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岸田首相こそ国難か? 支持率下落が止まらないまま、臨時国会が始まった!

安積明子政治ジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

「中味もなければ、味もない」

 第210回臨時国会が10月3日に開会した。同日に行われた所信表明演説で、岸田文雄首相は「足下の物価高への対応に全力をもって当たり、日本経済を必ず再生させます」と言明。しかしその評価はなかなか厳しい。

「中味もなければ、味もない」

「官僚が作成した文章をそのまま読んでいる」

 衆議院での所信表明演説が終わった直後、国民民主党の玉木雄一郎代表が「ぶらさがり」の会場である同党の控室に入る際に漏らした言葉は本音だろう。立憲民主党の泉健太代表は「ある意味、支持率低下の説明書と言っていいんじゃないか」と評価。共産党の志位和夫委員長も、「内政外交ともに行き詰まりになっているのを象徴する演説だった」と述べている。

 共通するのは「岸田首相の所信表明演説に中味のないこと」だ。「今、日本は、国難ともいえる状況に直面しています」と岸田首相は述べたが、むしろ岸田政権自身が「国難」といえるのではないのだろうか。

重なる不運

 「貧すれば鈍する」という通り、この日の東京外国為替市場は円安がいっそう進み、1ドル145円40銭まで値下がりした。9月22日には政府・日銀が推計3.6兆円規模の市場介入を行ったが、その効果は10日間で吹き飛んだことになる。またこの日の会見で、山際大志郎経済再生担当大臣は2018年に旧統一教会の会合で最高幹部である韓鶴子総裁と接触したことを公表。山際大臣は「どこかで会った記憶があるが、どこで会ったか覚えていなかったので公開しなかった」と苦しい言い訳をしたが、隠しきれなくなったために国会初日に自白したという印象だ。

経済再生担当兼コロナ対策担当として、岸田政権の柱となるはずが……
経済再生担当兼コロナ対策担当として、岸田政権の柱となるはずが……写真:ロイター/アフロ

 実際に今国会で、野党が第一に狙うのは山際大臣だ。経済再生とコロナ対策を担当する山際大臣はいわば岸田内閣の政策面での表の顔ともいえる存在で、そのクビが獲れるなら、岸田政権に大きなダメージを与えることができるからだ。立憲民主党の岡田克也幹事長が1日に視察先の高知市で「本来なら更迭されるのが普通だ」と述べたのも、岸田首相の任命責任に言及したものといえるだろう。

国葬儀強行で生じたもうひとつの問題

 そればかりではない。女性へのセクハラ疑惑を週刊誌で暴露され、旧統一教会との関係も取りざたされる細田博之衆議院議長もターゲットだ。さらには世論調査で国民の過半数が反対した安倍晋三元首相の国葬儀問題をも野党は追及する予定。国葬儀が終わったからそれで良しとはできないからだ。

国葬儀は日本武道館で行われた
国葬儀は日本武道館で行われた写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 理由は事前に公表された16.6億円を上回りそうな費用ばかりではない。9月末に国葬儀を行うために3か月間、臨時国会が開かれなかったことも、岸田内閣の責任だ。これは会場を日本武道館に拘ったためで、準備期間も含めて3日間抑えるには、9月下旬しか空いていなかったためだった。

 だから今国会でのスケジュールが混乱している。通常なら今週に衆参両院で代表質問を終えた後、週明けの10月11日から予算委員会が開かれるはずだが、鈴木俊一財務大臣がワシントンで12日と13日に開かれるG20 財務大臣・中央銀行総裁会議に出席すれば、1週間延長せざるをえなくなる。さらに11月10日から13日までASEAN関連首脳会議、15日と16日がG20 首脳会議、18日と19日にAPEC首脳会議と、岸田首相の外遊日程が目白押しだ。その間に10月からの物価高に対応すべき大型の第2次補正予算の審議入りを入れ込むことはほぼ困難で、国民の生活は後回しの印象だ。

 なお憲法第63条と国会法第71条に基づき、国会開会中に総理大臣を含む国務大臣の海外出張に制約がある。野党が反対すれば国際会議に出席できないことになりかねないため、外交上の問題が生じると論じられたこともある。だが今回の場合は外交日程はあらかじめわかっていたことで、それにぶつけて臨時国会の日程を決めた責任は、政府にあるとはいえないか。

岸田首相の一人負けか

 視野の狭さはそればかりではない。9月末に閣議決定した3.5兆円の経済対策だが、5万円給付の恩恵にあずかるのは住民税非課税世帯の約1600万世帯で、子育てなどの負担が重い世帯が含まれていないため不平等感が否めない。さらに約9000億円の給付によって個人消費を2250億円押し上げるにすぎず、大きな経済効果をもたらすとはいえないからだ。

 そうした不満が恒常化しているのだろう。内閣支持率の下落が止まらない。2日夜に公表された讀賣新聞と日本テレビの世論調査では、岸田内閣の支持率は前月から5ポイント減の45%で、不支持率は同5ポイント減の6%。同調査で初めて不支持率が支持率を上回った。

 同日に公表された朝日新聞でも、内閣不支持率(40%)は支持率(50%)を上回り、その差は6ポイントから10ポイントに拡大。10月3日に公表されたJNNの世論調査も、内閣支持率は42.7%と2か月連続で50%を割る一方で、不支持率は53.9%と半数以上を占めている。

 安倍元首相の国葬儀についても、讀賣新聞と日本テレビの共同調査では「やって良かったと思う」が41%に対して「思わない」が54%。JNNの調査でも54%が「良くなかった」と答えている。

 ただし同調査による安倍元首相の評価については、肯定派が71%に対して否定派は29%と、圧倒的に肯定派が多かった。このねじれが示すのは、国葬儀を強行した岸田首相に対する批判の強さだろう。

 岸田内閣の支持率が高かったのは、安倍・菅政権が推し進めた新自由主義から漏れた層を包み込むリベラル体質が見えたからだ。今回の所信表明も、「包摂社会の実現」に触れてはいる。しかし内容に具体性がなく、国民の実感が得られにくい。故事や格言を入れなかったのも、結果的にメリハリがない印象を与えてしまっている。

 「聞く力」を誇る岸田首相だが、その前提として、国民の意見を受け止め、実行する意思と能力が必要。決して馬耳東風であってはならない。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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