「猫エイズ」を知って「どの子もいつかは病気になりますから」と里親になった飼い主。FIVは本当に怖い?
猫を飼い始めるときは、かわいくて元気な子をほしいというのが一般的です。その一方で、猫エイズを持っていることを知って保護猫の里親になる人もいます。
「この子、猫エイズを持っているんですよ。かわいいけれどね。それで里親が見つからなかったんです。長い間、保護施設にいてね」と飼い主のAさんは、微笑みながら説明しました。
筆者は「よかったね。コロちゃん(猫の名前)」と思いながら、キャリーバッグを見ていました。
Aさんは「自宅に来て、1週間ほどであまり慣れていないのですよ。爪を切ってもらえますか」と言って、筆者にキャリーバッグを手渡しました。Aさんと一緒にやってきた小学校低学年の息子さんは、心配そうにコロちゃんを見ていました。Aさんは、いろいろ調べられたと見えて、キャリーバッグの中には、洗濯ネットに入れられた(洗濯ネットに入っていると動物病院で暴れることを防げる)コローちゃんがいました。
筆者は、コロちゃんを刺激しないように診察室の照明を少し落として洗濯ネットから前脚、後ろ脚という順に出して速やかに爪切りを終えて、洗濯ネットのチャックを閉めました。
コロちゃんが落ちついていることを確認してから、顔を確認したら耳が垂れていました。つまりスコティッシュフォールドの血を引いているようです。
「スコちゃんですか?」と筆者が尋ねると「捨てられていたようで、保護施設で出産してそれから不妊手術をしたようです」とAさんは教えてくれました。
コロちゃんの耳をよく見ると確かに垂れ耳の先端が桜カット(不妊去勢手術したことが外からわかるように耳をカットします)されていました。
なぜ、猫エイズの子を飼ったのか?
筆者
「猫エイズを持っていると病気になりやすいですけれど、よく決心されましたね」
Aさん
「どの猫もいずれは、病気をしますからね。それが猫エイズだっただけということです。ネットで調べた知識はありますが、本当のことはよくわかっていませんので、ちゃんと教えてほしくて、今日、来院しました」
Aさん家族は、猫エイズ(正式名「猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症」)のキャリアの子(まだ症状は出ていない)を飼うことは医学的に正しい知識を持つことが重要だと知って、まずは、爪切りもかねて来られたのです。
このように意識の高い人が増えると保護猫が里親の元に行けることが多くなります。
猫エイズが発症してからだと、免疫不全の病気なので、治療効果が得にくいです。猫エイズのキャリアの子を飼う前に正しい知識を持つことは、大切です。
猫エイズの子を家に迎えるときの注意点
猫エイズの子でも無症状で生きている子がいます。そのためには、食事や環境を整えて猫のストレスを取り除くことです。そして、できれば他の猫に猫エイズを感染させるとよくないので、1匹で飼うようにしましょう。
毎日の食事と住環境はこの病気の進行に大きく関わると考えられています。そのため、栄養バランスのとれた食事を与えて猫の基礎体力を良好に保ち、猫が快適に過ごせる環境をつくってストレスを最小限に抑えてあげることが重要です。
猫エイズは、免疫不全なので、なにかおかしいな?と思ったら動物病院に連れていきましょう。
猫エイズってどんな病気?
ここで、猫エイズをざっくり説明すると、発症すると免疫力が徐々に低下し、最終的には死に至るおそれのある病気です。こう書くとずいぶん恐ろしく病気のように思うかもしれませんが、私たちの動物病院では、猫エイズウイルスを持っていたけれど、発症しなくて、15年以上生きていた子もいます。
猫エイズは以下の5つのステージに分けられます。
1、急性期
FIVに感染した直後、数週~数カ月を「急性期」といいます。この時期は、一時的にリンパの腫れや発熱、下痢といった症状がみられることがあります。
2、無症候キャリア期
猫エイズのウイルスは持っているけれど、無症状になる時期です。ストレスや環境などによってこの時期の長さが異なります。この時期の長さは数カ月~数年で、無症候キャリア期のまま一生を終える猫もいます。
3、PGL期(持続性リンパ節腫大期)
FIVに感染した直後のように、再びリンパ節が腫れ始める時期で、猫エイズを発症したと考えていいでしょう。FIVを持っていると、リンパ節が腫れます。飼い主が発症をわからないこともあります。
4、ARC期(エイズ関連症候群期)
FIVによって全身の免疫機能が低下する時期です。
口内炎や鼻炎、下痢、皮膚炎といったさまざまな症状があらわれるでしょう。口内炎の症状はわかりやすく水を飲む量や食べる量が落ちたりするのでわかりやすいです。
5、エイズ期
免疫機能が機能しなくなり、激しい症状が出ます。
免疫不全なので、日和見感染、さらに悪性腫瘍ができることもあります。食べられなくなるので、体重が落ちていき命が危険になります。
猫エイズの治療法
今のところ、猫エイズの特効薬はなく、対症療法です。
抗ウイルス作用のあるインターフェロンを用いた治療が取り入れられることもありますが、それだけで完治することはほとんどないです。
猫エイズが人間にうつることはない
エイズと聞けば、なにか怖い感じがしますが、猫エイズは猫同士だけで感染(交配、喧嘩など)する病気です。
猫エイズを引き起こすFIVと人間が感染するHIVは、似たような性質をもっているといわれています。しかし、人間がFIVに感染することもなければ、猫がHIVに感染することもありません。
まとめ
保護猫の中には、猫エイズのキャリアの子もたくさんいます。猫エイズがすぐには発症せず命の危険にならないことも多くあります。獣医学が進歩しているので、猫エイズのウイルスを持っていても、天寿を全うする子もいるのです。
つまり無症状の期間を長く保つといいのです。
意識の高い人が増えると、今回のように保護施設など比較的ストレスが多いところではなく、愛情が一杯の家族の元で育てられて長生きできる保護猫が増えます。医学的な正しい知識を持って保護猫を迎えてあげましょう。