今、世界が抹茶に夢中!宇治抹茶が海外需要の高まりを受けて品薄に!抹茶を手に入れるにはどうすればいい?
今、宇治の抹茶がとんでもなく品薄になっているのをご存知でしょうか?
近年、抹茶を含む粉末茶の輸出がものすごく伸びています。
しかし今年はなんだか様子が違う。
あまりにも抹茶の人気が凄まじい!!これは、なぜ???
このところ、茶道の先生方が「お稽古やお茶会に使いたくてもいつもの宇治の上級抹茶が手に入らない」と困っている声を多数聞いています。
10月くらいから宇治の抹茶が品薄になってきた話を耳にするようになり、今では個数制限をしたり店舗によっては抹茶を置かないようにするほど。
コロナ禍では抹茶を含む日本茶の市場価格が暴落し、今後を心配する声が多数だったのに、ここにきて突然のものすごい抹茶ブーム!
世界が抹茶の魅力に気づいてしまった??
今では、開店前に行列ができたり、抹茶の缶をお店に出すやいなや売り切れてしまうとか。
今回は、今後の抹茶の状況をデータや茶業に関わる専門家の方々のお話から考察し、私なりの対処法を考えてみました。
抹茶が手に入らなくて困っている茶道関係者の方にどうか届きますように!
海外で日本茶といえば「抹茶」
外国人から見て日本のお茶といえば「抹茶」。
抹茶以外のお茶があることもそれほど知られていないくらい輸出の増加も抹茶一辺倒で、北米を中心に近年抹茶の人気はかなり高まっていました。
データで見る抹茶の人気
輸出量から見ると、農林水産省の茶に関する資料では、このようにあります。
これはまだ昨年までのデータ。
今年は抹茶の輸出量がもっと増加していることと推察されます。
現に、日本茶輸出促進協議会の「2024年10月期日本茶輸出状況」(外部サイト)によると、EU諸国での抹茶の輸出量が5.82億円となり前年の同月の54.9%増。
うち、抹茶を含む粉末状の茶の輸出額は188.5%、輸出量は165.8%とあり、前年から随分と増えていることがわかります。
「EUでの抹茶ブームが本格化し始め、今まで抹茶にかかわりが少なかった茶専門店でも抹茶が取り扱われました」とあります。
これからもっと需要が高まりそうな気配が感じられます。
空前の抹茶ブーム到来!
そんな人気の高まりがこの秋、ピークに達したかのような未だかつてないほどの抹茶ブームで抹茶が品薄になる事態に!
それも海外の人が求めるのは、抹茶生産の歴史が古くネームバリューも高い「宇治」のもの、そして高価なもの。
そういったものから順に完売していくような状況には驚きを隠せません。
外国の方が抹茶をはじめ日本茶に魅力を感じてくれることは大変喜ばしいことで、国内需要は長い間減少傾向にある日本茶にとっては救世主のように感じることもしばしば。
ここ数年は、「日本茶AWARD」という品評会の取材などでも、抹茶だけでなく他の日本茶に興味を持ってくれる外国人も増えてきているように感じます。
しかし、抹茶がここまでの品薄になるとは、戸惑ってしまいます。
宇治の抹茶が足りない?販売制限をかけるほどの売れ行きに困惑
いまだかつてこんなことがあったでしょうか?
2020年コロナ禍では、茶道のお稽古もお茶会も中止になり、飲食店の営業も制限され、抹茶を含め日本茶も在庫が余り大打撃でした。
奈良の生駒市で茶筅を作る茶筅師さんも茶道での需要が減ってしまい、茶筅を作っても売れないという状況でした。
コロナ禍が明け、ようやく昨年半ばから少しずつ元のように戻ってきたと思ったら、まさかの抹茶が足りなくなるほどの海外需要とインバウンド需要!
茶筅も品薄になり作っても作っても追いつかないと聞いています。
夏頃にはお米が足りないという事態にもなりましたが、抹茶や茶筅までとは!
