静かな侵略者……外来同種の雑草たち
見た目は同じなのに、どこか違う。性格が変わってしまった。まるで別人に入れ代わったかのよう……
昔のSFによくそんなテーマがあった。古典的作品はジャック・フィニィの『盗まれた街』だろう。それを映画化した『インベーション』が近年公開されているし、現在上映中の『寄生獣』も同テーマかもしれない。
いわゆる「静かな侵略」テーマである。宇宙人が大挙して襲来、と言った目立つ形ではなく、ひっそりと地球に溶け込むような侵略。気がつけば、周りはみんな侵略者に入れ代わってしまっている……。
もちろん、いずれもフィクションだ。
だが、それとよく似たことが身の回りで起きているとしたら?
昨今、外来生物の跋扈が騒がれている。海外から入ってきた生物が、在来種を駆逐して日本本来の生態系を危機に陥れたり、農林水産業に影響を与えるなどして、問題になっているのだ。たとえば動物ならアライグマやヌートリア、魚類ならブラックバス、ブルーギルなどは有名だ。植物でもセイタカアワダチソウやオオキンケイギクなどは、よく目立つ。
これらの繁殖は大問題だ。気がついたら、昔から馴染みのあった魚や草花が姿を消し、旺盛な繁殖力を持つ外来種ばかりになってしまうかもしれないのだから。
だが、ここで取り上げられているのは、あくまで別種としての外来種だ。外国から持ち込まれた別種が、日本の在来種を駆逐する現象である。種は違っても、生活場所や餌などが重なっているため取り合いとなり、外来種が勝ち抜くパターンが多い。
しかし、「外来の同種」とでもいうべき種が知らぬ間に増えていることをご存じだろうか。
「目立つのは、エノコログサやヨモギなど。メヒシバなども多くが別物と入れ代わるか、在来種と交雑が進んでいます」
と指摘するのは、雑草学が専門の伊藤操子京都大学名誉教授。同じ草の種類なのに、近年は性格の違う「別物」に置き換わりつつあるという。
たとえばエノコログサは、ふさふさした穂が特徴で、どこでも見かける代表的な雑草だ。ところが、穂の形状や大きさなど細かな点で違ってきているのだそうだ。ヨモギも、その葉の放つ芳香が微妙に強く変わってきたらしい。
と言っても、その「どこか違う」個体と従来のエノコログサやヨモギが交配したら、ちゃんと実を結ぶ。その交配種同士も子孫をつくる。その点では、同種なのだ。危険視される外来種とは違っている。
一体、何が違うのか?
「たいてい外国産です。アメリカ産や中国産が多い。種としては同じエノコログサやヨモギでも、遺伝子的には微妙に違っているんです」(伊藤さん)
その多くは、輸入される濃厚飼料などに混じって日本に持ち込まれたらしい。それが家畜の糞とともに排出・散布される。あるいは土留め用も緑化植物として土木工事現場などに散布される種子にも混じっている。
面倒なのは、これが特定外来生物なら輸入禁止対象だし、そうでなくても別種なら注意が払われるのだが、日本在来と同じ種と認定されて持ち込まれると、まったく区別がつかないことだ。しかし、遠い昔に生育地域が離れて隔離されたまま代を重ねたため、遺伝子も微妙な点で変異してしまっている。形態が変わった場合はまだ区別がつくが、そうでない遺伝子レベルの差異だと見た目は変わらない。だが、どこか違う……。
先に例を上げたヨモギのように匂いが違うのは分泌物に違いがあるのかもしれないし、気候への適応度や繁殖力、病害虫耐性に差がつくかもしれない。
これをわかりやすく人で例えると、人類は地球上で1種しか存在しない。しかし日本人は黄色人種だが、白人も黒人もいる。白人の中にも,民族によって鼻が高い低いもあれば、金髪もいれば黒髪もいる。それぞれ地域で変異を起こして形態が変わってきている。しかし、人種間で結婚して子供をもうけることができるとおり、みんな同じ人類である。
もし、日本列島に住む人々が、気がつけば白人や黒人に入れ代わっていたら?
人類皆兄弟。それが由々しき大問題だ、とははっきり言えないかもしれない。また止められるものでもない。しかし、なんだかヘンだろう。
静かに広がっている雑草の「外来同種」の進出。
改めて種とは何か? 外来と在来の差はどこに設けるのか? と考えてしまうのである。