【すぎやまこういちさんを悼む】「仕方なく」東大 音楽でゲームを「レベルアップ」 そして伝説へ…
人気ゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズの音楽などを手掛けたことで知られる作曲家のすぎやまこういちさん(90)が、9月30日に敗血症性ショックのため亡くなりました。功績を振り返ってみます。
◇華麗な経歴 仕方なく東大に
すぎやまさんの死が10月7日に発表されると、各メディアがその功績をたたえて、さまざまな視点の記事を配信しました。また「ファイナルファンタジー」シリーズの音楽を手掛けた植松伸夫さんをはじめ、多くの関係者が弔意を示しています。
ヤフーの「みんなの意見」で「すぎやまこういちさんが関わった作品で、印象に残っているものは?」という質問に対して、ゲームに親和性のあるネットらしく「ドラゴンクエストの音楽」に人気が集中したこと以上に、回答に対する選択肢の多さに驚いた人も多いのではないでしょうか。
すぎやまさんは、音大ではなく東京大を卒業し、文化放送やフジテレビに入社。ディレクターとして「おとなの漫画」「ザ・ヒットパレード」などを担当しますが、30代半ばで退社。ポップス作曲家の草分け的存在として「恋のフーガ」や、「花の首飾り」などヒット曲を作り、グループサウンズの黄金期を築き上げた一人です。
そして競馬ファンであれば、中央競馬のG1レースなどで使われるファンファーレやマーチの作曲者であることも知っているはずです。ここにゲーム音楽が加わるわけです。もう一ついえば、アニメファンなら挙がってくるのが、「伝説巨神イデオン」の音楽を担当していたことでしょう。
そして、もう一つ。すぎやまさんはビジネス……、音楽の著作権、対価の重要性にも触れていました。お金の話は創作を続けるためには避けて通れないのですが、クリエーターが自ら言及しづらいところです。後進のために“道”を敷いた意味では、大きなものではないでしょうか。
◇すごすぎたゆえの難題
すぎやまさんが、ゲーム音楽にかかわることになった経緯は、あまりにも有名です。ゲームが好きだったすぎやまさんは、ゲームソフトのアンケートはがきを送り、担当者がそれに気付いて接触した「偶然」から始まっているためです。
当時のゲームは、若者が熱中するものの、「格下の遊び」として恥ずかしい趣味とみなす人が多くいた時代です。にもかかわらず、相当な実績のある作曲家が、わざわざゲームのアンケートに一人のユーザーとして意見し、ゲームの音楽制作という(当時は)“未知の仕事”を受けたわけです。当時のすぎやまさんの年齢は50代。人の目を気にして仕事を選んでも不思議ではないのに、先進的で柔軟な姿勢だったわけです。万人になかなかできることではないと思うのです。
しかも、作曲にかけた時間を聞いたときは、本当に驚きました。
別次元のクオリティーのゲーム音楽が完成し、「ドラゴンクエスト」は世に送り出されたのです。
すぎやまさんは、イベントなどでゲーム音楽のすばらしさをいつも強調していました。これだけ実績のある作曲家がそこまでゲームに肩入れしてくれるのか……と思ったものです。
そして「ドラゴンクエスト」シリーズは、ゲームとしてもヒットしましたが、音楽単体でも人気となりました。ゲームの本編シリーズは出るたびに数百万本売れるわけですが、ゲームの音楽CDを出しても20万枚以上売れ、ドラクエのコンサートが開催されると常に人気でした。ゲームをプレーすれば聞ける音楽に、ゲームファンは価値を見出して買い求めたのです。私もCDを購入した一人で、繰り返し聞いていました。
すぎやまさんの紡いだ音楽の力が、「ドラクエ」という作品の魅力を格段に引き上げ、他作品にも影響を及ぼしたことに異論のある人はいないでしょう。それはゲームにおける音楽の重要性を認識させ、各ゲームの質を「レベルアップ」させたことを意味します。ゲームをある程度遊んだ人であれば、ドラクエの音楽に何らかの影響を受け、数々のメロディーを口ずさめるほど思い入れのある人も少なくないはずです。
それゆえ「ドラクエ」の曲と言えば、すぎやまさんが手掛けるのが「当たり前」で30年以上続いたのですね。
同時にそれは、一つの難題を意味します。「ドラゴンクエスト」の曲を担当する“後継者”の問題です。すぎやまさんの年齢は、私でさえも関係者への雑談時に「どうするんです?」と口にしていたぐらいです。そして、当然ながら“後継者”は、ファンから比較され、厳しい目で見られるでしょう。これは避けようもありませんし、それでも歩みを進めるほかないのですが……。
少し前のお話ですが、すぎやまさんは、84歳292日で「最高齢でゲーム音楽を作曲した作曲家」としてギネス世界記録に認定されています。
公式サイトの「ドラクエ・パラダイス」では、先日発表した本編シリーズ最新作「ドラゴンクエスト12」(発売時期、対応ハード未定)が、最後の仕事になったことを明かしています。他のクリエーターがうらやむような経歴と功績は、一つの「伝説」として語り継がれるのでしょう。
ご冥福をお祈りします。