それも「宇治」の抹茶が特に引く手数多で大変な品薄に。
転売ヤーまで暗躍しているという話もニュースで見ました。
宇治在住の日本茶アドバイザーの方からは、お茶を買いにお店に行ったらたくさんの抹茶が梱包されマレーシアへと送られるところだったり、スマホの翻訳アプリなどで海外から抹茶を買いに来たり、そして高価なものからためらいもなく購入していかれるというお話も伺いました。
また、苦渋味の少ないうま味の多いものを!と購入していく方もいるとか。
この人気…どうしちゃったの?というくらい。
しかし、お茶会やお稽古で本当に必要としている人に抹茶が届かないというのは残念でなりません(転売はダメ!絶対!)。
ラテに使うお手頃価格帯のものやスイーツなどの製菓用はまだあるそうですが、高価格帯の上級の抹茶から品薄になっているのだそう。
もしかしたら抹茶をあまり知らない人からすると、「宇治」の「値段が高い」抹茶、イコール「美味しいに違いない」というイメージなのでしょうか?
抹茶の値段が高いのには訳がある
ところで、なぜ抹茶にはリーズナブルな低価格帯の抹茶から30グラム数千円以上の高価格帯の抹茶があるかご存知でしょうか?
高ければ美味しい、というイメージで見られがちですが、全てがそういうわけでもありません。
確かに高価格帯のものはうま味や甘味がしっかりと強く感じられるものが多いです。
なぜなら、
- 「被覆栽培」であること(これは「抹茶」すべてに共通)
- 一つ一つ手摘み(人件費がかかりますがクオリティの高い抹茶になります)
- 一番茶を使用(その年に初めて採れる新芽のみ)
- 肥料がたくさん必要(うま味を含む茶葉を育てるには肥料が多く必要)
というこの上ない手間がかかったものだから、価格も高くなるというものなのです。
そのことを知っている海外の方は「うま味の強いもの」で「苦渋味の少ないもの」、つまり高価格帯の手摘みのものを理解した上で購入しているのだとか。
本当に良いものは海外へ行ってしまって、日本には残らない可能性も…。
※抹茶用の茶葉の栽培から抹茶になるまでを過去記事「最盛期の京都で「宇治抹茶ができるまで」を体験!茶摘みから茶葉が抹茶になるまでを追う」でご覧いただけます。
では、低価格帯の抹茶は美味しくないの?
いえ、決してそんなことはありません。
低価格帯であっても、うま味や甘味は比較的少ないながらも爽やかさのある軽やかでおいしい抹茶もたくさんあります。
味覚は人それぞれなので、抹茶の濃厚なうま味が苦手な人もいます。
え?じゃあ、安い抹茶でいいんじゃない?
そう、実は抹茶はTPOに合わせて選ぶものなのです。
抹茶の選び方
茶道では最もフォーマルで格式高いのが「濃茶(こいちゃ)」です。
一般的にイメージされる泡の立った抹茶は茶道の世界ではカジュアルな「薄茶(うすちゃ)」です。
それに対し、二倍以上の抹茶を使い少量のお湯で練る、ドロッとしたテクスチャーのものを「濃茶」と言います。
濃茶が飲めるお店は日本茶専門店でも数は少ないため、濃茶を飲んだことがある人は茶道経験者または大の抹茶好きと少数派。
うま味を重視する濃茶では苦渋味の少ない手摘みの高価格帯の抹茶を使います。
濃茶用の抹茶を薄茶にして飲んでも良いですが、その逆、薄茶用の抹茶を濃茶で飲むことはおすすめしません。
低価格帯のものを濃茶にすると、うま味が少なく苦渋味が際立ってしまうことが多いからです。
抹茶を購入する際もお店の方に聞いたり説明を読んで「濃茶用に」とか「うま味が多い」とあると、濃茶用に作られた抹茶なのだとわかります。
逆にリーズナブルなものは機械で摘んだ茶葉を使用するものが多いのですが、だからといって品質に問題はなく、薄茶にするとおいしく飲めます。
そして一般的に製菓用やラテ用として売られている抹茶はその下のランクになるため、栽培方法や加工方法も違ってくるものもあり、薄茶で飲むには向かないものがほとんどです。
もちろん、高価な抹茶を使った特別感のあるスイーツも販売されていますが、一般的には抹茶はその用途に応じて選ぶべきものなのです。
お店で購入する際には「濃茶用」か「薄茶用」か、「ラテ用」または「製菓用」なのかをお店の方に伝えて購入するのが望ましいです。
なぜ今、宇治の抹茶は販売制限がかかっているの?
