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「能登には来ないで」の現実~能登半島地震2か月 第1回

山田健太専修大学ジャーナリズム学科教授
「のと里山海道」の崩落個所(筆者撮影、以下同じ)

能登半島被災地の大動脈である「のと里山海道」の再開区間延伸を受け、開通初日となる2月15日から、志賀・七尾・穴水・能登・珠洲・輪島と、半島被災地を一巡してきた。4日で1000キロを走った中で、メディアが伝えてきたもの、伝えきれていないものを確認する。

■悪路、積雪、余震

のと里山海道の一部は片側一車線通行
のと里山海道の一部は片側一車線通行

能登への大動脈は「のと里山海道」です。徐々に開通区間が増え、能登入りをした15日からは下り車線のみながら、穴水の手前まで行けるようになりました。これでアクセスはずいぶんとよくなり、金沢から輪島までほぼ2時間、珠洲までも3時間で到着します。ただし帰りは、いずれも下道(一般道)で戻る必要があります。それでもまだ、不通区間も多く、地面のひび割れは残ったままです。こうしたアクセスの悪さが今回の震災被害の大きな特徴です。その意味では、「来ないで」ではなく「行けない」現実が、目の前に広がっています。

通行止めが続く能登町近辺の道路
通行止めが続く能登町近辺の道路

さらに、これに積雪が重なるとひび割れが見えず、よりパンクの危険性が高まります。地元記者が2日に1回はパンクしたという報道も見られました。もちろん、余震もまだ続いており、ボランティアが能登入りするには悪条件が揃っているともいえます。また、ガソリンの高さも気になります。都内ではレギュラー150円台のところもありますが、金沢でも170円台後半、奥能登では180円台が当たり前です。国の補助の仕方に根本的な誤りがあるのではないでしょうか。

再開したJR七尾線
再開したJR七尾線

鉄道も15日から開通区間が延伸しました。のと鉄道は能登中島まで、JR七尾線は和倉温泉まで行くことができます。さらにその後も、徐々に再開区間を増やし、そろそろ完全復旧のめども立つのではないかと現地では話されていました。

JR金沢駅・新幹線ホーム 延伸駅名のシールがもうすぐはがされる
JR金沢駅・新幹線ホーム 延伸駅名のシールがもうすぐはがされる

JR和倉温泉駅・待合所
JR和倉温泉駅・待合所

不通を伝える掲示板
不通を伝える掲示板

一方で新幹線は、1か月後に控えた延伸準備が進んでいます。同じ駅待合室に、開業電子ボードと不通の案内が並んでいたのが印象的です。新幹線延長にあわせての北陸旅行の割引制度も発表されました。現地でも、旅館のなかには歓迎ムードがある一方、和倉温泉でもまだ復旧のめどが全く立たないなか、冷ややかな声も少なくありません。

■輪島

輪島朝市地区
輪島朝市地区

被災地の話は輪島地区から始めます。すでに多くの報道がされている輪島朝市ですが、想像以上の広範囲が焼け野原で、何も残っていません。2月24日の2回目の岸田首相訪問先も輪島朝市であったことからわかるように、今回の震災被害の象徴的な場所であります。政府は訪問に合わせ、伝統工芸品「輪島塗」の仮設工房を全額国費で4月中に開業させることや、住宅が半壊した世帯などに最大300万円を給付する交付金制度を導入し、同制度の財源を含めて2023年度予算の予備費から1,000億円規模の支出をするといいます。

同上
同上

輪島塗の復活は大切です。緊急支援も、すぐに、まとまった額を、という財政支援の鉄則に則ったもので否定しません。しかしどこかでモヤモヤが消えません。1つは、同じ自然災害のなかでも大規模被災で「ニュースバリュー」が大きいと手厚い支援策が打ち出されることの不公平感、まだトイレが使えない状況が続き、さらにいえば上下水道の復旧のめどが立たないなかで、必要最低限の生活インフラが置き去りになる歪さ、です。まだ地域の拠点病院でさえ、トイレが使えない現実があります。ただし財政支援の最大のポイントは「総額」で、そもそもの予算建てが、これまでの大規模災害に比べ桁が違うとの指摘に、政府はどう応えるのでしょうか。

