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開幕2連勝でなでしこリーグ首位快走。伊賀FCくノ一三重のゴールラッシュを支える4年目の成熟と理想

松原渓スポーツジャーナリスト
左から西川明花、作間琴莉、宮迫たまみ

【2試合で9得点、無失点】

 なでしこリーグで、伊賀FCくノ一三重が好調だ。

 3月27日のホーム開幕戦で、コノミヤ・スペランツァ大阪高槻に4-0で勝利。4月4日の第2節では、日体大FIELDS横浜とアウェーのニッパツ三ツ沢球技場で対戦し、5-0で快勝した。無失点の2連勝で、単独首位に立った。

 高い位置からプレッシャーをかけてボールを奪い、ショートカウンターで相手ゴールに襲いかかる。大嶽直人監督体制4年目で、スピード感溢れるアグレッシブなスタイルは成熟度を高めている。2試合でシュート37本と相手を凌駕し、得点ランキングでも、ワントップのFW西川明花が2試合で5得点と、頭ひとつ抜け出した。

 若手選手からベテラン選手まで幅広い年齢層の選手が揃う伊賀に対し、日体大の平均年齢は19.6歳と若い。年代別代表経験者が多く、これまで学生と社会人選手の混合チームだったが、今季はなでしこリーグ参入以来、初めて学生だけのチームになった。大黒柱のFW嶋田千秋が引退し、キャプテンマークは、ストライカーのFW李誠雅(リ・ソンア)が引き継いだ。開幕戦はその李のゴールで勝ち点3を掴んでおり、この試合でも、前半11分にカウンターから李が抜け出してシュートをポストに当てるなど、一進一退の立ち上がりだった。しかし、14分にクロスの折り返しを西川が頭で決めると、このゴールを皮切りに伊賀のゴールラッシュが生まれる。

 伊賀は、左右両サイドの裏のスペースを効果的に使って縦に早い攻撃を仕掛け、23分には1点目と似たような形から西川が再び頭で決めた。さらに、33分には背後に抜け出した FW杉田亜未のアシストで、西川がハットトリックを達成。後半も攻撃の手を緩めず、49分にコーナーキックの流れからFW三橋明香が鋭いシュートを突き刺すと、60分には杉田がペナルティエリア手前から鮮やかなループシュートを決めて5-0。

 ラスト30分は互いに5つの交代枠すべてを使い切って勝負を仕掛けたが、スコアは動かず試合終了。予想以上に差は開いた。

西川明花
西川明花

 大嶽監督は試合後、勝因の一つにセカンドボールの回収率の高さを挙げ、内容面では手応えと課題の両面をこう語った。

「風も強く難しい状況でしたが、サイドから崩して点を取る形もあって、攻撃のバリエーションは増えたと思います。後半は選手のポジションを変えて相手を揺さぶったのですが、狙い通りにボールがうまく収まらず、そこはまだまだ強度を上げていくことが必要です。先に3点を取って(自分たちの)プレッシャーが緩くなりましたが、60分過ぎからも、二段階、三段階のステップで、(プレッシャーをかけに)いけるようにしたいです」

 継ぎ目がないほどスムーズに攻守を切り替える「シームレス」も、大嶽監督が掲げるキーワードの一つだ。相手にボールを奪われれば即時奪回を目指し、理想は、「ファーストディフェンダーが行ってから7秒以内に奪い返すこと」だという。プレミアリーグのリバプールやマンチェスターシティなど、海外の男子サッカーの戦術も参考にしながら、攻守を洗練させてきた。

 2018年になでしこリーグ2部で優勝し、2年目(19年)は1部で4位と躍進し、着実に前進しているように見えたが、昨年は10チーム中9位。守備の時間が長く、自分たちのサッカーをさせてもらえない試合が多かった。

 だからこそ、内容の伴った2連勝にも、満足はしていない。目標は、「さらに5m、10m前で試合を進めること」だと大嶽監督は言う。攻撃時のフォーメーションも、4バックや3バックに加えて「2バック」というキーワードも飛び出した。

「GKがビルドアップに入って、真ん中でもっとうまくリードできるようにしていきたいです。攻撃では3バックで、アンカーとシャドーとサイドバックが流動的に動いて、中盤で数的優位を作りたい狙いがあります。相手にとって嫌なポジションを取り続けたいので、練習ではポジションにこだわらず、一人が2つぐらいのポジションをやりながら、フォーメーションも流動的に変えています」

 そうした狙いがしっかりと表現されれば、伊賀の特長でもあるダイナミックな攻撃だけでなく、テンポよくパスを繋いで崩す形も見られそうだ。

大嶽直人監督
大嶽直人監督写真:松尾/アフロスポーツ

【優勝の「その先」を見据えて】

 国内女子サッカーは、今秋、WEリーグ(日本女子プロサッカーリーグ)が発足する。昨季、なでしこリーグ1部で戦っていた10チームのうち、7チームがWEリーグに参入。伊賀も参入申請をしていたが、ホームスタジアムの基準となった「5000人以上収容」、「夜間照明設備」、「大型映像装置の設置」などの要件を満たすことができず、初年度の参入は見送られた。