11月ごろから宇治で抹茶を扱う茶問屋では販売制限をかけるお店が増えてきました。
京都がインバウンドで混雑しているニュースは目にしていましたが、宇治も世界遺産の平等院鳳凰堂は元々有名で、今年は紫式部が話題になったり任天堂ミュージアムができたりと今観光客がどんどん増えているエリア。
宇治駅周辺や平等院までの通りにはたくさんの宇治抹茶を扱うお店や飲食店が並んでいます。
抹茶といえば宇治!というくらい国内外でその名前はとても有名で、海外でも「抹茶は宇治のものを」と求める人が以前から多くいました。
近年の需要の高まりにより抹茶の原料である碾茶の市場価格も少しずつ上がっていると聞いていましたが、今年は特に市場価格が上がり、夏には「抹茶の値段の高騰と海外需要もますます増えるのでは」との見解を示す生産者さんや茶問屋さんの声を耳にしたことも。
元々増えていた注文数が、秋に入ってさらに予想以上のものすごい勢いで大量の注文が殺到し、店頭でもすぐに売れてしまうようになっています。
碾茶を抹茶にするため石臼で挽いても挽いても、出来上がったそばから売れていく状況なのだとか。
「石臼」とありますが、抹茶は石臼で挽くのが一番良いとされており、現在でも宇治の茶問屋では石臼が使われているのです。
さすがに手で回すことはありませんが、機械化された工場の中に石臼が並び、一定の速度で自動で回って抹茶を挽く様子は圧巻です。
石臼の回転速度は決まっており、早すぎると石が熱を帯びて抹茶の味や香りに影響が出てしまいます。
そのため、どんなにたくさんの抹茶が必要でも石臼の回転速度を上げることはできないのです。
原料の碾茶も少なくなってきているようですが、原料があったとしてもすぐに大量には加工できないのが現状です。
これまでは在庫に余裕がある状態で注文が来たら発送できていたのが、今は在庫がない状況で毎日毎日石臼を回しても追いつかない、今までにないことが起きているのです。
11月半ばごろから、宇治や京都では多くの人が訪れるエリアの店頭販売の休止やオンラインショップでの販売休止をたくさん目にするようになりました。
首都圏でも近所のお茶屋さんに宇治の抹茶を買いに行ってみると、今ある在庫がなくなり新たに注文をかけたとしても2,3週間待ちになるとのことでした。
お茶会の抹茶が手に入らず困る茶道の先生方
SNSでも「お茶会の抹茶を買おうとしたら販売制限がかかってすぐに買えなかった」とか、私の茶道の先生からも11月の文化祭用に学生がいつも買うお茶屋さんに抹茶を買いにいったら「どういう使用目的で?」と大学の茶道部の文化祭だと答えたらなんとか購入できた、という話をたくさん聞いています。
新年を祝うお茶会である「初釜」の抹茶はなんとか手に入ったけど、このままだと春のお茶会用の抹茶は大丈夫なのだろうか?という声も多数。
来年度の抹茶の生産を待つにしても、通常は抹茶の茶葉は5月に茶摘みをして碾茶に加工し秋まで貯蔵して熟成させ、それから石臼で挽いて抹茶として販売するのが常(通年販売のものはこの流れとは違うことが多いですが)。
抹茶では新茶のフレッシュさより熟成によりまろやかでふくよかな味わいになったものを秋に楽しむのが元々の茶の湯の楽しみ方で、今でもそのようなサイクルになっています。
茶道の世界ではお茶のお正月とも言われる11月に石臼で挽き、「口切の茶事」というお茶会で今年取れたお茶(抹茶)を味わうのが醍醐味でもあるのです。
しかし、今の状況を見るとおそらく貯蔵していたものも少なくなっているのではないかと思われます。
来年度はもしかしたら秋を待たずして早々にその年とれたばかりの茶葉を使った抹茶が市場に出てくるかも…。
本来の味わいや楽しみ方と違う状況になりそうな、そんな気配を感じます。
この状況はいつまで続く?対処法は?
