上げられた女王だとは聞いていて、デッドマンズがバラバラになることも知っていました。でも、自分の居場所が見つかって1人の人間として生きることになり、さらに仮面ライダーに変身するなんて全然知らなかったです。視聴者の方と同じように、展開を聞いて驚くことが多いですね。

――当初のアギレラは、悪の女王でありつつお茶目なところも見せて、独特なキャラクターでした。試行錯誤をして作り上げたんですか?

浅倉 オーディションに受かって悪の女王役と聞いたときは「私にできるのかな?」と思いました。気の強い女王様みたいなイメージは、私自身とは真逆なくらい、かけ離れていたので。でも、台本を読んでみたら想像していた女王様とは違って、子どもっぽさがあったり、小悪魔ぶりを見せたり。新しいキャラクターだなと思いました。

――浅倉さん的には演じやすかったと?

浅倉 そうですね。あとで裏話として聞いたのは、アギレラはもともとTHE女王様みたいなキャラクターになる予定だったのを、プロデューサーさんが私に演じさせたいということで、お茶目にしたらしくて。嬉しいなと思います。

――アギレラの台詞にあった「ぴえん」とか「激おこ」は、浅倉さんも普段言うことはあります(笑)?

浅倉 そういうノリはないですね。「ぴえん」は撮影で初めて言いました(笑)。

何もできない無力さに共感しました

――ギフに見捨てられてからのアギレラについては、キャストブログで「みているのは辛かった」とありました。その分、役には入りやすかったり?

浅倉 アギレラにとってはギフ様の存在が生きる意味だったので、それを失った自分には何もないと感じていて。客観的に見て、すごくかわいそうだと思いましたし、感情移入はしやすかったですね。

――幼い頃からデッドマンズにいたアギレラは、実体験と重なる部分はないでしょうけど、気持ちはわかるところもあると。

浅倉 同じ境遇はもちろん体験していませんけど、悔しさや自分が何もできない無力さには共感できるところがありました。「自分は空っぽだな」と思うことは、私も生きている中であったので。

――今のような売れっ子になる前の話ですか?

浅倉 いやいや、今も全然そんなことはないですけど、『仮面ライダーリバイス』のオーディションに受かる前の自分には、アギレラと感情的に共通するところもありました。

――「居場所がない」という感覚もわかりました?

浅倉 アギレラにはデッドマンズが自分の居場所で、家族みたいな存在だったので、それがなくなってしまうのは私には考えられません。落ち込むことがあっても、家族や友人という居場所があるから、打ち明けたりもできますけど、アギレラにはそれができなくて。孤独感と1人ですべてを抱えて生きていく覚悟は、相当なものだろうなと想像しました。

境遇や心情や行動はしっかり考えておきます

――キャストブログには、アギレラの「自分にないものを全てもっていた」さくらへの想いや、夏木花が仮面ライダーアギレラを名乗る覚悟などについて、詳しく書かれています。役の感情は深く掘り下げているんですか?

浅倉 すごく考えますね。撮影しているときに感じることも大事ですけど、その前提として「どういう境遇から、どういう気持ちになって、どういう行動を取るのか」としっかり知っておかないと、私の場合はダメだと思うので。

――アギレラがさくらとの最期の戦いから、人間に分離する32・33話は感動的でした。あの撮影の前にはどんなことを考えました?

浅倉 あのさくら・アギレラ回は私にとっても、忘れられないくらい印象深いです。悪魔から分離されることは台本を読んでわかってはいても、「これは本当にアギレラの最期だ」という気持ちで撮影に挑みました。

――一輝=仮面ライダーリバイによって分離されるのではなく、さくらに倒されることをアギレラは望んでいて。

浅倉 なかなか難しいところで、アギレラ自身が倒されることを望んではいても、どこかに恐怖心があって。強がりながら、そういう感情も忘れないようにしました。

スッと役の気持ちになって涙はすぐ出ます

――分離したあと、「私には居場所がない」と泣きじゃくるシーンもありました。5話で怒ったときは「すごく大変でした」とのことですが、泣くのはどうでした?

浅倉 私は結構泣けるタイプです。スッと気持ちが入るので、悲しい出来事を考えたりしなくても、役の感情ですぐ涙が出ます。あのシーンは台本では「子どものように泣くアギレラ」となっていて。心から信頼し切った相手だからこそ、見せられる姿だと思って、深く考えることもなく、さくらちゃんに抱き締められたら、自然と泣いていました。

――それは本番前のテストから?

浅倉 毎回涙が出ました。だから、メイクさんを困らせてしまいました(笑)。

――普段も泣くことは多いほうですか?