同上(輪島朝市バス停前)
同上(輪島朝市バス停前)

住民やボランティアによる井戸の掘削や、田んぼの上を走る仮水道管の敷設もあり、着実に上水道の復旧は進んでいます。掘れば割合すぐに井戸水が出てくるので、飲料水は別として生活用水が確保できとても助かるという声を何度も聞きました。こうしたノウハウや備えは全国で共有して、特に震災後に復旧が遅れがちな(あるいは耐震水道管の敷設工事のめどがたっていない)地方集落においては、共同井戸の常設はもっと議論されてよいのかもしれません。

同上(燃え尽きた車の脇の電柱で延焼が止まった)
同上(燃え尽きた車の脇の電柱で延焼が止まった)

一方で下水道はもっと深刻のようです。各地で、せっかく電気も水道(上水道)も通ったのに、トイレが使えないという声もよく耳にしました。しかも下水道の復旧見通しは、まだ立っていないところも少なくないようです。興味深いのは、浄化槽を設置していたコミュニティは、いち早くトイレ使用が可能になったとか、家を建てたあとで下水道が通り、それを敷設するには家の床を全部あげる必要があって大工事になるため、引き続き浄化槽を使っていたのが今回功を奏した、という話も少なくありませんでした。こうした声を吸い上げて、今後の対策に生かしてもらいたいと思います。

同上(倒壊した建物)
同上(倒壊した建物)

テレビなどでよく報じられた、コンクリート建物の倒壊現場です。東日本大震災の宮城県・女川町の状況を思い起こします。女川は最終的に、根こそぎ倒壊した「交番」を震災遺構として残しましたが、今回の震災の記憶と記録を残すためには、どのような遺構が考えられるのか、少しずつ考える必要がありそうです。映像や文字だけでは伝えられないものが、実際のモノにはあります。現時点では、まだそのような議論は始まっていないし、そうした気分にはなれないような雰囲気を感じましたが…。

輪島港
輪島港

輪島・門前の海岸線
輪島・門前の海岸線

護岸の隆起も大変です。ちょうどこの週末から、輪島漁港の浚渫作業が始まったとのニュースが流れていましたが、トトロ岩で有名な輪島・門前の海岸も隆起で、岩が陸続きになっています。隆起に関しては徐々にその全貌についての調査も進み、応急措置としての漁船の撤去や、漁港の浚渫工事が始まってはいます。海外線の隆起は半島東側がその主たる対象地域ですが、当然ここには後述の志賀原発も含まれます。海底活断層の調査には年単位でかかるという見通しがすでに示されていますが、そもそも14年の再稼働申請の前提が大きく崩れたわけです。列島全体が活断層の上にあるともいえる日本でも原発の安全性は、イチから議論し直す必要性を海岸線は語っています。

輪島マリンタウン
輪島マリンタウン

輪島市内
輪島市内

市内マリンタウンにおける支援物資配布会場では、さまざまな救援物資とともに、新聞も配布されていました。北國新聞と北陸中日新聞の地元2紙の6日分が置かれています。両紙とも、発災直後の3日から(2日は休刊日)、避難所等での無料配布を続けています。街中では、災害ゴミの回収も始まっていました。

第2回に続く>

専修大学ジャーナリズム学科教授

専修大学ジャーナリズム学科教授、専門は言論法、ジャーナリズム研究。日本ペンクラブ副会長のほか、放送批評懇談会、自由人権協会、情報公開クリアリングハウスの各理事、世田谷区情報公開・個人情報保護審議会会長などを務める。新刊に『「くうき」が僕らを呑みこむ前に』のほか、『法とジャーナリズム 第4版』『ジャーナリズムの倫理』『愚かな風~忖度時代の政権とメディア』『沖縄報道』『放送法と権力』『見張塔からずっと~政権とメディアの8年』『言論の自由~拡大するメディアと縮むジャーナリズム』『ジャーナリズムの行方』『3・11とメディア』『現代ジャーナリズム事典』(監修)など。東京新聞、琉球新報にコラムを連載中。

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