今の「抹茶バブル」のような状況はあと2,3年続くのではないかというのが茶業界の方々の見解です。
では、抹茶が買えなくて困っている人のために、いくつか私なりの対処法を考えてみました。
抹茶が足りない!そんな時の対処法
1.価格帯を変える
2.産地を変える
3.小規模な生産者や茶問屋で購入する
1.価格帯を変える
現在、宇治の高価格帯のものから品薄になっている状況です。
元々、高価格帯のものは手摘みだったりと元々の生産量も少ないため、年内に在庫が終了するものも増えてくると予想されます(実際にもう在庫がないものもあります)。
その場合はいつもより価格帯の低いものを探してみてはいかがでしょうか。
2.産地を変える
そうは言っても、濃茶用に使いたいのに抹茶を薄茶用のものにするわけにいかない…。
もし「お詰め(抹茶の茶問屋)」にこだわりがないのであれば、産地を変えてみてはいかがでしょうか。
実はこの抹茶ブームは現在は宇治の抹茶に集中しています。
宇治というネームバリュー、そして、まだ他の産地は海外の方にはあまり知られていないのがその理由ではと思われます。
そのため、美味しい抹茶を生産している福岡の八女の抹茶や、愛知県の西尾の抹茶は、数量制限がある場合もありますが、今のところ手に入るようです(2024年12月現在の状況です)。
他にも、玉露の生産地で有名な静岡の朝比奈や埼玉の狭山、三重県でも抹茶は生産されていますし、宮崎県や鹿児島県など実は多くの地域で生産されています。
濃茶用は全体数を見るとかなり少ないですが、薄茶用なら産地を変えればたくさんあります。
3.小規模な茶問屋などで購入する
でもどうしても宇治の抹茶がいい!という方には、小規模な茶問屋さんや生産者さんに問い合わせてみるのも一案です。
ある方の話によると、海外からの発注は大量なため、それに対応できる大手のところから購入することになることが多いとか。
小規模なところでは量で対応できないため、今まで通りの販売を続けているところもあるそうです。
茶道界隈では名の知れたある有名な茶問屋さんが11月に都内のデパートの催事にいらしていたので伺ったところ、「オンラインショップもなく店頭と催事のみでの販売なので今のところ在庫はまだあります」とのことでした。
また抹茶も扱っているがメインは煎茶を販売している小規模な宇治の茶問屋さんも今のところ抹茶はまだありますとおっしゃっていました。
もしかしたら今はもう品薄かもしれませんが、このような場合もあるのであきらめずに問い合わせてみてもよいかもしれません。
抹茶は賞味期限が短いものが多い
抹茶はパウダー状のため煎茶などのリーフの茶葉に比べて酸化が早く、賞味期限が短く設定されているものが多いです。
平均すると賞味期限は製造から半年ほどです。
そのため、一度に大量に購入してもそれほど長期間置いておくことができません。
買いだめはせず、本来なら必要な時に購入するのがベストです。
必要としている方に、抹茶が届くといいのですが…。
今後はどうなる?
近年、日本茶における輸出で抹茶は「独り勝ち」状態でした。
中国産の抹茶もクオリティが上がり、生産量も増えてきていると聞きます。
今後、国産の抹茶はどうなっていくのでしょうか?
「抹茶がなければリーフを飲めばいいのよ!」
とマリー・アントワネットの有名なセリフ「パンがなければお菓子を食べれば…」のパロディですが、私は真剣にそう思っています。
日本茶の輸出では、輸出量の1位のアメリカでは抹茶を含む粉末茶が多く、2位の台湾や3位のドイツでは煎茶などのリーフ茶が多い傾向にありました。
抹茶も海外需要は高まる一方、国内需要は実はそれほど増えてはいないと言われています。
ならばこの機会に、抹茶がないならリーフで飲む日本茶を楽しんでみるのはどうでしょうか?
日本茶には抹茶以外にも様々なバリエーションのお茶があることを、国内外の方にもっと知っていただきたい!
抹茶をきっかけに日本茶の魅力をもっと知る人が増えていったら、抹茶一辺倒ではなくバランスの取れた需要と供給になるのではと思っています。
この「抹茶バブル」はしばらく続きそうですが、最近お話を伺った宇治白川の碾茶生産者「辻喜」辻喜代治さんの「これまでどおり真摯に碾茶生産に向き合い、クオリティの高いものを作っていく」というお言葉や、同じく京都の和束の茶農家「細井農園」細井堅太さんの「いつもどおり頑張って品質重視でおいしいものを生産していく」というブームに踊らされない平常心が印象に残りました。
個人的には抹茶の品薄は困りますが、これが一時的ブームだったとしても日本茶の未来にとってある種の起爆剤となり、良い方向に向かうことに期待したいです。
次回は、抹茶だけではない「海外から見た日本茶の魅力」に迫ります。