 今後は、引き続きなでしこリーグで戦いながら、参入を目指して、ホームタウンの伊賀市と協議を進めながらスタジアムの整備に注力していくという。

 オフにはWEリーグとなでしこリーグの両リーグの選手が大きく動き、伊賀も27人中11人が退団した。その中でも、主力の多くがチームに残留。在籍11年目のDF宮迫たまみ、8年目のMF杉田亜未とFW小川志保。5年目のDF作間琴莉、4年目のMF森仁美とMF島野美央、3年目のMF西川明花とFW三橋明香ら、1部でプレーした経験豊富な選手が他のチームに比べてかなり多く、サッカーの軸がブレていない。

 新加入選手も10名と多いが、大嶽監督は、「技術的にしっかりした選手が多く、守備の戦術理解力が高い選手もいます」と、期待を込める。選手間の競争もチームの底上げに繋げていくつもりだ。

背番号10を背負う杉田亜未が2試合で2ゴール3アシストで攻撃を牽引
背番号10を背負う杉田亜未が2試合で2ゴール3アシストで攻撃を牽引

「相手によっても起用を変えていきますし、同じポジションの選手が2人いたら(パフォーマンスが)良い選手を出して、悪かったら交代します。今年は22試合という長丁場(*)で戦う中で、いろいろ変化を加えながらステップアップしていきたいと考えています」

 今季のなでしこリーグ1部は、昨季2部やチャレンジリーグ(3部)で戦っていたチームを含め、12チームが参加している。戦力とチームの成熟度を相対的に見れば、伊賀は今季のなでしこリーグで優勝候補の一角だ。

 大嶽監督がチームに要求する基準は高い。それは、なでしこリーグ優勝という結果だけでなく、「その先」を見据えているからだろう。

(*)昨年までは10チームだったため、18試合だった。

【2連勝を支える立役者】

 好調のチームを得点力で牽引する西川明花は、「みんながゴール前で触ったら決められるようなボールを入れてくれるので、感謝しています。個人的には、綺麗なゴールよりも、ごちゃごちゃした中で決める方が得意ですね」と、自身のパフォーマンスを振り返り、得意なヘディングでの2ゴールについて、「利き足は頭です」と口元を綻ばせた。

 味方がボールを奪った瞬間、西川の動き出しは速い。常にゴールを奪える位置を取り続けていることが、良いボールを呼び込んでいる。一方、ボールを失った瞬間の守備のアプローチも同じぐらい、速い。自分が奪えなくても、次の選手が奪いやすいように心がけていることもあるという。

「アプローチする相手選手が『ロングキックを蹴れる』とか、利き足はどちらかということも意識しますし、プレッシャーのかけ方は、練習中からしっかりコミュニケーションを取って合わせるようにしています」

 理想のFW像は、「チャンスの時にしっかり顔を出せる選手」。コンスタントに点を決め、頼られるストライカーを目指す。昨季は17試合に出場して2得点だったが、今のパフォーマンスを継続できれば、二桁得点と、得点王も見えてくる。

「得点(数)は意識していますし、リーグで優勝して、(皇后杯で)WEリーグのチームに挑みたいです」

 皇后杯はプロ・アマ混合の大会で、WEリーグのチームに挑戦するチャンスだ。

 チームを最後方で支えるディフェンスリーダーの宮迫たまみは、2試合無失点の守備について、全員がしっかりと集中力を維持できていることを挙げた。

 この日の試合はハイラインを保ちながら、無失点の守備を牽引。カウンターを狙われることも多く、上下動も増えるが、「ゲーム形式のトレーニングが多くて、常に走っています」と、日頃からボールを使った練習で体力を鍛えていることを明かした。

左から島野美央、宮迫たまみ、杉田亜未
左から島野美央、宮迫たまみ、杉田亜未

 FWとの1対1の場面で、DFが最後に足を出すタイミングやボールの奪い方には、その選手の経験が凝縮される。宮迫のプレーもやはり、その1対1に見応えがある。豊富な経験から確立した守備の秘訣を聞くと、「相手の動きよりも、ボールを見て対応しています」と教えてくれた。

 強度の高いプレーを続けながら、ケガで棒に振ったシーズンはなく、その体の強さも魅力だ。

「試合後のケアやリカバリーは、しっかりやるようにしています」

 自分の体と丹念に向き合い、長いシーズンを戦い抜く術を身につけてきた。

 宮迫は2008年にリーグデビューを飾り、INAC神戸レオネッサで3シーズンプレーした後、11年から伊賀の最終ラインを支えてきた。今年で創部45年目を迎えるクラブの歴史の一部を、数々の名プレーヤーとともに作ってきた選手だ。WEリーグ発足で、プロを目指すキャリアの選択肢もできたが、今は考えていないという。

「今、サッカーを良い環境でやらせてもらっているので、特にWEリーグでプレーすることにはこだわらず、このままやれたらいいかなと思っています」

 穏やかな表情だったが、言葉には力強い響きがあった。

 伊賀の選手たちはメインスポンサーである株式会社エクセディで雇用され、天然芝の専用グラウンドで練習ができる。そうした環境面を生かし、競技レベルでWEリーグに劣らない水準を目指していきたいところだ。

 伊賀はこの連勝記録をどこまで伸ばせるか。目の前に立ち塞がるチームが出てくるのか――。次節は4月10日、ホームのならでんフィールド(奈良県)に、アンジュヴィオレ広島を迎える。

 4月8日、11日にはなでしこジャパンがパラグアイ(宮城/ユアテックスタジアム仙台)、パナマ(東京/国立競技場)との2連戦を行う。また、24日からはWEリーグのプレシーズンマッチが始まる。4月は女子サッカーの注目試合が目白押しだ。

※表記のない写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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