浅倉 感情が動くと、すぐ涙が出るタイプです。悲しいときだけでなく、嬉しいとかいろいろな感情が涙になって現れる。そんな身体能力があります(笑)。

――女優向きの体質ですかね。

浅倉 確かに、いいことかもしれません(笑)。

――でも、怒るのは難しかったんですね。

浅倉 はい。他人に怒るという経験が、自分の人生ではなかったので、その感情を出すのは大変でした。だからと言って、普段も怒ろうとは思いませんけど(笑)。でも、アギレラは気が強くてプライドも高いので、演じ続けているうちに怒ることにも慣れて(笑)。昔よりはナチュラルに怒りを出せるようになりました。

変身ポーズはその場の感情任せで

――さくらから戦う前に「私と遊んで」と言われて、一緒に遊園地に行ったシーンや、次の回の2人でショッピングしたシーンは、普通に楽しめました?

浅倉 楽しかったですね。遊園地ではさくら役の井本彩花さんと普通に遊んでいて、ショッピングも2人で「アイスおいしいね」と言ったりしながら、撮影していました。

――でも、浅倉さんはジェットコースター系は苦手だとか。

浅倉 そうなんです。遊園地のシーンも本当はジェットコースターで撮影する予定だったんですけど、「私はちょっと……」と言っていたら、やさしめの乗り物に変わっていました(笑)。

――仮面ライダーアギレラへの変身は颯爽としていました。

浅倉 実は本編より前に、スピンオフの(配信ドラマ)『仮面ライダージャンヌ&仮面ライダーアギレラ (withガールズリミックス)』で初めて変身したんです。その初変身では緊張して、自分で観るとぎこちないですけど、本編での初変身は少し慣れた状態だったので、落ち着いてできました。

――変身ポーズの練習もしつつ?

浅倉 最初はスーツアクターさんといろいろ話し合いました。アギレラの変身ポーズって意外とシンプルな動きなので、あとはその場の感情に任せています。

――仮面ライダーアギレラ、強いですよね。

浅倉 初登場では「かかっておいで」と、ベイルをコテンパンにしてましたからね(笑)。

理想と現実の違いに向き合う覚悟はあります

――初変身のとき、花は「これが私の覚悟よ」と言ってました。

浅倉 夏木花になってウィークエンドに入ったものの、変身できなくなった自分は戦えない。無力さを感じて、心の中で葛藤があったと思います。そしたら代表の真澄さんが、まさかのドライバーを作ってくれていて。「アギレラであったことを恥じる必要はない」と背中を押されて、花の小さな覚悟が大きくなったんでしょうね。

――そういうふうに何かで覚悟を決めたことも、浅倉さん自身、ありましたか?

浅倉 理想と現実の違いに、お仕事の中で自分の無力さを感じることは、結構あるんです。そんな自分とも一生向き合っていこう、という気持ちはなりますね。

――他にも浅倉さんの中で、印象的だったシーンや回はありますか?

浅倉 さくらちゃんと(銭湯の)しあわせ湯に入ったところですね。もともとアギレラは分離されることを望んでいなくて、自分を倒してほしい一心だったから、あんな未来は想像していなかったと思うんです。でも、もしもそういうことができたら……という未来でもあったので、本当に嬉しいシーンでした。

映画の現場を見て急に「女優になりたい」と

――浅倉さんはこの『仮面ライダーリバイス』がドラマデビューでしたが、女優を目指す原点はどんなことだったんですか?

浅倉 小さい頃から表現することが好きで、昔はアイドルになりたいと思っていて。実際にアイドルになって活動していた中で、ある映画に少しだけ携わらせていただいたんですね。その現場を見て「こういう表現をしてみたい。女優になりたい」と思いました。

――映画を観て、とかではなくて。

浅倉 実際の現場を見て「これだ!」と、ビビッときたというか。言葉で表せないんですけど、新しい自分の目標ができた感じがしました。

――『リバイス』の撮影が始まってから1年くらい経つそうですが、最初は演技で苦労することもありました?

浅倉 女優の仕事について右も左もわからない状態で、緊張もあったのでコチコチになっていました。それから1年近く撮影してきて、今は純粋に表現を楽しめていて。頭でっかちにならず、フラットにお芝居ができるようになったと思います。

――準備の仕方も変わりましたか?

浅倉 最初の頃は「この台詞はここをこう言って」とか、自分の中で細かくプランを立てていたんです。

――「この言葉を強く」とか?

浅倉 そうです。でも、今は台本で花の境遇や心情を読み取ったら、あとは現場での自分の感情に任せるようになりました。

――台詞の言い方を練習するより、背後の心情を重視すると。

浅倉 気持ち優先になりました。

知らないうちにアザができています(笑)

――アクションも最初は苦手意識があったそうですが。

浅倉 今もうまくできているとは言えませんけど、アクションへの順応力は最初の頃より付いたと思います。言われたことには、とりあえず応えるというか。

――どこかが痛くなるとか、アザができるようなことは?

