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どうしても、どうしても“あのベルト”が欲しい男

藤村幸代フリーライター
復活した“至宝”を狙い、5月1日・横浜文化体育館でトーナメントに臨む森井洋介

【男はベルトへの執着を隠さなかった】

「試合とは、相手との勝負。懸けられたベルト自体に意味はない」

「試合とは、自分との勝負。自分に勝ちたい。ベルトは後からついてくる結果にすぎない」

チャンピオンベルトの価値について、そう語る格闘家は意外に少なくない。

だが、もちろん、喉から手が出るほどベルトを欲する者もいる。その一人が、キックボクサー森井洋介(格闘技道場GOLDEN FIST/28)だ。

5月1日、神奈川・横浜文化体育館行われるキックボクシングイベント『ZONE(ゾーン)』で、森井はスーパーフェザー級(58.9Kg以下)のベルトを懸け、トーナメントに出場する。参加選手は4名。勝ち上がれば1日2試合、最大10ラウンドを闘うことになる。

試合の数日前に行われた記者会見でも、森井はベルトへの執着を隠さなかった。

――優勝するには1日2試合、闘うことになりますね。

森井 まあ、楽しみですね。ベルトが懸かっているので。ベルトを取りに行きたいので3試合でも、何試合でも大丈夫です。

――相手は、格上の森井選手を食ってやるつもりで来ると思いますが。

森井 自分は取りにいくという気持ちで行くので、格上とか格下とかは思っていません。とにかく、このベルトを取りに行くという姿勢を見せて、トーナメントに挑みたいなと思っています。

前日計量を無事クリアした森井。復活した至宝のベルトを巻くことはできるか?
前日計量を無事クリアした森井。復活した至宝のベルトを巻くことはできるか?

【突如消滅した老舗キック団体の至宝】

森井だって、ふだんは冒頭のコメントのように、ベルト自体にそれほど価値を置いていないかもしれない。

ベルトを懸けずとも現役ムエタイ王者や国内トップクラスと名勝負を繰り広げているし、最終ラウンドのギリギリまで捨て身で倒しにいくファイトは、いつだってベルト度外視、いや勝利さえ度外視とさえ見えてしまうほどだ。

それに、森井はもうキックとムエタイの国内ベルトを3本も巻いている。

では、なぜ、森井はどうしても、どうしてもベルトが欲しいのか。それは、今回懸けられたベルトが森井にとって、特別すぎるほど特別なベルトだからだ。

ベルトには「全日本王座」の名が冠せられる。この王座を管轄していたのは、「全日本キック連盟(全日本キック)」という団体だった。ルーツをたどれば70年代までさかのぼる老舗団体で、“キックの神様”と言われる藤原敏男を始め、幾多の名選手を輩出した。K-1ファイターの魔裟斗も、この団体から巣立った。

すべて過去形で書いたのは、この団体が2009年、突如として幕を下ろしてしまったからだ。

【大番狂わせを狙う3人の刺客】

森井が全日本キックでデビューしたのは2008年2月。痛烈な強打で20歳の若者はすぐさま頭角を現した。ところが、8勝1敗1分の好成績を残し、ランキング圏内に入ったところで、闘うリングが消滅してしまった。

森井の師匠は、外国人として初めてムエタイ王者となった藤原敏男であり、同門の先輩は、現役ムエタイ王者をKOした小林聡(現・さとし)だ。二人が伝説を作った同じリングで、二人が巻いた全日本のベルトを巻きたい。その目標は、永遠にかなわぬ夢として、半ば消えかけていた。

全日本キックの意志を継ぐべく王座を復活させた小林氏(左・4/27公開練習にて)
全日本キックの意志を継ぐべく王座を復活させた小林氏(左・4/27公開練習にて)

今回、「全日本王座」が復活した裏には、今大会『ZONE(ゾーン)』の代表である小林さとしの尽力があった。敬愛する先輩から託された「ベルト」という名の全日本魂、全日本戦士のプライドを、森井は何としても引き継ぐ覚悟でいる。

「トーナメントは後先を考えてはいけない。倒しにいくのが僕の中でのトーナメントの勝ち方です」

森井のコメントに、ヒヤリとする。最後まで倒しにいって大逆転勝利もあれば、大逆転負けもある。それが森井なのだ。

特に今回参加する残り3名は、“沖縄からの刺客”“元自衛隊レンジャー部隊”“老獪なムエタイ戦士”と、何やら大番狂わせの匂いが立ち込める面々。今回ばかりは安全策でいったほうがよいのではとも思うが、森井に進言しても「そんな闘いは全日本じゃない」と一蹴されるだけだろう。

歴代の全日本王者たちがそうであったように、終了ゴングの瞬間まで勇敢に闘い、その上で、森井は“あのベルト”を巻きたいのだ。

ZONE 4「原点回帰」

【日時】2016年5月1日(日)14:00開場/ 15:00本戦開始

(本戦開始前にアマチュアマッチ実施)

【会場】神奈川・横浜文化体育館

【注目カード】

◆全日本スーパーフェザー級王座決定トーナメント準決勝 3分3R(最大延長2R)

森井洋介(格闘技道場GOLDEN GLOBE/初代Bigbangスーパーフェザー級王者、WBCムエタイ&初代WPMF日本フェザー級王者)

vs

カズ☆仲村(真樹ジムオキナワ/元KING OF STRIKERSスーパーバンタム級暫定王者)

◆全日本スーパーフェザー級王座決定トーナメント準決勝 3分3R(最大延長2R)

サックスワン・GTジム(タイ/GTジム)

vs

ダイナモ☆レンジャー(契明ジム/INNOVATIONフェザー級8位)

◆全日本スーパーフェザー級王座決定トーナメント決勝 3分3R(最大延長2R)

上記の勝者が対戦

など全10試合

【チケット料金(当日券あり)】

ロイヤル席(柵内) ¥15,000-

VIP席 ¥12,000-

SRS席 ¥10,000-

S席 ¥8,000-

A席 ¥6,000-

フリーライター

神奈川ニュース映画協会、サムライTV、映像制作会社でディレクターを務め、2002年よりフリーライターに。格闘技、スポーツ、フィットネス、生き方などを取材・執筆。【著書】『ママダス!闘う娘と語る母』(情報センター出版局)、【構成】『私は居場所を見つけたい~ファイティングウーマン ライカの挑戦~』(新潮社)『負けないで!』(創出版)『走れ!助産師ボクサー』(NTT出版)『Smile!田中理恵自伝』『光と影 誰も知らない本当の武尊』『下剋上トレーナー』(以上、ベースボール・マガジン社)『へやトレ』(主婦の友社)他。横須賀市出身、三浦市在住。

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