浅倉 アザはしょっちゅうできますね。「またここにできた」という。私、アクションをしてなくても、日常生活でアザは知らないうちに作っているんです(笑)。

――そんなこと、ありますか(笑)?

浅倉 ぶつけた覚えはなくても、アザはあります(笑)。

――変身後の戦うシーンのアフレコは、もともと得意なんでしたっけ?

浅倉 やっぱり難しいです。クィーンビー・デッドマンのときはアギレラの心情も相まって、必死さが前面に出ていました。仮面ライダーアギレラに変身してからは、少し余裕を感じさせるようにしたいというのが、自分の中にあります。

――「ハーッ!」とか掛け声にも、工夫があって?

浅倉 それぞれの仮面ライダーに戦うクセがあるんですよね。アギレラは武器としてクナイを使っていて、動きが俊敏なので、攻撃の手数も多いんです。そこを声でどう表現するか、毎回考えています。

たぶんツンデレなんですよね(笑)

――『劇場版 仮面ライダーリバイス バトルファミリア』では、久しぶりにデッドマンズの3人が揃い踏みします。

浅倉 劇場版でのサプライズという感じですね。

――「アギレラ様」とずっと慕ってきたフリオ=玉置豪のことは、アギレラ=花はどう思っているんですかね?

浅倉 守りたい存在だし、ずっとデッドマンズで一緒に過ごしてきた仲間として、危険な目に遭ってほしくないというのはあると思います。

――アギレラの頃から、塩対応も多いですが(笑)。

浅倉 たぶんツンデレなんですよね(笑)。

――花はウィークエンドに入って、さくらとの関係性もより深まったようで。

浅倉 本編の物語が進むに連れて、さくらとの信頼関係が強まったのは、映画の中で出ています。井本彩花さんとも役とリアルにシンクロして、だんだん仲良くなってきました。

――プライベートでも遊園地に行きたいくらいに?

浅倉 本当にそうです。でも、私はジェットコースターには乗らないので、下から見学しています(笑)。

自分のオリジナルを作りたい気持ちが強いです

――映画は自分でもよく観ますか?

浅倉 女優を目指し始めてから、よく観るようになって。邦画だと『ミッドナイトスワン』が素敵でした。ああいうふうに人に深い印象を残す映画に、いつか自分も出られたらいいなと、ぼんやり思いました。

――『ミッドナイトスワン』では草彅剛さんのトランスジェンダーの役が感動的でしたが、「この人の演技はすごい」と思う女優さんもいますか?

浅倉 女優さんではないですけど、私は中森明菜さんがすごく好きです。1曲1曲の世界観を完璧に作り上げていて、歌い始めた瞬間、もう入り込んでいる。そういう表現の仕方に刺激を受けました。

――中森明菜さんのことはよく挙げられていますが、お母さんの影響で知ったとか?

浅倉 母が昭和歌謡を家で口ずさんでいることが多くて。気になってYouTubeとかで調べて、中森明菜さんを知って、ひと目惚れしました。

――明菜さんの曲の中でも、特に好きなのは?

浅倉 『セカンド・ラブ』ですかね。あの曲は私の中では薄ピンクのイメージで、少女のいじらしさがかわいく出ていると思います。ちょっと切なげな歌い方ともベストマッチで繊細な世界観ができていて、一番のお気に入りです。私もそういうふうに思ってもらえる表現を、演技でできたらいいなと思います。

――直に女優さんで、そういう影響を受けた人はいませんか?

浅倉 刺激を受けることはありますけど、同じ職業だとマネはできませんし、自分のオリジナルを作りたい気持ちのほうがすごく強いです。

――では最後に、クライマックスに入っていく『仮面ライダーリバイス』で、花にどうなってほしいですか?

浅倉 自分の罪を償って、心の中でモヤモヤしたものがなくなって、スッキリしたらいいなと思います。他のキャラクターも苦労してきたので、みんなに幸せになってほしくて。花がさくらちゃんを大好きなのは、変わらないでしょうね(笑)。

撮影/松下茜

Profile

浅倉唯(あさくら・ゆい)

1996年6月8日生まれ、青森県出身。

2021年に『仮面ライダーリバイス』(テレビ朝日系)でドラマデビューして出演中。『ゴッドタン』、『あざとくて何が悪いの?』、『ヒルナンデス!』、映画『仮面ライダー ビヨンド・ジェネレーションズ』などに出演。「グラジャパ!アワード2021」でグランプリ。

『劇場版 仮面ライダーリバイス バトルファミリア』

7月22日より公開

公式HP

(C)劇場版「リバイス・ドンブラザーズ」製作委員会 (C)石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映 (C)テレビ朝日・東映AG・東映
(C)劇場版「リバイス・ドンブラザーズ」製作委員会 (C)石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映 (C)テレビ朝日・東映AG・東映

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

斉藤貴志の最近の記事